暴露大会

「やっぱ気にしてたんだ……」

「だな……」

「せやせや……」

「俺にはなんで何もなかったんだ?」

「私は何も聞いてない。私は何も聞いてない」


 異能至上主義者の西岡君が、堂々と訓練場に上がっていく。


 が


 黙ってろ馬鹿共! お前らのとこはそうでもないかもしれないけど、佐伯お姉様がいるこの周辺の気温が爆上がりしてんだよ! 本当に佐伯お姉様に殺されてしまうぞ!


「それでは起動する」


 ボフンと現れた西岡君の姿をした猫君。なんか嫌な予感がして来たぞ……。


「狭間の事はよく分からんが、婚期なんざ俺には関係ないな。さて、何を言ってくる? と思ったな?」


 ほげえええええええ!? 西岡君の馬鹿! 猫君にぶっ飛ばされるどころか佐伯お姉様にぶっ殺されるぞ!


「西岡ああああああああ!」


「ちょ、ちょっと待ってくれ佐伯! これは罠だあああああ!?」


 叫び声を上げる佐伯お姉様へ必死に弁解している最中に、西岡君が猫君にぶっ飛ばされたああ!?


 ってそれどころじゃねえ!


「離して貴明マネ! あいつ殺せない!」


「佐伯お姉様ご乱心! 佐伯お姉様ご乱心!」


 ぶっ飛ばされた西岡君に止めを刺そうとする佐伯お姉様を後ろから羽交い絞めにする。


 す、すごいパワーだ! 人間とは、人とは怒りでこれほどの力を発揮出来るものなのか!? だとしたら俺は!?


 って邪神ムーブかましてる場合じゃねえ!


「落ち着いて飛鳥」


「お、落ち着け佐伯。これは西岡の平常心を乱そうとした訓練符の奸計だ」


「ならやっぱりあの式符を燃やしてやる!」


 チーム花弁の花が総出で佐伯お姉様を止める。


「ふふ」


 そしてお姉様はいつもの素敵なニタニタ笑いで俺達を応援してくれている!


「西岡、佐伯。気を付けなければ、実戦でそうやって覚妖怪に精神を乱され殺されていったものは多いぞ」


 てめえこのゴリラ! 俺らみたいな青少年を、てめえみたいな枯れた年寄りと同じにするんじゃねえよ! こっちには羞恥心ってのがあるんだ羞恥心ってのが!


「次は橘」


「はい」


 橘お姉様がんばえー!


「んぐぐぐぐ。栞と一緒にあの式符を!」


 次は親友の橘お姉様が、憎い怨敵猫君に挑むため佐伯お姉様が落ち着かれた。多分。


 邪神通信開始! 猫君頼むー! このままじゃあ俺達は全滅してしまう止めてくれええええ! じゃあ別の戦法にする!? ありがとう猫君! いやあ、これで俺も一安心だよ。危うく人間関係の拗れから、クラス崩壊の危機待ったなしの状態だった。猫君の今後は……まああれだけど……え!? ごめんこっちの話こっちの話! じゃあ頑張ってね! 程々に!


「それでは起動する」


 またまたボフンと現れた橘お姉様こと猫君。


 橘お姉様ー、猫君がさっきまでの佐伯お姉様に関する戦法は取らないそうなんで安心してくださーい!


 はっ! この浄力の急な高まりは、速攻で猫君を潰すという意思を感じる!


「【氷柱の……】」


「マンションの部屋に出たゴキブリどうするか決めたの?」


「ごっほ!」


 橘お姉様が咳込んだああああ!


 猫君そっち!? 人間関係壊さない様、本人を攻めることにしたのかい!? でもそれはそれでマズいんだよ! 橘お姉様の顔が真っ赤になってるじゃん!


