めんどくささ二大巨頭
『後ろを取れ!』
『待てケツに目玉がいくつも出来たぞ!?』
『呪力が込められている直視するな! 目の焦点をすぐ逸らせ! 非鬼以上の化け物は、あくまでその形に似ているナニカだと思うんだ!』
『はい!』
何とか蜘蛛君の後ろを取ったロシアの生徒だったが、蜘蛛君のお尻に出来た無数の目玉にぎょろりとみられる前にプロさんからの注意が飛ぶ。
なんだか通じ合ってる蜘蛛君とプロさんは、最初のように組み合うことなく、プロさんが浄力を生徒に掛けながら、皆生徒の皆さんに指示と指導を出すスタイルに変更された。
「なんだ。切り札的な浄力者の生徒を連れて来ると聞いていたが、現場を知り抜いた叩き上げのプロを連れてきて指導していたのか」
そんなプロさんを、空いた時間に見に来た学園長が評している。どうやら学園長の目から見てもプロさんはプロのようだ。
「そ、そうですね!」
勿論俺もそれに同意する。いやあ、プロさんがサイズの合ってない服は動きを阻害するって言いながら脱いでよかった。一応学生っていう設定できてるのに、ありゃ現場に出たら建前とか気にしないタイプだな。
ま、まあそのお陰で今のプロさんは、学園長からしたら、上半身裸という事を気にしなければ、まさに戦うために鍛え抜かれた体を披露しているプロフェッショナルで、10年間休学していたという設定を微塵も感じない。
それにウチの学園は、猿君との戦いでは服が破れるのが分かっているので最初っから半裸な学園長に、戦闘会会長の半裸会長もいるので、今更気にするような人はいない。ズボンは……同じだけど、まあズボンは似たような感じので誤魔化せるだろう。
もし学園長に、あのプロさん学生さんですって言ったらどんな顔をするだろう……俺と同じでズッコケそうだな。プロさんの名誉もあるから止めとこう。
「昨日と同じ、対人の延長上であの蜘蛛と戦っていたらどうしたものかと思っていたが、あの分なら杞憂だったな」
「そうですね!」
『そうだ! 例え敵の後ろにいようが横にいようが常に動き回れ! 非鬼以上の化け物に死角はないと思うんだ!』
これには完全に同意。プロさんの指導で、生徒の皆さんはみるみる非鬼との戦闘に適応している。
「では次の授業でな。もしロシアに引き留められたら私を呼びなさい」
「分かりました!」
プロさんに基本的な事は伝えたし、蜘蛛君としては応用はまだ先だなと思っているようなので、呪詛の専門家である俺が引き留められることないないだろう。
あ!? 自分で呪詛の専門家って思っちまった!?
◆
◆
「早速授業を始めるが木村、ほぼ大体の異能者が嫌がる、面倒な妖異とは言えば何を思い浮かべる?」
いきなりですね学園長。それはあいつらでしょ? めんどくささ二大巨頭のあいつら。ほら木村君、こないだ筋肉と一緒に図書室に来た時、僕の非公式勉強会、一際面倒な連中の対処研究会で取り上げた。
「えーっと、ドッペルゲンガー? それか覚妖怪?」
「そうだな。遭遇したことのある大体の異能者はその二体を挙げるだろう」
教室が、馬鹿な、馬鹿が正解した? そんな馬鹿なと思っている雰囲気だ。
木村君が小さく俺にサムズアップしてきたので俺もサムズアップだ。ふっタイミングが良かっただけさ。
「では橘、この二体が嫌われる理由は?」
「一対一では無類の強さを誇るからです」
「その通り。こちらの心を読み取る覚妖怪と、上限はあるが能力、技量、記憶までを含めて完璧に相手をコピーするドッペルゲンガーは、その能力ゆえに一対一では無類の強さを誇る」
何度聞いてもぶっ飛んだ能力だ。自分のやろうとしていることが筒抜けな覚妖怪、永遠と泥仕合を強制させられるドッペルゲンガー。この二体は俺が名付けた、めんどくささ二大巨頭に相応しい存在だろう。
「では藤宮、理想的な対処方法は?」
「………いる場所が分かっているなら、相対することなくその場所ごと吹き飛ばす事でしょうか?」
「その通りだ。そんな面倒な相手に面と向かう必要はない。あくまで理想だが、場所が分かってるならそこごと吹き飛ばせ」
ふっふ、藤宮君そんな恐る恐る言わなくても正解だよ。相対すればくっそ面倒になるのは分かり切ってるんだ。まず会うことなく始末する。これ大事。ミサイルは正義ってはっきり分かんだね。
「北大路、どうしても一帯を吹き飛ばせない状況で、相対する場合の対処法は?」
「心を読まれても問題ない、コピー仕切れないほどの強さをまず身に付けなければなりません。無理なら絶対に一対一にならない様に複数で仕掛けます」
「うむ。これまた理想だが、この二体に出くわしても問題無いよう、己を鍛えておくことは非常に重要だ。大体一流を抜け出し始めた異能者には、この二体の能力は対応できなくなる。そして現実的には複数で掛かるのが一番だ。覚妖怪は複数の思考を一度に読めないし、ドッペルゲンガーも分身出来ないからな」
実にマッスル的回答だ。あまりにもマッスルすぎて脳までマッスルになりそうだ。ついでに言うと、実にゴリラ的説明だ。あまりにもゴリラ過ぎてバナナとプロテインが欲しくなって来ない。
「ではなぜ急にこの二体の説明をしたかというと、上級生たちが一足先に体験した大鬼の訓練符、これにロシア校の一部がローテーションで挑むことになっているが、この大鬼が特に好んで使う能力が、ドッペルゲンガーと覚妖怪の力なのだ。しかもこの大鬼、両方の能力を同時に使えて、複数の思考を読み取り、変身できる能力の上限が非常に大きい。ここまでくると面倒などとは表現できなくなるほどの、非常に恐ろしい存在だ」
おお! ロシアの人たちは人数が多いから、空いてる人は他の皆も体験することになっているとは聞いたけど、最初は猫君が相手なのか!
猫君のデビュー戦は初見の対応を見るために非公開だったが、もう大体の上級生たちが挑んで、一年生の俺達はまだずっと先の事になるから、公開してもいいと思ったんだな。まあ、俺とお姉様は学園長室、VIPルームで先に見ていたけど。すいませんね皆さん。僕首席でして。でへへ
でも皆さん、なんだそのゲロゲロな奴はって感じですね。本人、本猫はとっても仕事に飢えてる可愛らしい猫なんですよ。
「それとそのロシア校だが、国元からプロフェッショナルを連れてきて指導している。昨日とは一味違っているから、時間のある時に見に行ってみなさい」
この学園長の言葉に、何人かのクラスメイトが何とも言えない顔をしている。きっと、プロさんが制服を着てやって来たところを見たのだろう。だがプロさんの名誉のために黙っていることにしたらしい。
プロさん、この学園の生徒は俺も含めて、とっても気づかいと配慮が出来るいい子たちばっかりですよ。
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