幕間 新米教師田中の憂鬱2
「えー、それでは出欠を取ります。伊集院君」
出欠を取り始める田中。勿論顔と名前は一致しないが、竹崎から直々に要注意人物について電話で説明されており、顔の確認は重要であった。
『田中、クラスの要注意人物を二人教える』
田中が聞いた学園長の言葉が蘇る。
そしてその要注意人物二人とは……一族至上主義者の南條でも、異能至上主義者の西岡でも、名家で爪弾きされている北大路でも、そしてなんと四葉貴明、小夜子夫妻でもなかった!
では一体誰か!
「如月さん」
「はい」
「木村君」
「はい」
チームゾンビーズ所属、五羽烏の如月優子! 木村太一! この二名である!
『この二人が目を瞑っていたら寝ているから起こすんだ』
そう! 教師としての要注意人物とは! 全く勉強をしようとしない奴の事なのだ!
他の馬鹿、マッスル北大路と、彼らに付き合って突っ込みを入れて偶にボケる狭間は言動が馬鹿なだけだが、この二人は別! 地の頭はそこそこいいが勉強が大っ嫌い!
そのためこの二人は、竹崎に要注意人物に指定されてしまったのだ!
「えー、四葉小夜子さん」
「はい」
「四葉貴明君」
「はい!」
(彼が最重要人物?)
『いいか、とにかく貴明には普通の生徒と同じように接するんだ。いい所があれば褒め、悪い所があれば指摘する。いいな、実技が出来なかろうが、突拍子の無いこと言おうがだ。教師としてそこからはみ出さなければいい』
元気な返事をした貴明に田中は疑問を覚える。この自分にいの一番に、教師として挨拶してくれた生徒が、竹崎がこれでもかと念を押す生徒なのだ。気にはなる。なるのだが、訳ありの訳を突くなと言うのは田中の代にもあった事だし、なにより竹崎の目が大マジで、彼はとてもじゃないがそんな勇気は持てなかった。
なお貴明の事を知った上で普通の生徒扱い出来るのは、世界中見ても竹崎だけな事を考えると、実はかなり田中に無茶振りをしていた。
とにかく、田中の目からすれば、貴明は気持ちのいい好青年にしか見えなかった。まあ、普段の貴明は実際そうなのだが。ちょっと個性的なだけで。
(そ、それよりも……)
そのため貴明よりも、もっと田中が注意していた、と言うかビビッていのは、むしろ小夜子の方に対してである。
鬼子、忌子、悪魔、鬼神。様々な呼び名が存在する桔梗の超越者。しかも未だに学園の単独者に、暇潰しと称してその暴力的な霊力を叩きつけているのだ。実際にそれを目撃して、小夜子の霊力に腰を抜かした者の1人としては、まさに彼女は危険人物中の危険人物であった。
だがしかし。
『あの、桔梗小夜子は……』
『小夜子の方は気にするな。貴明を普通の生徒として扱っていたら問題ない』
竹崎にきっぱりと問題ないと断言されてしまい、田中としては二の句が継げなかった。だが竹崎の発言には足りない部分があった。正確に言うと、田中は小夜子が興味を持つような存在ではない事だ。しかし、流石にこれを本人に言うのは忍びないと竹崎は黙っていた。
「えー、では授業を始めます。皆さんは二学期から、チームで普鬼と戦うことが予定されています。これは少鬼の延長上で戦える下位のものではなく、通常の普鬼です」
現在、少鬼相手に良いところまでいっている生徒たちは頷く。一部馬鹿以外。
余談だが、世界の敵、ゴキブリ型妖異の訓練札も普鬼の下位なのだが、こいつは藤宮雄一と橘栞の浄力に覿面に弱く、はっきり言って普鬼とは名ばかりの面汚し状態であった。佐伯飛鳥はどう頑張っても倒せないが。
「ではチームとして必要なものは何でしょうか?」
「はい!」
「では貴明君」
(助かるなあ)
そんなものは決まり切ってるだろと、元気に手を上げる主席四葉貴明。田中としても、シーンと静寂がもたらされることが無く、非常に助かっていた。
(やっぱり普通の生徒なんじゃ?)
そんな貴明に、安心感を覚えていた田中であったが、次の瞬間見事に打ち砕かれてしまう……。
「現金です!」
「ぶっ!?」
だがそんな堂々と手を上げた生徒が、これまた堂々と言い放ったのは、まさかの現ナマ発言である。
「そ、それはどうして?」
「はい! 現金があれば、装備、設備の準備、時間の捻出、外部への根回し、退職金による円満な、そう、円満なつい、じゃなかった、円満な解散、離脱が可能だからです!」
この四葉貴明と言う男、存在がファンタジーな癖に、思考思想はどこまでもリアリストであった。そう、現金があれば何でも出来るのである!
そして、最初は何言ってんだこいつはと思っていたクラスメイト達であったが、流石に一学期が終わりそうになる頃には、すっかり貴明の発言に慣れてしまっており、ぶったまげているのは田中だけと言う状況である。
「え、えーっと連携の確認とか役割分担とかは?」
「それは後でいくらでも出来ますが、初期投資による立ち上げは後々まで響いてきます!」
流石に田中も友情と努力の果てに勝利があるとは言わない。が、これはあんまりである。
これが竹崎なら、うんうん。私も若い頃に苦労したと頷くのだが、今現在とんでもない苦労をしている田中はそうはいかない。ただひたすら戸惑っていた。
「え、えーと、では、役割分担を決める上で大事なことはなんでしょう?」
「はい!」
「えー、えっと貴明君」
「はい! 現金です!」
もうそれは聞いた。聞いたが、田中としては進めるしかない。
「そ、それは何故?」
「はい! 現金があれば、役割分担上の不安な個所や穴を、余所から即戦力を引っ張って埋めることが出来ますし、その余所にも現金を渡すことで、円満な関係を維持することが出来るからです!」
「わ、分かりました。ありがとうございます?」
「はい!」
田中にしてみれば……こう言うしかないではないか……。
(学園長おおおおおお! 僕にはちょっと荷が重たいみたいですうううううう!)
哀れ田中健介。彼はたった数回の会話で、もう貴明が自分の手に負えない、と言うか、全く思考が違う存在だと気が付き、もう泣きが入ってしまうのであった。
だが大丈夫! 昼からは自習なので、午前を乗り切ればいいのだ! がんばれ健介! 負けるな健介! 地球の命運は君に掛かっている!
健介可哀想。
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