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 おかしいな。田中先生の授業は午前で終わったのだが、先生、妙に疲れてたんだよな。いや、やっぱり、最初は誰でも疲れるか。出来るだけ俺もサポートもしたけれど、主席としてまだまだという事だ。ゴリラは何とか一日で帰ってきても、どうせまた後からやっぱり来てくれってなるだろう。そうすると次も田中先生かもしれない。なんか長い付き合いになりそうな気がするしな。その時は主席として一層頑張ろう。うんうん。


「対人に特化してるロシア校と、対人訓練用の式符。ボク結構興味あるんだよね」


「ああ。俺もだ」


「対人への短期決戦なら浄力は省けれるものね」


「あそこまで極端なのもありませんからねえ」


 そう、昼からは自習だから、犬君とロシア校がやりあうと聞いて、犬君の応援に来たのだ。


 これから行われることに感想を言い合う、チーム花弁の壁の皆。なおお姉様は手元の刀剣集を見ている。犬君の顔を見るのが未だに駄目らしい。お姉様可愛らしすぎね? あいてっ。でへへ。


 しっかし、確かに俺も尖りまくった対人特化のロシア校が、犬君相手にどうなるか興味がある。学園の生徒達も同じ気持ちなのだろう。テストが目前に迫っているのに、結構な数が見学している。


「それでは開始します! 起動!」


 ボフンと現れたるは、牡牛と戦う面構えに、槍と鎧甲冑を装備した槍足軽犬君。その雄々しい姿に、ロシア校の皆さんも……


『【ブ、ブルドッグ?】』


 困惑気だ。あっれー? 邪神クリニックで、それはもう厳つい凶相になったのにどうして? いや、可愛らしいと言われてないだけ、かつての豆柴フェイスよりかはましなのか?


「ぷふ」


 あ、お姉様がうっかり犬君を見てしまったようだ。マジプリティ。あいてっあいてっ。でへへ。


「バウッバウッバウ!」


 犬君が凄まじい速さで踏み込んだ! よーし行くんだ犬君! ロシアの皆さんに君の強さを見せつけるんだ! なにせ君は爽やかハーレム先輩を除いたら、二年生を殆ど全滅させた腕前の持ち主!


『【超力砲】!』


 は、はっや!? 予備動作なしで、しかも念弾の速さが尋常じゃない!


「くぅん……」


 犬君吹っ飛んだーーーーー!?


 い、犬くーーーん! 何やってるんだよ犬君! 真っ正面から突っ込んだらやられるに決まってるじゃないか! なにせ相手は、なんか妙な方向に伸ばしすぎちゃった対人特化のロシア校なんだよ!? つうかそれにしても早いなロシアの人!


「いや驚いたね。あの蜘蛛相手には、溜めて威力を上げてたから遅かったんだ」


「ほぼ予備動作なしであの威力か……」


「あれは……防げないかもしれないわ……」


 これには皆も、そして訓練場の人たちもざわつく。ありゃちょっと、俺らが想定している対異能者の初撃の早さじゃないな。


「貴明マネならどうする?」


「あれだけ早いと前に立てませんからねえ……」


 佐伯お姉様の言葉に悩む。妖異に対する威力のための時間を捨てれば、あそこまで早いのか。回転率が良くて、弾速も早い藤宮君の四力砲以上とは恐れ入った。結界も展開仕切る前に、術者に弾着するな……。


「ロシア校も最上級生でしょうから、こちらも最上級で考えるなら、戦闘会会長なら多分ゴリ押せるんですけど」


「確かに霊力者の耐久力なら耐えられそうね」


 我が校の戦闘会会長こと、半裸会長が体に纏っている霊力なら多分あれは効かない。ただでさえ身体能力が最も高い霊力者、それが高位の者になればなるほど、肉体の頑強性は主力戦車の正面複合装甲なんか軽く超えていく。だから、最上級生の霊力者にはおそらく効かない。


 だが……。


「高位の霊力者は数が少ないですからねえ」


「確かにな」


 藤宮君が同意してくれるが、ただでさえ出力が高く繊細なコントロールが必要な上、神仏なんて超越者の力を借り受けるのだ。制御をミスったらボンッだ。そのため霊力者の一流と超一流の壁は、四系統の中でもっとも分厚く巨大な壁と言われている。


 ちなみにその壁を、ほぼ独学で粉砕したのがゴリラである。あいつ本当に人間か? しかも聞いた話、全くなんも知らない時に出くわした妖異って大鬼っぽいんですけど。いや、流石に死に物狂いだったらしいけど、死地で覚醒して大鬼を殺るだなんて、やっぱりゴリラだろ。


 阿修羅阿修羅阿修羅阿修ラ阿修ラ阿リラ阿リラゴリラゴリラゴリラ。やっぱりね。証明完了。阿修羅イコールゴリラの方程式を見つけ出すなんて俺っち天才。


「それか貴明マネ流に言うと?」


「善良な呪術師に頼みます! まあそんなのいないんで、ちゃんと見積もりを出してくれるプロフェッショナルな奴になりますね。安かったり、お前の恨みを晴らしてやるからって言う奴はモグリなんで気を付けてください。どの世界でもプロへの金は高いんですよ」


 佐伯お姉様に、俺流、高位超力者の倒し方を聞かれれば答えなければなるまい! そう、呪術! 呪術を使えば、そんな初撃が馬鹿みたいに早い奴の正面に立つ必要なし! 遠距離からコソコソ一方的に攻撃できるのだ!


「生憎誰かを呪う予定は無くてね。いや、ちょっと待って。ゴキブリ式符を作った奴の口にゴキブリを詰め込む呪いってあるかい?」


「飛鳥、頼むときは私もお金を払うわ」


「い、いやあ、どうでしょうねえ。あは、あはは」


 ち、血走った目で俺を見て来る佐伯お姉様と橘お姉様。で、出来るには出来るんだが、あのゴキブリを作った奴は、学園長に頼まれて単に仕事しただけだからなあ……ゴリラはゴリラで、実戦でお姉様方がゴキブリ型妖異に出くわす前に慣れさせようとしている教育心だし……教育心であんなもん作らせるとか邪神か? 善意で人を地獄に叩き落すタイプだな。


「では次!」


 何とか面目は保ったとばかりな雰囲気のロシア校。なのだが、そもそも対人特化なんてやってることが、既に異能者として面汚し、とまではいかないが外れてるんだよな……。


 あ、そうだ忘れてた!


 もしもし犬君? そうです皆の頼れる主席四葉貴明です。今晩犬君の実戦デビューだよ! そうそうようやく。え、忘れてただなんてそんな事ないよ! ただちょっと機会が無かっただけさ! ほんとほんと。うん。ほんと。という訳で、今晩は頑張ってね! それじゃあ!


 ふう。誤魔化せた。

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