青春の一幕 人の事は言えない学園長

 ゴキブリにキモイとか言われたんだけど、え、邪神ってゴキブリ以下なの?


「やはり貴明に恐れて出てこんか。それはそうと、佐伯を含めて何名かは慣れるまで何度でもだな。心に傷があるならともかく、生理的嫌悪間で嫌だはダメだ」


「ふひ、ふひひひ。神は死んだ……貴明マネ、ボクの遺骨は北極に埋めて欲しい。そこならアレは出てこない……がく……」


「さ、佐伯お姉様ああああ!」


 ってそれどころじゃねえ!

 ゴリラあああ! 佐伯お姉様が死んでしまわれる寸前じゃねえか! 正論だけど言っていい正論と悪い正論があるんだよ! 二足歩行する人間大のゴキブリと戦えだなんて全人類の9割が断るわ!


 あ、向こうは伊集院君が不動明王の力でニュー蜘蛛君と戦ってる。伊集院君頑張えー。猫君と違って不意に不動産王なんて言ってこないから大丈夫だよ。


「次は藤宮」


「はい」


 藤宮君がすっごい嫌そうな顔で訓練場に上がる。そりゃそうだ。誰が好き好んで人間大のゴキブリと戦おうというのだ。


「藤宮君頑張って!」


「うーんうーん……」


「ああ」


 呻き声を上げられている佐伯お姉様を背負って訓練場を降りながら、藤宮君に声援を送る。


「……貴明君、放課後本当にお願いね」


「はっはい!」


 訓練場を降りると橘お姉様に、放課後のゴキブリ追っ払いの件について念を押された。だけど、俺からゴキブリが逃げる理由が分かった今となると……いや、ゴキブリから佐伯お姉様と橘お姉様をお守りすることが出来るならむしろ喜ばしい事だ! はははは。はは。


「すまないねえ爺さんや。ここらで降ろしとくれ」


「なんのでごぜえますだよ」


「急に乙女になったと思ったら皴皴になっちゃったわ」


「うっさいよ小夜子。だいたい何処をどう見たって乙女じゃないか。ねえ貴明マネ?」


「はい!僕もそう思いますです!」


「ほらね」


 佐伯お姉様をお姉様方のところまでお連れてして降ろす。よかった、正気を取り戻されたみたいだ。絶対に訓練場の方を見ようとしないけど。


「では起動する」


 あ、出やがったな!


 ボフンと藤宮君の目の前に現れた世界の敵、蛇君に匹敵するであろうゴキブリ野郎。


「飛鳥、彼の事応援してあげたら?」


「ふっ。何言ってるんだい小夜子。相手が何であれ、藤宮君の敵じゃないね。いや、相手の事なんてさっぱり分からないけど」


 だが佐伯お姉様の言う通り、我がチームの切り札藤宮君の相手ではないだろう。藤宮君の結界を抜こうと思ったら、大鬼でもひいこら言う羽目になる。


「【四力結界】」


 出たー! 藤宮君の七色に光る四力結界だー!


(なんや綺麗やのう。さっきのきっしょいのに比べたら雲泥の差やで)


 このゴキブリ野郎ぶっ殺すぞ! 俺の清らかな純度アンド呪度100の清らかなタールだって負けてねえだろうが!


 邪神アイ発動! 恨み値100なら改造してやる!


 恨み値0。


 恨まれ値100。正当性なし。理由。きしょい、きもい、無理。


 あ、ごめんね。


「【四力砲】」


 でもそれはそれ、これはこれ。藤宮君やってしまえ! 式符も燃やしてよし!


(ならこっちもいくで! ぶーん、れつ!)


 は? ぶーん、れつ? ま、ま、まさかあああああああああああ!?


「きゃああああああああああ!?」

「ぎえ!?」

「おえっぷ」

「ぎゃああああああ!?」

「ぬああああああ!?」


「え、ちょ、何が起こってるの? 見ていい感じ?」


「ええ勿論よ飛鳥」


「ありがとう小夜子。これで見ちゃダメだってはっきり分かった。その笑い方、絶対嘘だね」


 訓練場を吹き飛ばすほどの悲鳴。もし佐伯お姉様が見たらショックで即死してしまうであろう光景。それこそ!


(さあ、100人のワイに勝てるかな!)


「なん……だと……」


 藤宮君を取り囲む100体の人間大ゴキブリ!


 こ、こいつ、よりにもよって!


