めんどくささ二大巨頭2

「口頭で説明したら、次は実際に体験するのが一番だ。という事で、ロシア校に先立って体験しておこう」


 まあそんな気はしてましたよ学園長。あなた実戦主義者で実践主義者ですもんね。


 やって来たのは特に特徴のない普通の訓練場。猫君のホームは森を再現したバカみたいな訓練場だが、授業には向かないからここに持ってきたのだろう。


「本来は大鬼相当だが、この訓練符はかなり強さの融通が利く。そのため諸君たちに丁度いい程度の強さに抑えてある」


 我が臣民で最も器用である猫君に掛かれば、強さの強弱を変えることなど造作もない。これが猿君だったら、どうして態々弱くなる必要があるんだ? と心底疑問に思うだろう。そういう点でも確かに猫君は融通が利く。


「では最初に」


「はい自分がやります!」


 ここはもちろん主席である俺がトップバッターを務めるべきだろう。


「すまないが、生徒に学習の機会を与えないなど本当に申し訳ないのだが、貴明と小夜子はこの後別でだ。もしこの訓練符が、私の想定以上に能力を真似できるなら取り返しがつかなくなる恐れがある」


「うっ」


「あら残念。少し自分と戦ってみたかったわ」


 痛いとこ突きやがった。流石に邪神形態は真似出来ないだろうけど、それでも俺の人間状態はかなり色々出来る。猫君が訓練符状態とはいえ、この学園でスーパー邪神大戦を起こすのは、ちょーとだけマズいと言わざるを得ないだろう。


 そしてそれはお姉様にも言える事で、鵺モードの猫君はお姉様ににゃんにゃん転がされてしまったが、思ったより猫君が高精度なお姉様を再現して、お姉様大戦が勃発すれば一体どうなるか……。


「小夜子には悪いけど、小夜子同士が戦ったら学園がどうなるか分からないんだよね」


「あら飛鳥。私のこと、周りの事を考えない戦闘狂とか思ってるの? ねえあなた、飛鳥がひどいのよ」


「はひ! お姉様はそれはもう優しくて素敵な女性でしゅ!」


 なんか前にもこんな事があった気がする! お姉様に佐伯お姉様、お二人とも、僕を困らせようと打ち合わせしていませんよね!?


「毎日僕の食べるものに悩んでくれたり、毎日デートしたり、毎日あいてっあいてっあいてっ」


「……もう、そういうことは大声で言わないの」


 だが男貴明、負けるわけにはいかないと本当のことを言ったら、お姉様から連続霊力デコピンをされてしまった。でへ、でへへ。


「はいはいごちそうさま。それにしても、ボクの事は褒めてくれないのかい?」


「ほあああああああ!?」


 佐伯お姉様ああ! そうやって耳元で囁かれたらまた鼻血が出そうになります!


「うーん、相変わらず揶揄い甲斐があるね」


 ああ! 佐伯お姉様のそのニヤリとした笑みが素敵です!


「それでは藤宮からやろう」


「はい」


 お、トップバッターは藤宮君か! 藤宮君がんばえー!


「彼の四系統一致がドッペルゲンガーにコピーされるか興味があるわね」


「そうだね栞。あれはかなり特殊だから」


 橘お姉様と佐伯お姉様の言う通り、俺も藤宮君の超特殊な能力を猫君がコピーできるか非常に興味がある。案外ゴリラも同じことを考えて、藤宮君を最初にしたのかもしれないな。


「それでは起動する」


 学園長の合図とともに訓練場に現れた者こそ。


「話には聞いていたが、本当に俺そっくりだ。と思ったな?」


「ちっ! 【四力結界】」


「【四力結界】」


 藤宮君と瓜二つ、というかそのもの。恐らくほくろの位置まで全く同じだろう。そう、まさに藤宮君がもう一人表れて、しかも同じ能力を使って周囲に結界を展開した。


「あら、中々凄いじゃない」


 お姉様すら驚いている。


 猫君、まさか藤宮君の能力まで真似できるとは……まさに阿修羅の如き猿君、教官として更に高みに上った蜘蛛君に続いて、君も成長してるんだね。


「なんて事だ。マッスルの見分けがつかない……これがドッペルゲンガー!」

「赤筋と白筋の事かな?」

「こりゃあ長引くぞ」

「要塞同士戦ってケリつくの?」

「狭間君同士よりは短いと思うけど……」


 いやそれより、馬鹿共の言う通り、四系統一致の結界対四系統一致の結界とか決着つくのか? まあ東郷さんの言う通り、超能力の壁を生み出す事しか出来ない狭間君よりは短いだろうけど……いや待てよ? 狭間君に限らず、馬鹿共に対して猫君は……


「【四力砲】」


「【四力砲】家族と親友のお陰で身に付けたこの力が、偽物如きに負けるわけがない。と思ったな?」


「黙ってろ!」


 はわわわわ!? ま、ましゃかその親友って僕の事かい藤宮君!? 僕も君の事をそう思ってるよ!


