阿修羅対蠅の王
「かつての日本最強、竹崎重吾! 当時は興味があったが今となっ!?」
「【阿修羅
ぷぷぷ。ゴリラが戦ってる時にぺちゃくちゃお喋りする訳ないじゃん。代わりに俺がお話してやろうか?
阿修羅塵壊尽。または阿修羅塵皆尽。馬鹿みたいに高密度な霊力を超々振動させて相手に叩き込み、尽く、全てを粉微塵にする恐ろしい技だ。だが何よりも恐ろしいのは、一応人間の蠅野郎に躊躇せず使ったゴリラだろう。
生け捕りなんか全く考えていない、初めっからぶっ殺すという修羅の意志を感じる。だがまあ、逆カバラなんて面倒な奴、例えムショにぶち込んでもすぐに出て来て悪さをするのは目に見えてる。それなら最初から殺した方が後腐れも手間も面倒もないだろう。うむ。実に実戦的かつ合理的だ。剛力的?
「貴様っ!」
ぷぷぷ。不意打ち食らって怒ってやんの。卑怯汚いは誉め言葉ってね。
っていうかいいんですかねベルゼブブ様? そこ完全にゴリラの戦闘距離なんですけど。
「はあ!」
「おお!?」
ぎっりぎりでゴリラの拳を避ける蠅野郎。ぷぷ。くっそ焦った声を出してやんの。
「この戦いの作法も知らぬ野蛮な猿があああああ!」
ぷぷ、ぷぷぷ。ははははは。あっはっはっはっはっは!
もうだめ! だっはっは! 何言ってんすかベルゼブブ様! 戦いの作法だなんて、勝つこと以上に大事な作法ってあるんですか!? そう、ゴリラは今、誰よりも礼儀正しいじゃないですか! あと、猿は猿でもゴリラだよ!
「貴明大丈夫か!?」
「かなり無理をしたのかい!?」
「さあ怪我があったら見せて」
「いや大丈夫だよ!」
「でも皆に心配して貰って嬉しいでしょ?」
「はいお姉様!」
ゴリラが蠅を抑え付けているのを確認して、チームの皆がそれぞれ心配してくれる。まあ、ちょーっとだけ疲れたのは確かだ。バレない様に街中の怨念パワー吸い取ってもう元気だけど。
「何があった!?」
「学園長と、あいつは誰だ!?」
おっと、ゴリラと蠅が、ドゴンだの、バゴンだのデカい騒音を立てるから、周囲で戦っていた学園関係者が続々と集まって来た。
だが、ふっ。状況報告は主席たる俺の役目だろう!
「報告します! 推定、逆カバラの悪徳、ベルゼブブの契約者と学園長が戦闘中! 結界は解くことが出来ません!」
嘘だ。普通に結界は解けるが、今のゴリラと蠅の戦闘では、単独者でも足手まといになりかねない。ゴリラもそれが分かっているから、俺に結界を解けとは言っていない。
「なんだと!?」
「逆カバラの悪徳だって!?」
目ん玉引ん剝く関係者の皆さん。カバラの聖人はこの前存在が公表されたけど、逆カバラの方は依然変わらず、都市伝説の域を出ていないから当然だろう。
「【蠅の翅音】! 【蟲の死に針】!」
キイイイイイイイ!
うわ、精神錯乱を起こす翅の音だ。幸い俺の結界に阻まれているから他の人たちは大丈夫だけど、なかったら全員狂死していただろう。その上で滴る様な呪詛が籠った、針を持つありとあらゆる毒虫がゴリラに襲い掛かる。
「かっ!」
「な、なぜ効かない!?」
でもですねベルゼブブ様。そのゴリラ、ただでさえメンタル値が90オーバーなのに、戦闘中は無我の境地とか明鏡止水みたいな状態でですね。まあ、早い話効かないんですわ。なおゾンビ共は素で平気な模様。ほんとに人間かあいつら?
