幕間 チームゾンビーズの活躍
「病院とか俺らだけじゃ無理だよな」
伊能病院に向かって疾駆するチームゾンビーズ。そんな彼らの1人、貴明曰、突っ込み役の狭間勇気がそう発言した。大きな国立病院である伊能病院を、彼ら五羽烏で守り切るのは無理に思えたのだ。
「もう誰かがいるに決まってるじゃん」
それに対して呆れたように返すのは、五羽烏の紅一点こと如月優子。尤も、四なら紅一点だが、現在は東郷小百合もいるので紅二点である。
「太一、何か分かることは?」
「なーんも分からへん。皆どうしてこんな虫型ばっかりとしか話してないっぽい」
リーダーであり、マッスルこと、北大路友治の言葉に、似非関西弁チャラヒモ男、木村太一は首を横に振る。木村の異能、いや最早権能と言っても差し支えない、日本以外の非戦闘系女神の能力、今回は噂の女神ペーメーの力を借り受け、関係者一同の噂で情報収集をしようとしたが、その関係者一同も何が起こっているか分からずに戦闘しており、詳しい事は全く分からなかった。
「それじゃあの三柱は?」
それに対して追加で質問するのは、五番目の烏、死霊術師、ネクロマンサー東郷小百合である。
なお、ここまでの彼らの愛称は全て四葉貴明によるものである。
「そっちも同じ。さっぱり」
「さもありなん。そんなものはどうとでもなるからだ」
太一の言葉に友治が頷く。
「それよりも問題なのは、私らが行ってもまともに相手されるかよね」
「確かに連携に支障をきたす恐れはある」
優子の言葉に友治も同意する。彼らゾンビたちは名家から出来損ない扱いされており、一部からいないものとして扱われているため、支援や連携をあてに出来ない恐れがあったのだ。
「ま、俺から言っておいてあれだが、なるようになるか」
「せやな」
「確かに」
「言えてる」
だがそんなことも大したことないと、いつものように彼らは、普段と何ら変わらず戦場へ向かうのであった。
「私もそれだけ気楽になりたい……」
東郷さんは……あれである。
そして彼らを待ち受けているのは……
◆
病院。そこは利用者の苦痛、悲嘆、死。それら負の感情が集まりやすく、そのため妖異を引き付けてしまう場所である。そのため満足な連携が無ければ、いかにゾンビたちでも……。
「出来る事と出来ない事は?」
が!
ゾンビたちの杞憂!
そう。病院と言う最重要拠点を任されている責任者が、一々落ちこぼれだの出来損ないだの気にする訳がなかったのである!
と言うか学園長が総指揮を執る現場で足の引っ張り合いなんかしたら
「拠点防御専門です。出来ない事は機動戦です」
「分かった。正面の後方に配置する。難しい事は無しだ。前衛の撃ち漏らしを防げ」
「分かりました」
伊能病院で最も危険なのは鬼門方向である。鬼門は雑多な妖異が無意識にやってくる場所であり、襲撃が起こった場合、最も数が押し寄せてくると想定されていた。
招集される実力があるとはいえ、学生をそんな危険地帯に行かせるわけにはいかない。だが機動戦が出来ないとなれば、何処か妖異が来る場所に配置せざるを得ないため、次いで妖異が来やすいと思われている病院正面、その後方に彼らは配置されることに決まった。
「なんか……こう、違くない? いや、言葉に出来ないんだけど」
「せやな」
「だな」
「確かに」
「いや、まともな対応されて何言ってるの?」
その対応に、なーんか思ったのと違うと首を捻る紅一点と、同じくなんだかよく分からないけど同意する残りのゾンビたち。
現場が有能なのは素晴らしい事である。
かくして彼らは、病院の防衛任務に就くのであった。
◆
が! 妖異なんか殆ど来なかった! たまーに来ても前衛の働きでゾンビたちまで到達出来たものは皆無!
「暇ね……なんか……こう、違くない? いや、言葉に出来ないんだけど」
「せやな」
「だな」
「確かに。プロテイン買ってきていいか?」
「いや、いい事じゃない」
ちょっと前と殆ど同じことを言っているゾンビたち。彼らもよく分かっていないが、こう、なーんか違う気がしていた。
だが、前衛にいる者たちにしてみれば、後方にいるゾンビたちは学生さんたちなのだ。撃ち漏らさないようにするのは当然の判断! しかも、どうも初実戦っぽい彼らゾンビたちに、実戦の空気を感じさせるだけにしてやろうという優しさと余裕まであった! 流石はしょっちゅう妖異の襲撃を受けている伊能市の実働部隊! 有能!
「うん?」
「どうした太一?」
そんな暇してるゾンビたちであったが、太一が眉間に皴を寄せて首を傾げた。
「なーんか街の中心の方で慌ててるっぽい。こっちには聞こえてこないけど、かなり大きな音が出てるから、大物がいるんじゃね? 的な感じ」
「ふむ。羽虫を纏める大鬼でも出たか?」
「げろげろ」
「閃いた! きっと虫の皇、蝗のアバドンよ!」
「日本滅ぶわよ……」
太一は街中が騒がしくなり始めたことを察知したが、それをゾンビたちは妖異たちの大本がやって来たと思っていた。
「ほげっ!?」
「ど、どうしたの太一君!?」
急に目ん玉が飛び出そうになった太一を小百合が心配する。
「ぎゃ、逆カバラと学園長がやりあってるっぽい!」
「はあ!?」
「なんだと!?」
「小百合、逆カバラってなんだっけ?」
「優子、留年って言葉知ってる……?」
太一が目ん玉飛び出しそうになるのも当然。この時学園長竹崎重吾と、逆カバラの悪徳であるベルゼブブの契約者が、プロレスリングで試合をしていたのだ。勿論ブックなしのセメントである。ついでにルールもない。もし興行を行った場合、冗談じゃなく世界中のありとあらゆる強者がチケットを買い求めるだろう。それほどの超ビッグマッチだったのだ。
「いや、気にはなるが、俺達の任務は病院の防衛だ。こちらに集中しよう」
「せやな」
「確かに」
「小百合。補習って言葉知ってる?」
「ああもう……」
だがそれは自分達と関係なし。今は課せられた使命を全うするのみと、改めて気を引き締めるのであった。
そしてついに…………
「学園長勝ったみたい」
「解散?」
「帰りにプロテインを買わなければ」
「睡眠不足はお肌の大敵なのよね」
「え、終わり? 本当に? え? え?」
学園長がベルゼブブを打倒したことにより、彼らは見事責務を果たしたのであった!
流石はチームゾンビーズ!
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