青春の一幕 授業風景

「それでは対少鬼の訓練を始める」


 えー、今更俺達に少鬼しょうきって正気ですか? ぷぷ。と言っても合格できてるのお姉様方と藤宮君だけだけど……。ゾンビ共は火力不足、紅一点は単独じゃ意味ないからなあ。って人の事言ってる場合じゃねえ。俺も主席として何とか打倒せねば!


 一年坊主の目標は一年間で少鬼を単独で打倒出来る事だが、このゴリラと言うか世間の異能者は少鬼を過小評価しすぎだ! 兵士どころか軍の兵器と真っ向勝負できんだぞ! 昔イギリスで現れた時なんざ、あ、イギリスに現れたのはアーサーとか出張る前にロゼッタストーンに吸い込まれて封印されたか。流石はエジプトモノだ格が違う。


「人間には向き不向きがあるのは当然だが、自衛力は必ず必要だ。という訳でサボろうとしない様に」


 ゴリラがやる気ゼロな馬鹿共にくぎを刺している。あいつら個々では大したことないからな。北大路君以外。戦闘会の個人戦は出てないし……纏まったら悪夢だけど……。


「佐伯、橘、藤宮は、下位の普鬼札でだ」


「はい」


 流石は我が花弁の壁の皆だ。もう学園長的には少鬼程度じゃ練習にもならんと、別コースをやらせることにしたらしい。


 事実佐伯お姉様と橘お姉様は一発で少鬼を昇天できるし、藤宮君に至っては結界に籠ったら大鬼でも歯軋りするだろう。


「小夜子は……まあ好きにしていい……」


「そうせてもらいますわ」


 流石はチーム花弁の壁の裏大将お姉様だ。教育熱心な学園長が完全に匙を投げている。それほどお姉様はお姉様なのだ。うんうん。


 あれ? チーム花弁の壁マネージャーの俺は?


 …………ど、ど、どうやら俺の第二形態を皆に披露するときがやって来たらしいな。いや、そこは自重して第一形態で留めておきべきか。


「それでは、最初は、貴明、頼んだぞ」


「はい!」


 ふ、やっぱりゴリラは分かってるな。初めの頃、嫌な事はとっとと終わらそう的に俺を一番バッターに指名したな? なんて疑って悪かったよ。主席がトップバッターで皆を勢い付けるのはむしろ当然だよな! でもなんかやたらと区切って言わなかったか? 頼んだぞも妙に力が入ってたような。はっはーん。後が閊えてるから早めに終わらせてくれよって意味だな? よっしゃ任せとけ!


「では起動」


「さあかかって来い!」


 今考えなおしたんだけど、第一形態はやっぱりまずいよな! じゃあちょちょっと呪ってやるか! というかなんかその式符新品じゃないっすか? 新しいの出来たんだ。


「また蜘蛛だよ……」

「新しい式符と思いきや」

「誰が作ってるんだよ」


『キイ』


 推定新品式符から出てきたのは、乗用車程度の真っ白な蜘蛛。ははあ、どうやら本当に新品のようだ。


 どれどれ? 君の心を聞かせてごらん?


(ヨーシガンバルゾ!)


 なんて新鮮なニューフェイスなんだ熱意に満ち溢れている! ブラックタール帝国にようこそニュー蜘蛛君! ここは親方日の丸ホワイト企業だから安心して頑張って欲しい!


 それにしても蜘蛛君もああいう時期あった? あれ、もしもし蜘蛛君? ほんとに最近どうなってんだ? 衛星電波が影響してるのか通じない。あ、分かったぞ。今はロシア校と戦って忙しいんだ。ごめんね蜘蛛君御仕事中に。


「では始め」


 だが悪いな。これって戦いなのよね。という訳で君を呪わせてもらう!


 さあ、行くぞ!


(エーット、ドウスレバイインダロ?)


 ああああああああ駄目だあああああああああ! こんな無垢な存在を呪うだなんて俺には出来ないいいい!


(ワカッタ! コウスレバイインダ!)


 え? こうすれば? どう? えちょ、はや


(エイ!)


「あいたあああああああああ!?」


 シンプルに!


 体当たりだとおおおお!?


「ぐええええ!」


 ちょっと待ってくれニュー蜘蛛君! 乗用車が時速100kmで突っ込んできたら、訓練じゃなかったら死んじゃうんだって!


 ちくしょおおお! 無垢な存在だからって、何でもかんでもやっていい訳じゃないんだぞ!


 くらえ! 全身が腐り落ちていく


(モットガンバル!)


 やっぱり駄目だああ! あのつぶらな瞳で見られるとおお!


(エイ!)


「ぎゃああああ!」


「うむ。そこまで」


 訓練場から叩き出されてしまった!