『キイイイイイイイイイ!?』
そして雑多な蟲共は、そもそもゴリラの身に纏った青い炎に燃やされ近付くことすら出来ない。
一方的じゃないっすか。大体どうしてゴリラに近づいたんですベルゼブブ? どう考えてもあなた様ってば、近距離向いてない遠距離タイプでしょ? あ、急に結界に閉じ込められていきなりゴリラに襲い掛かられましたもんね。なら一方的になるのは当然ですね。ぷぷ。
「最早慈悲など掛けん!」
出たよ。負けそうなのに、今までは自分が油断してたから押されてた発言。典型的な三下になってますよベルゼブブ様!
「我が真の姿を見るがいい【
アララと同じで巨大化したモードになれるんだな。猿君とほぼ同じ、20メートル前後の蠅、赤く発光する複眼、その頭には溶けたような煤けた王冠、だが何より目を引くのは、全長の更に倍ほどもある超巨大な翅だ。
つうか端的に言ってキモイ。吻の部分とかニョロニョロ動いてるし。
だが行ったことは凶悪! その巨大な翅がソーラーパネル、今は夜だが、の様に街中の負の感情を集積して、それをレーザーの様に撃ち出したのだ!
うん? なんかもったいぶって変身した割に威力がああああああ!? すいませんベルゼブブ様! 疲れてたもんで街中の負の感情、僕が吸い取っちゃいました! だから妙に威力が低いんだ!
しかし、アララもクジャクの羽の目からレーザー出してたな。流行ってんのか? 俺もやるか? やっちゃうか? 全身に目玉を生み出して怨念レーザー出しちゃうか?
「阿修羅よ!」
おっとゴリラもフルスロットルだ。
「おおおおおお!」
かつて猿君とやり合ったときと同じく、青く燃えながら顕現せし阿修羅もまた巨体。正面、闘。左、闘。右、闘。その三面に喜怒哀楽一切なし。ただ闘の一文字こそ相応しい。
「【阿修羅
うわあああああ!? な、なんてエネルギーなんだ!
阿修羅が広げた六本の腕に、それぞれ六道、即ち、天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道の力が宿り、それが六腕を巡りながら回転、循環して、途方もないエネルギーに昇華されていく!
「行くぞ!」
そしてなんと、突っ込んだのは阿修羅ではなくゴリラ本人! その途方もないエネルギーを体に纏い、蠅のレーザーを真っ向から受け止める、どころかレーザーを切り裂いて巨大な蠅にその拳を……!
「滅せい!」
「こ、こんな馬鹿な事が……!?」
蠅野郎の顔面に叩きつけて、そのエネルギーを全て注ぎ込んだ!
「ぎっ!? ぎいいいいいいいいいいいいい!?」
仏法守護者阿修羅の極大霊力なのだ。蠅野郎にとって猛毒と言うのも生ぬるいだろう。その霊力は至る所から噴き出し始め、それは次第に青き炎となって蠅野郎の全身に燃え広がる。
そして……力無く落下して……燃え尽きた。
『おおおおおおおおおおおおおおおおお!』
周りの皆さんが沸き立つ。恐らく歴史上初めて表に出て確認された逆カバラ、それが今日、この日、カバラの聖人でもない一人の人間に敗れ去ったのだ。
そして蠅が燃え尽きたにもかかわらず、未だ残心を解かないゴリラ。
最早元など不要! あれこそまさに日本最強! 阿修羅、竹崎重吾!
いやあ流石ですね学園長!
それにしても……面倒がってた縁談攻勢強まるんじゃないですかね?
さて、と。
◆
「はあ! はあ! はあ! 核となる予備の虫をロシアに隠していなければ死んでいた!」
「ベルゼブブ様、大丈夫でしょうか!? 具合がとても悪そうですけど!?」
「敬老精神に溢れてるなんて素敵よあなた」
「いやあ、でへへ」
「なんだと!?」
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