物騒な青春 チーム花弁の壁の初実戦

 あれから平謝りする橘お姉様のお部屋を後にして、自宅に帰った俺とお姉様。帰り際にゴキブリ除けの呪いを掛けた俺はまさに、チーム花弁の壁ゴキブリ係として完璧な仕事をしたと言わざるを得ないだろう。


 なんだメール? 花弁の壁の誰かかな?


「あら私も」


 お姉様にもメール? やっぱり花弁の壁の誰かだな。佐伯お姉様が今後の予定でも送って来たのかな?


 えーっと、なぬ、学園からのメールだと? なーんか嫌な予感してきたな。ほげっ!? 学徒動員の非常招集やんけ! なんでやまだ満月の日とちゃうやん! あれ、俺どうして関西弁を?


「ふふ。楽しくなりそうね」


「そうですねお姉様!」


 何はともあれ、お姉様との深夜デートだ!


 ◆


「やあご両人」


「今日また会うとは思っていなかったわ」


 ダッシュで集合場所に向かっていると、佐伯お姉様と橘お姉様の二人と合流した。どうやらお二人にも前回と同じように招集が掛かったらしい。橘お姉様の頬がほんのり赤いのは気のせいではないだろう。うーん美人。


 って、あれ? 住宅地をジャンプしながら最短距離を突っ走ってるこの気配は……。


「合流出来たな。とりあえず集合するのが先決だと思って走っていたが、あちこちで関係者が戦っている様だ」


「藤宮君!」


 その人物こそ、前回の非常招集にはいなかったマイフレンド藤宮君!


「なんだい。チーム花弁の壁は全員呼ばれたんだね」


「ならチームで動くことになるでしょう」


 なんてことだ! チーム花弁の壁の全員が揃うだなんて、これはもう解決したも同然だ! 何が起こってるかさっぱり分かってないけど。


 そして俺達は集合場所に指定されている、街中央の臨時野戦指令所に到着した。


「学園長、集合しました」


「急に招集をかけてすまんな」


 リーダーである佐伯お姉様が、指揮を執っているゴリラに報告をする。


「状況を説明、北大路たちも来たか。こっちだ」


「遅れました」


 おっと、ゴリラが何が起こっているか言う前に、チームゾンビーズがフルメンバーでやって来た。どうやら招集されたようだが、流石の彼らも真面目顔だ。まあさもありなん。どっかの重要拠点に置いておくだけで、そこの安全は殆ど約束されたも同然だからな。


「状況を説明する。多数の妖異が突発的に市内に多数出現しており、現在これを撃破するために各地で戦闘が起こっている。北大路の班は伊能病院の防衛、佐伯の班は遊撃だ。現在分かっているのは、虫型の妖異が主体という事だけだ。何らかの高位の存在による攻撃も考えられる。気を引き締めて臨んでくれ」


「はい!」


 うーんこれは大ごとだな。新月満月でもないのに、市内に妖異があふれてあちこちでドンパチやってるとは、ゴリラの言う通りなんかが関わってる可能性があるな。


「なお、ロシア校が主体的に手を上げてくれたので、予備戦力として控えている」


 おっと、ロシアの皆さんも参加するつもりのようだったんだな。だが、急な実戦では土地勘も連携も無いから、あくまで緊急時の予備兵力なんだろう。


「貴明」


「はい学園長!」


 皆がいざ出陣と息巻いているところ、学園長に手招きされて近寄る。


「何か感じるか?」


「うーん……これと言って強い恨みは今のところ感じませんね。あ、虫ってイナゴだったりします?」


これ本当。今んとこゲロゲロな気配は感じない。


「怖い事を言うな。アバドンなんて大物の力を使えるなら、それこそ逆カバラ並みの奴がいる事になる」


 大事には大物が絡んでいるのがお約束だから、その候補を上げると学園長がくっそ嫌そうな顔をしていた。ま、流石に無いだろ。無いよな?


「もし万が一の場合逆カバラ並みのがいたなら、私に連絡をしてくれ」


「分かりました。でもお姉様がつまみ食いしちゃうかもです」


「それでもだ。小夜子は面白みがない相手は、ポイ捨てする可能性が非常に高いから困る」


「まあ……」


 お姉様の事よく分かってるな。ゴリラの言うことは非常に高い可能性で起こるだろう。だが、ゴリラの立場でそれは困るのも確かだ。


「じゃあ自分の可能性も」


「それでもだ。学徒動員しておいてあれだが、逆カバラを学生に相手をさせたとあっては、私の面子が立たんのだ。ここは私の顔を立ててくれ」


「分かりました」


 自分を卑下せんでも、そういうの僕は好きですよ。


「よし行ってくれ」


「はい!」


 そうか、逆カバラの可能性もゼロではないかと、唸りながら本部に戻るゴリラ。

 うーむ。闘気が天へと渦巻いている。天使や悪魔と契約したカバラなんていう、外部電力を持っている例外を除けば、マジで人類最高峰なんじゃあるまいか。そのカバラにも勝てそうなのがまたヤバいんだけど。でも本部の人たちはそんなゴリラの圧に引いてる。やっぱ空気読めねえよなあのゴリラ。