 群体型だあああああああああああああ!


(くらえ! スーパーゴキブリ袋叩き!)


 一体一体は小鬼以下なのに、それが100体だなんて洒落にならん! 四方八方からゴキブリが藤宮君に襲い掛かる! ふ、藤宮くーん!


 そいつ小鬼以下のくせに藤宮君の結界を抜こうとしてるよ。ぷぷぷ。


(ぎょえっ! なんやこれまさか浄力の壁なんか!? んなもん聞いてないで!?)


 ゴキブリが結界にパンチを入れただけで、手と言うか足と言うかが蒸発した。


 ぷぷぷ。残念でしたゴキブリ野郎。それ浄力どころか他も併せて全部だから。ぷぷぷ。


「【四力砲】」


 そして七色の砲弾がゴキブリ野郎に殺到する!


(まだや! へーんしん! 高機動モード!)


 は?


 カサカサカサカサカサカサカサカサ


「あれ栞、どうしてボクと同じ方向いてるんだい?」


「いえ、無理なものは無理なのよ」


「ははあ。よく分からないけど分かったような気がするね」


 橘お姉様が真逆を向くのも無理はない!


 き、きめええええええええ! 人間大ゴキブリが四つん這いになってカサカサ動き回るとかこの世の地獄だ! しかもそれが100!


 何考えたらこんな式符作れんだよ! しかも群体型! 古代の資料じゃアバドンがイナゴの群体型って言われてるように、一つの体から複数の同一個体が出てくるタイプは確かに存在する! が、それをよりにもよってゴキブリでするんじゃねえよ! まさかと思うがこれも胃に剣が作ったんじゃないだろうな!? 犬君の豆柴フェイスと言う前科があるから非常に怪しい!


 いや、だがその程度で我らが藤宮君をどうにかできると思うなよ!


「よ、【四力連射砲】!」


 見よ! これが威力を捨てて連射に特化した藤宮君の四力連射砲だ! ただでさえ回転率が良かった藤宮君の攻撃が更なる進化を遂げた! 藤宮君の顔引き攣ってるけど!


(な、なんやこいつうううう! 絶対一年坊主レベルじゃないやん!)


 秒間10発くらいの、悪い言い方をすれば豆鉄砲が、ドーム状の結界から生み出されて全方位のゴキブリに襲い掛かる。だが小鬼以下のこいつらには豆鉄砲でも大ダメージだ!


 あたぼうよこのゴキブリ野郎! 藤宮君は才能に胡坐をかくことなく努力を怠らない! てめえ如き三下はお呼びじゃねえんだよ!


(ワ、ワイがこんなところで!? ほげええええええええええ!)


 哀れ、いや別に哀れじゃねえや。ゴキブリ野郎は殺虫剤をまかれたゴキブリの如し。それはもう綺麗に消え去ってしまった。貴様に存在価値など無いのだよ。


「ぷぷ、ぷぷぷ」


 お姉様をツボらせたのは評価してやる!あいて。でへへ。


「終わったかな?」


「多分ね」


 余所を向いて今にもお茶でも飲みそうだった佐伯お姉様と橘お姉様が、恐る恐る訓練場に向き直る。というかお二人だけじゃなくて、大体の女子生徒はそうだ。平気な顔してるの女子は馬鹿の紅一点のみ。こいつ肝が大阪の主婦だ。素足で踏みつぶせばいいじゃないと言わんばかりの面。恐ろしい……。


「全く……それではいかんぞ。見ただけで悲鳴を上げるようではな。一度全学年に使用して慣れさせなければならんな」


 やれやれと首を振るゴリラだが、こいつ正気か? これを全学年に使用する? 死ぬぞ? 生徒が。


「貴明マネ、いっそ宇宙に骨は撒いてほしい……ぐは……」


「佐伯お姉様ああ!」


 ほら早速佐伯お姉様が崩れ落ちちゃったじゃねえか! 人類全員が好き嫌い無いなんて思うんじゃねえよこのゴリラ! だからてめえはゴリラなんだよゴリラ!


 ん? そういえばゴリラになんか伝え忘れてる様な……。


「さあ少鬼も普鬼もどんどん行くぞ」


 はて、なんだったか?


 ◆


 ◆


 ◆


 放課後になって思い出した!


「学園長、親父が授業参観に来るそうです」


 ああ!? ゴリラから生気が抜け落ちていく! いったい何があったんだ!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る