■■■対■の王

「次は三体! 推定小鬼!」


「分かった!」


 覚妖怪が爆散した後、小鬼を一体や二体狩り、今もまた三体のトンボ型妖異に接敵した。


「ふう」


 瞬殺!


「本当に虫型が多いね」


「そうね。しかも羽を持ってるものばかり」


 佐伯お姉様と橘お姉様が訝し気だが、お二人の言う通り蜂だの蚊だのトンボだの、やたらと羽虫が多い。


「俺も気になるが、現場は現場の事をやるぞ」


「ま、確かにね」


 流石は藤宮君、クールだ。確かに彼の言う通り、今は妖異の数を減らすことが先決だろう。


 っ!?

 ま!ず!い!


「特鬼以上! 撤退!」


「え?」


「あらあら。アララってね」


 この感じた気配! 明らかに阿修羅じゃない通常状態の猿君を凌駕している! しかもここでお姉様が戦った場合、佐伯お姉様達じゃ巻き込まれたら耐えられない!


「虫が!?」


 タールで強化された体で、ポカンとしている佐伯お姉様達を抱きかかえて撤退、遅かった!


「女。貴様、なんだ?」


「またこの問答するの面倒なのだけれど」


 小鬼にも満たない様な雑多な虫型妖異が集まり、肌が真っ青な40歳代くらいの西洋人が現われ、お姉様に対して問いかける。


 日本語じゃないのに意味が分かるという事は、バベルの塔崩壊前に使われていたとされる言語と同じ類、つまり神仏の類の契約者か当の本人!


「っ」


 蜘蛛君や猿君の様に、気配を漏らしているわけではない。だが生物としての格の違いを感じ取ってしまった他の皆は、金縛りにあったかのように固まっている!


 どうにかしなけ……脳内に電流が走ったぞ! 羽虫の集合で現れたという事は!


「あのー、羽虫の、群体型の極みと言えるようなあなた様は、ひょっとして逆カバラのベルゼブブ様、その契約者様ではありませんか?」


 多分間違いない。群体型の極みである、アバドンの契約者は聞いたことなんかないけど、逆カバラのベルゼブブも多分似たようなことが出来るはず。つまり目の前のこいつ!


 そして注意を俺に逸らしながら、ハンドサインでチームの皆に撤退の準備を促す。


「小僧、見所があるな」


 イエーイちょろいわ。このまま注意を引いてチームの皆が逃げた後、お姉様か俺がこいつを結界に取り込んでけちょんけちょんにしてやる!


 あ、待てよ。あの約束してたな。


「そのー、本日はどのようなご用件でしょうか?」


「ふむ。当てたなら見逃してやってもいいぞ」


 こ、この野郎上から見やがって! しかも断言してねえ! はっ!? また脳に電流が走った! キーはロシア校だ!


「えーっと、世鬼の訓練符を見に日本に来たけど、たまたま寄ったこの街で、スラブ人の多いロシア校の人たちが、一神教の力を使うのがむかついた感じですかね? ほら、ベルゼブブ様ってスラブ神話のベロボーグもルーツの一つで、しかも一神教はベルゼブブ様の事を堕落させましたし」


「驚いた。よく分かったな」


 しょうもねえええええ! そんなしょうもない事でこんな大事起こしたのかよ! ちょっとイラっとしたから小石を投げた感覚なんだろうけど、これだから神も悪魔も嫌なんだ! しょうもない事に拘って、しかもやる事が禄でもない上、人間では訳の分からん理由で行動する!


「では正解した褒美として苦しまない様に殺してやろう」


 やっぱりな!


 俺も約束はどうしたなんか言うつもりもない。気分で動くのは神のお家芸だからな!


 もはや事ここに至っては俺の必殺技を使うしかない!


「お姉様?」


「私の方はあんまり興味ないわね」


 よし。お姉様はこいつに興味ないようだ。


 ならやるぞおおおおおおお!


 俺は悩んだ! 人前ではちょーっとだけ見せられない、世間一般では悍ましき邪法の数々を秘めたこの俺が、どうやったら主席として実技で活躍出来るかと!


 そして第二形態を人間形態で使用した失敗と反省、度重なるイメージトレーニングにより、俺はついに人間形態のまま第一形態の力をちょっとだけ使うことが出来るようになったのだ! そう、呪術とはあんまり関係ない技を!


 見るがいい! 我がひっさっつうううううううう!


「はああああああああ!」


「なんだ!?」


 蠅野郎が、心底おったまげたと辺りを見回す。


 伸びる、伸びる。


 奴の周りを取り囲む。


「こ、これが貴明マネの!」


「す、すごいわ」


「流石だ貴明!」


「ふふふふふふふふふ」


 普段なら妄想的シチュエーションか夢オチなんだが、今はマジでチームの皆が感嘆の声を漏らす。


「縄だと!?」


 単なる縄じゃねえぞ! 隔てるは現世と常世! それこそが注連縄!


 注連縄を奴の四方四面に張り巡らせ結んで完成した!


 これぞ!


「【四面しめん注連縄結界】いいいいぃいいいぃぃぃ!」


 空中に浮かんだ注連縄に、奴は完全に閉じ込められた!


「なんだこれは出られん!?」


 結界内で暴れる蠅野郎だが、この世の肉体に、契約神ベルゼブブはあの世の奴にとって、常世と現世を隔てる結界は覿面に効いている。


「そこはこの世であってこの世でない場所! お前如きではああああ!


 ほぼ正方形に張り巡らされた結界。奴は出鱈目に紙垂とお札を張られた注連縄の中に閉じ込められたのだ!


 そしてえええええええ!


 第一形態のもう一つの能力、物体の移動を結界内で行う!


 パン!パン!


「いでませい!」


 拍手を二回!


 約束してたかんな。あとよろしく!


「学園長!」


 そう! 呼ぶのは我らがゴリラ学園長!


「【阿修羅闘印】!」


「お前が竹崎重吾かあああああああ!」


「【阿修羅塵壊尽】!」


 流石はゴリラだ! 急に転移させられて訳も分からんだろうに、即戦闘態勢、どころか自分にバフを掛けてそのまま目の前の蠅に殴り掛かった!


 今この結界内は、学園長と蠅野郎のリング会場となったのだ!


 ふう、これでゴリラが相手を必ず殺す技は成功した。阿修羅対蠅の王。どこでやっても満員御礼。チケットは即完売だろう。


 あうぉこぅなぁー、ゴリーラー

 あかぁこぅなぁ、はえぇー

 ファイッ!


 いやしかし……疲れた。


「あなた、お疲れ様」


「貴明マネ!」


「貴明君!」


「大丈夫か!?」


「いや大丈夫だよ」


 ちょっと人間形態で第一形態の力使ったから、疲れてへたり込んでしまう。ちょっと無理したな。


 さて、勝ったなガハハ。帰って風呂入って寝よ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る