死の森1
「そろそろ始まるはずだ」
クラス崩壊の危機を乗り越えて、いや、今でもその可能性はあるけど、帰ってきました我が教室。
いやあ、猫君も馬鹿共も西岡君も消し炭にならなくてよかったよかった。今でもその可能性はあるけど……
そんな危うく死者を出すところだった大惨事を気にすることなく、ゴリラが教室に備え付けられている時計を見て呟いた。どうでもいいがこのゴリラ、身に付けるものが嫌いみたいで腕時計とかはしていない。でも分かるよ。俺もそうだからね。やっぱり気が合うな。今度親父にってそういえば親父が授業参観に来るの伝え忘れてた。まあ、放課後までに言えばいいか。
そんで何が始まるかというと、ロシアの皆さんが危うく猫の丸焼きになりそうだった猫君と戦うのだ。
全く前情報なしの初見、しかも猫君のホームである森林訓練場で……。
先輩方も戦闘会で無理矢理体験させられたが、見通しの悪い森と猫君の組み合わせは最悪と言うしかない。猫君の直接的な強さは大鬼程度だが、ジャングルみたいな場所に猫君が潜んだ場合、単独者でも返り討ちに会う可能性が非常に高いくらいで、マジで森ごと焼き猫君にした方がいいレベルだ。
とまあ、そんな死の森に向かうロシアの皆さんを、こうやって教室にあるテレビモニターで見学することがこの授業なのである。
「始まったな。再度言うと、行方不明者が多数出た森への調査で、事前の情報は全くなし。という設定だ」
事前情報なしに猫君がいる森に行くとか、猫君の詳細なスペックを知ったら誰もが絶対に拒否するだろう。
だがそれを知らないロシアの生徒5名が選抜隊として森へと、猫君のテリトリーへと侵入した。
「北大路、この場合の一番大事な行動指針は?」
「絶対に二次被害者にならない事。そして出来る限り行方不明者が出ている原因の情報を持ち帰ることです」
「そうだ。行方不明者の探索は?」
「我々対妖異の異能者に要請がある時点で、既に専門家の捜索が失敗しているでしょう。つまり彼らでも失敗した理由、恐らく妖異の存在を特定し、排除するまで考えないものとします」
「よろしい。残酷だが生存しているか分からない行方不明者より、まずは自分達の身の安全と生命を守るのが第一だ」
北大路君の言う通り、市街地ならとにかく森の中で一般人を探しながら、何処にいるか分からない妖異と戦うなんて無理だ。絶対に先手を取られて奇襲される。それなら最初っから妖異を見つける、もしくは倒す事だけに集中した方がいい。
そして最悪なのは全滅してそこに蟻地獄を作ってしまう事だ。それを避けるために最低でも情報は持ち帰らねばならない。
ではロシアの皆さんはどうか。結論。流石である。
「チームでの連携は流石の一言だな。全く死角も油断もない」
集団の死角が生まれる事など一瞬もない。上下前後左右、殆ど会話していないにも関わらず、お互いがお互いをカバーし合っているのだ。どこをどう見ても、森林戦をやってる軍人さんにしか見えないのはご愛敬だろうが。
しかし、猫君はどう仕掛けるってほげっ!?
『要救助者発見』
『確認した。カバーする』
「そう来るか……異能者の、とりわけ日本の異能者にとって永遠の謎掛けだ」
ロシアの人たちが少し進んだ先に、木にもたれ掛かった人の姿がある。ぐったりして俯いている様だ。様だ……。
しかしこれ、浄力者のいないチームじゃゴリラの言う通りどうしようもないぞ。
『外傷無し、意識不明、という設定。俺が背負う。一度森の外へ出るぞ』
『了解』
1人がぐったりした要救助者を
猫君を背負ってしまった。
『よし行くぞおおおおおおおおおおおお!?』
『ルカーーーーー!? ルカが連れ去られた!』
『【超力】!?』
『ダメだルカに当たる!』
『くそったれ! 追うぞ!』
ルカと言う人らしい。彼が要救助者、人間に化けている猫君を背負った瞬間であった。猫君は一瞬で自分を背負ったルカさんの首を絞めながら、凄まじい速度で木の上に駆け上ったのだ。
人の姿をしていても妖異は妖異、ましてや大鬼となると普通の異能者よりも遥かに身体能力は上で、ルカさんは抵抗らしい抵抗が出来ず木の緑の奥に連れ去られてしまい、慌てて仲間たちが肉体を強化して同じく木に登っていく。
「あれだ。高度に人間に化けることが出来る妖異が多い日本の異能者にとって、あれこそが永遠の問題なのだ。今目の前にいるのが、本当に人間なのか確認するには浄力を浴びせてみるしか確認方法が無いのだ」
他の国は人間に化けてもすぐボロが出る癖に、何故か日本の妖異はやたらと上手い。それのせいで人間だと思った、または妖異だと思った、という事件が割と起こりやすい。
これの解決方法は単純明快。浄力を浴びせて何ともなかったら普通の人間。苦しみだしたら妖異。なのだが、ロシアの人たちの浄力者は全員蜘蛛君のところにいるから確認しようがない上に、どうも無警戒に猫君に近づいたのを考えると、ロシアにそのタイプは民間伝承にはいても、実際の妖異にはいないんだろうな。
いやあ、それにしても猫君の擬態の上手さよ。至近距離で猫君の体調チェックをしたロシアチームは、訓練の内容に要救助者の回収も含まれているんだろうと思ったに違いない。
『見失った!』
『そんな馬鹿な!』
『こ、ここだ……助けてくれ……』
『いやいたぞ!』
『ルカ!』
そしてもう一人
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