「が、学園長!」


 待ってくれゴリラ! お、俺はまだやれるんだ! だからもう一度だけチャンスを!


「佐伯たちのサポートはいいのか?」


「そうでした!」


 こんな無垢なまま人の事ぶっ飛ばすような奴に付き合っていられるか! 俺はチーム花弁の壁の皆を手伝う!


「ふふ。あなたも優しいわね」


「いやあ、それほどでも」


 訓練場から急いで降りると、お姉様が微笑みながら出迎えてくれた。


「おっと貴明マネ、お早いお帰りで」


「もう少し真面目にやった方がいいわよ」


「そんな気がしていた」


 既に隣の訓練場で準備万端なチームメンバーと合流する。いやすいません橘お姉様。皆と一緒にいたくて手を抜いちゃいました。はは、ははは。


「少しは面白い普鬼だといいけど、ま、普鬼だしね」


「分かりませんよお姉様よ。犬君みたいあいてっ」


「思い出すから止めて。ぷ、ぷぷ」


 お姉様が普鬼程度はお話にならないと言われているが、面白い式符には犬君の様な存在もいるのだ。だがそれを言うとデコピンされてしまった。しかも思い出し笑いされている。作戦成功。思い出し笑いを我慢されているお姉様マジプリティあいてあいてあいてあいて。でへへ。


「それではこちらも起動する。最初は佐伯だ」


「はい」


 お、トップバッターは我がチームリーダー佐伯お姉様だ。佐伯お姉様頑張えー。


「起動」


 でもなんかこっちの式符も新品だな。まあ、普鬼程度までならある程度作り出せるみたいだし買ったのか作ったりしたんだろう。


 そしてボフンと出てきたのは……ああああああああ!? てめえこのくそゴリラ、佐伯お姉様が死んでしまう!


「ふんぎゃあああああああ!?」


「こら佐伯逃げるな、戦わんか」


「無理無理無理いいいいい!」


 そう、佐伯お姉様がここまで恐れる存在は!


「相変わらず弱いのね。ぷぷ、ぷふ」


 お姉様の仰る通り!


「二足歩行のゴキブリは無理いいいいい!」


「この前街で出現した時、女性陣が複数名、目を背けたので新しく作って貰った。実際に出現した以上、外見の能力もないのに生理的嫌悪感で戦えないではいかんのだ」


「それでも無理いいいいいいい!」


 正論だけど正論じゃねえんだよゴリラ! 佐伯お姉様の顔が真っ青じゃねえか!


「四葉貴明助太刀いたす!」


「こら貴明、佐伯の番だぞ」


 うっせえゴリラ! 当然ここはチーム花弁の壁ゴキブリ係四葉貴明の出番だ! 橘お姉様、お部屋に出たゴキブリの件は忘れてないのでご安心ください!


 その突っ立ってるゴキブリ覚悟しやがれ!


「貴明マネ助けて!」


「ふごお!?」


 佐伯お姉様!? 抱き付かれるとまた鼻血が!?


 いやそれよりゴキブリめ! この俺が成敗してくれる!


(……!?)


 うん? 何か聞こえてきたな? まさかゴキブリの声か?


(ほげっ!? とんでもなくキモいのがやって来よった!? 退散!)


 は? どゆこと? え、ゴキブリ消えた?


「流石は貴明だ……全く何が起こったか分からなかった……」


「……放課後もお願いね」


「むう。マッスルに動きは無かったはず……!」

「あのゴキブリ一瞬で消えたぞ」

「なんかシンパシーを感じたんやが誰にやろ?」

「ゴキブリとかスリッパで叩いたらいいのに。は、そういう振りなのね。流石あざとい」


 な、なんか勘違いされている……っていうか本当にどういう事?


「ううむ。貴明は何もしていなかった筈。式符が上等になると貴明の力が感じ取れるようになるのか?」


 いや、あのゴリラさん。なんか力を感じ取るというか、確かにそんな感じ、みたいな事は言ってましたけど、え、ゴキブリにキモイ奴認定されて逃げられた?


 ひょ、ひょっとして俺にゴキブリが寄り付かないのは俺の力を恐れて、っていうよりキモイ奴と思われてたから?


「人の夫に失礼な。燃やしてあげようかしら」


 え、やっぱりお姉様もそう聞こえました?


「貴明マネありがとおおおおおおお!」


 はわわわわわわ!? 佐伯お姉様の胸があああああああああああ!?


「もう一度起動してみるか」


 あ、ちょっと待てゴリラ! まだもうちょっと!


 ボフン


(まだいるやんけ! きっも! ワイら綺麗好きやっちゅうの! 退散!)


 今度は一瞬現れただけで帰りやがった!


 そ、そんな馬鹿なあああああああああああああああああああ!

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