「藤宮惑わされるな。覚妖怪は相手をそうやって錯乱させる」


 心を覗かれて興奮している藤宮君にゴリラが注意する。いや、言いたいことは分かるんだけど、それだと俺と藤宮君が親友なのは、藤宮君が錯乱してるせいみたいに聞こえるんだけど。


「【四力砲】!」


「【四力砲】! そんな事を言われても頭にくることはくるんだ。と思ったな?」


「貴様!」


 やべえよやべえよ。虹色の弾丸が乱れ飛んでは結界に阻まれて消えていくけど、藤宮君頭に血が上って制御が甘くなり始めた。


「【四力砲】しまった、制御が。と思ったな?」


「くっそおお!」


 一瞬だが四系統のバランスを崩してしまい、綻んだ結界の隙間に猫君の砲弾が殺到し、そのまま藤宮君に直撃してしまった!


 ふ、藤宮くーん!?


 まあこれ訓練だから叩き出されるだけだけど。


「くそ! すまん貴明……」


 藤宮くーん!


「互角であっても精神攻撃をされれば隙が出来る。覚妖怪と戦う時は不動の心が必要なのだ。次は佐伯だ」


「おっとボクか。じゃあちゃちゃっと片付けて、ウチのメンバーの仇を討って来ようかね」


 流石は佐伯お姉様だ。この自信たっぷりなお姿、いかに猫君といえどコピーできまい!


「それでは開始」


 ボフンと現れた、これまた完璧な佐伯お姉様。うーむ、猫君やはりやるな。


「本当に同じだ。ならあれだけ女の子に囲まれてても、この容姿で婚期を逃すことはない、よね? と思っているな?」


「それを言ったら戦争だろうがあああああああ! 【ボルケーノオオオオオオオオ!】」


「にゃあ……」


 あああああ!? 佐伯お姉様になんてことを!? とんでもない熱量の熱線が猫君をそのまま飲み込んで、猫君が消え去ってしまった! これが結界内でなければとんでもない大火事になっていたことだろう。


「やっぱり気にしてたのね」


 お姉様マズいですよ!


「ふー! ふー!」


「うむ。感情の高ぶりも悪い事だけではない。時として、ドッペルゲンガーがコピー仕切る前に、自分の能力の限界を一時的に超えることが出来るからだ。だが我を忘れて室内訓練場で火を使うのはいかんな」


 陽炎を身に纏って超興奮している佐伯お姉様を見ながら、冷静な解説をしているゴリラ。このゴリラ情緒ってもんを理解してねえ……。


「ふ―! あの式符燃やしたい!」


「お、落ち着いて飛鳥」


 足を踏み鳴らして帰って来た佐伯お姉様に、流石の橘お姉様も及び腰だ。猫君、このままじゃ燃やされて……。


「次、狭間」


「うっす」


 おっと次は狭間君だ。さてどうなる?


「では起動、ん?」


「何も出てこない?」


 ああやっぱりそうなるのか。


 困惑する学園長と狭間君。だが俺には原因が分かった。


「学園長! 狭間君の精神プロテクトが固すぎて、ドッペルゲンガーではコピー出来ないんだと思います!」


「なるほどな。以前、普鬼程度のドッペルゲンガーが、単独者のコピーに失敗した話を聞いたことがある。狭間、素晴らしい心の強さだ」


「ありがとうございます?」


 何が何やらと言った狭間君だが、メンタル100の精神プロテクトを突破して、コピーすることは猫君ですら出来なかったようだ。という事は元祖四馬鹿は全員変身されないな。


「どうなってる?」


「狭間の心が強い?」


 これには名家らしい名家出身のクラスメイトも困惑気だ。まあ、彼らからしたら狭間君は、超能力オンリーどころか壁を作り出せるだけだから、全く意味が分からないのだろう。


「なんだったんだ?」


 全く訳が分からんという顔で訓練場を降りて来る狭間君。まあ、分かるつもりが無ければ彼らの強さは分からんだろう。


「次、西岡」


 しかし……この訓練、単なる暴露大会にならないか非常に不安だ……。

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