「よしじゃあ行こうか」


「ええ」


「ああ」


「はい!」


「ふふ。素敵な夜になりそうね」


 こうして俺達チーム花弁の壁は、市街地に打って出るのであった。そこで待ち受けるものとはいったい……。


「しまった。急に呼び出されたからプロテインを飲んでないぞ」

「そこらのコンビニで買っとけ」

「せやな」

「小百合、お化粧崩れてない?」

「ああ緊張感が……」


 本当だよね東郷さん……。


 ◆


 夜の街の道路を疾駆するチーム花弁の壁。


 ぬおおおおおおお邪神ダッーーーーーシュッ!


 説明しよう邪神ダッシュとは、橘お姉様の浄力によるバフを受けられない、呪力で身体能力の底上げが無理な俺が編み出した、皆に遅れないための術! 全力ダッシュの事だ!


 ぜーはー!ぜーはー! だめだ赤血球が足りない! 黒血球を足してって、もうめんどくせえ! 血管に直接タール流し込んで、筋繊維も猿君みたいに補強しよう!


 スピードアーップ!


 む、この感覚そこか!


「敵発見! 推定小鬼が2体! 呪詛的反応なし!」


「了解!」


 チーム花弁の壁での俺の役割はマネージャー、偵察、索敵、並びに嫌がらせ。それは実戦においても変わらない。今も路地裏にいるであろう妖異を感知して報告する。


「ふふ。みんな頑張ってね」


 お姉様はお姉様だ。流石ですお姉様!


「見つけた! 蜂型、針に注意!」


 路地裏でブンブン飛んでたのは、全長一メートルくらいの蜂型妖異。ギラリと尻尾から針が飛び出ている。


「【六根清浄大払】」


 橘お姉様が、対妖異における基礎の基のバフを皆に掛ける。俺とお姉様以外。事前に俺は他人の異能を受けるとまずい体質だと説明しているので、浄力で溶け出す心配はない。俺も橘お姉様の浄力受けてみたかったんだけどなあ。


「【四力結界】」


 そしてほぼ同時に藤宮君の四力結界が展開される。がはは勝ったな!


「【麗しき冷気の音】!」


『キイイイイ!?』


 キインと冷たい金属音の様なものが路地裏に鳴り響く。そして佐伯お姉様が唱えた魔法により、超局地的な寒波が音を媒介にして解き放たれ、蜂共は何もできずに霜を纏って溶け消えた。


 つえええええええええええ! チーム花弁の壁つええええええええええ!


 訓練じゃ三人とも小鬼如き一対一なら倒せるけど、これはマジに命の掛かった実戦! それがどうだこの安定感抜群の戦い方は!


 チーム花弁の壁最強!


 でも出来れば俺も妖異をけちょんけちょんに……使っちゃうか? この世の怨念まき散らしちゃうか?


 は!? 新手だ! 路地裏の向こうから妖異がやって来る!


「推定少鬼が接近中!」


 気を引き締める花弁の壁の皆。少鬼もまた皆訓練では倒しているが、それでも小鬼と少鬼の間には大きな差がある。


「ひひ。今お前」


 なに!? この感覚は!


「皆! こいつ覚妖怪だ!」


「なに!?」


 こいつ、街中の喧騒に引かれてやってきた別口か?

 虫ばっかりだと思ったら、猿君の様なヒヒの姿をした覚妖怪が現われた! 間違いない! なにせトイレ中にドアを開けられた時の様な感覚がしたのだ! そう、あれは急いでトイレに駆け込んだせいで鍵をかけ忘れて、お袋がやって来た時の感覚!


「訓練の時とは違って心の傷を抉って来る! 心を強く持って!」


 こいつは猫君の時と違って、遠慮なく皆が持っているトラウマをほじくり返すだろう! そんな事させんわあああ!


 見るがいい! 俺様が新たに生み出した必殺技を披露してくれる!


 はあああああああああああ!


「かちゅああゆもつずがうまぐぐかわらおおわんあわえふおおおおおおおおおおお」


 ってあれ? なんかカタカタ震え始めたと思ったら、体から体液まき散らして爆散したんだけど。


「流石だね貴明マネ。覚妖怪の対策もバッチリか」


「はは。あはは。そ、そうなんですよ! でもちょっと人には言えなくて!」


 佐伯お姉様に褒められたのだが、全く心当たりがない。いや、猫君に聞いたら何かわかるかな?


 もしもし猫君。そうです。現在皇帝親征中の四葉貴明です。覚妖怪が俺の心を読んだら爆散したんだけど、なんか分かることある? え? だから俺の心なんて絶対読まないから分かりっこない? でも間違いなくそのせい?


 一体何が起こったんだ……





 ◆


 報いあれ死あれ呪いあれ災いあれ禍あれ厄あれ苦痛あれれれれれれれれれれれ怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨恩呪呪呪呪呪呪呪呪祝呪呪呪呪呪呪呪

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