 でもおかしいな。ゴキブリ妖異が出た時、佐伯お姉様は気絶しそうになってたけど、橘お姉様は平気だったはず。


「ふふ、戦うと決心した妖異は大丈夫でも、生物としての方はダメなのかもね」


 なるほど。お姉様がそれはもう素晴らしいニタニタ笑いで橘お姉様を見ている。


「飛鳥もゴキブリ駄目だから、こういう事に気を利かしてくれる貴明君を頼るつもりね? それにしても交友関係狭すぎるわね。単独者を目指してるんじゃなくてボッチを目指してるの?」


「んな!? んなああああああああ!?」


 橘お姉様今すぐお邪魔します! なあに大丈夫ですよ! 俺がお部屋に入れば一発でムシケラ共は消え去りますとも! どうも近くならムシケラ共は本能で分かるのか、俺と親父に全く近寄ろうとしないんです! ですからちょっとだけ、ちょっとだけお部屋にお邪魔をですね!


「【粉々名残雪】!」


「にゃあ……」


 橘お姉様の姿をした猫君が氷って粉々に! ね、猫くーん! 全く佐伯お姉様から反省してねえじゃん! 自業自得だよ!


 え、ゴリラに過去のトラウマとか傷を掘り返すようなことを出来ないようにされてるからこうするしかない? さっきからそれを作ってる上に怒らせてやられたら世話ないよ!


 もっとこう、藤宮君と戦ったときみたいなのでいいんだって! 初手精神攻撃は基本? それは……まあうん……確かに……。はっ!? 納得してしまうところだった! 確かに邪神的には仰る通りなんだけど、もうちょっとこう、ね? うん分かってくれて嬉しいよ。じゃあ程々に頑張ってね。程々に!


「……」


 ああ、橘お姉様が顔を真っ赤にして帰って来た!


 ゴキブリの話をするべきか!? だが今その話をしたら橘お姉様は授業を抜け出すだろう! しかし猫君が態々突っついたという事は橘お姉様は大困りの筈……ここは黙って頷くだけ! これでいい! これが最良!


「……お願いするわね」


 橘お姉様がものすごい小声で俺の隣を通り過ぎた! お任せください!


「次、伊集院」


「は、はい……」


 イ、イケメン伊集院君が引き攣った顔で訓練場に……やべえよやべえよ……猫君マジで頼んだよ!?


 ◆


「不動明王不動明王不動明王」


 そうだ伊集院君雑念を消すんだ!


「不動産王」


「不動産王はっ不動明王の力が消えた!? ぐわああああああ!?」


 い、伊集院くーん!?


 前もこの件あったぞ!


 ◆


「お前の初恋の相手は」


「止めろぐはあああああああ!?」


 だからそれはダメだって猫君ーーーー!


 ◆


「本のカバーを変えているな? 本当のタイトルは」


「んきゃああああああああああ!?」


「にゃあ……」


 お、女の子が一体何の本のカバーを変えてるんですか!?

 そして口封じに猫君がやられたーーー!?


 ◆


「自意識過剰だ。別に汗臭くはない」


「は、はあ……」


 猫君優しいなあ。

 なんか違うなあ。


 ◆


「心配しなくてもお前は馬鹿の一員だ。ネクロマンサーを選んだ意味はない」


「いやあああああああ!」


 と、東郷さーん!?

 俺もそう思ってました。


 ◆


「諸君ご苦労だった。これがドッペルゲンガーと覚妖怪の恐ろしさだ。実戦では後悔や心の傷、秘密などを容赦なく攻めて来る。心を強く持つのだ」


 御高説ありがとうございます学園長。そうですね確かに恐ろしいです。なんせいっそ殺せと思っている人もいるくらいですからね。これで猫君の能力は俺が調整したものだとバレれば、学園どころかこの世から追放されてしまう事だろう。また一つ墓まで持っていく秘密が増えてしまった……。


 ところで次は俺とお姉様だね猫君。え? 例え出来ても絶対に変身しない? 俺が華麗に自分自身を倒すのは? 普通お約束でしょ? ほら、今までの自分を超えるんだーって。佐伯お姉様と橘お姉様を含めて何人か成し遂げたけど……。


 それより早く元の森林訓練場に戻してほしい? なんか殺気を感じる? そりゃまあねえ……。

 え? これから自分はどうなるって? そりゃまあねえ……。

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