プロフェッショナル達

『さあではやるぞ君たち!【神よ我らを守り給え】!』


 ぬお、流石は単独者手前のプロさんだ! 薄く輝く力場が訓練場全体に展開され、しかも浄力の安定感が学生とは全く違う。


『キキキキ!』


 これには蜘蛛君も腰を据えなければいけないと思ったのか、一発気合の入った叫び声をあげた。


『君たち散開して足を狙え! 機動力を削ぐんだ!』


『キキッキイイイイイイイイ!』


 やっぱり蜘蛛君って足を狙われるよね。その内キレて空を飛びそうなくらい、最上級生からもアメリカ校からも、徹底的に足を狙われている。まあ、8本足でシャカシャカ動く蜘蛛君を止めるには、それしかないから仕方ないね。


 そのため蜘蛛君も、そんな事は分かり切ってるぞと、散開した生徒を纏めて毛の針で始末しようとする。


『【神の息吹が邪なるモノを打ち倒す】!』


『ギッギイイイイ!?』


 うわ浄化の風!? やっぱお国柄で一神教系の浄力は攻撃力あるな! プロさんが放った浄化の風はただの風じゃない! ロシア出身なのが関係してるのか吹雪の様な風で、蜘蛛君の針を吹き飛ばすだけどころか、その体に雪を付着させて浄化している。つまり蜘蛛君にとってあの雪は冷たい雪でなく、燃え盛る猛毒なのだ!


『キキキャアアアアアアアア!』


 しかし蜘蛛君がその程度で怯むわけがない! 一瞬でトップスピードになった蜘蛛君がプロさんに体当たりを仕掛けた!


『足を止めるんだ!【超力砲】!』

『応!【超力砲】!』


『ギッキャアアアアアアアアア!』


 そんな蜘蛛君へ殺到する念力の砲弾。プロさんの力場によって浄力の加護が乗ったそれは、ダメージを蜘蛛君へ与えていた。でもなんか違和感があるような……。


『【この凍てつく力こそ神の御業御力満ち満ちる】!おおおオオオオオオオオオオオオ!』


『ギイイイイイイイ!』


 おおお! プロさんがぶち当たって来た蜘蛛君に吹き飛ばされるどころか、その牙を引っ掴んで耐えている!


 すっげえなプロさん! 身体能力で最も優れている霊力、その使い手で学生とは思えない力量のあった、戦闘会会長半裸が蜘蛛君の牙を掴んで受け止めてたけど、あんた後方要員の浄力者でそれをするかよ!


『キイイイイイイイイ!』


『しいいいいい!』


 しかも蜘蛛君が至近距離なら浄力の力場は関係ないだろって、口から出した毒ガスを吸い込んでも、体内で練り上げた浄力で浄化している! それが原因でプロさんの口と鼻から白い冷気が噴出して、さながら暴走蒸気機関車!


『今だ集中砲火しろ!』


『はい! 【超力砲】!』


『ギイイイッ!? キイ?』


 そして周りの学生さんたちが蜘蛛君に集中砲火をくらわすけど、何故か蜘蛛君が首を傾げている。


『ぬうううううう! ん?』


『キイキイ』


『んんんんん?』


 そしてプロさんと組み合っていた蜘蛛君は、突如力を抜くとその足を使って周りの生徒さん達を指、足指して、残った足でなんだかへなちょこパンチのように足を曲げたり伸ばしている。


『な、何故か言いたいことが分かった気がする……』


 え、プロさん、蜘蛛君が何を言いたいか、って俺も分かった気がする。もしもし蜘蛛君、ひょっとして生徒さん達の攻撃、浄力で浄化ダメージは入ってるけど、腰が入ってない感じですか? ああやっぱり。違和感の正体はこれか。


『お、俺に指導しろと。こんな知性のある仮想敵は初めてだ……』


 そして蜘蛛君はカサカサと元居た開始地点まで戻ってしまった。


『あーおっほん。君達、今から少し指導する。確かに目的は時間稼ぎだが、避ける、という事に意識を割き過ぎている。勿論それが一番大事だ。非鬼の攻撃を食らえばそのまま命に直結するからな。しかし、攻撃するときは腰を入れて攻撃しなければならない。中々難しい事だが、最低限機動力は削がなければ、非鬼が逃げ出したときに対処できなくなる恐れがある』


『キイ』


 プロさん、思ってたんですけど蜘蛛君と無茶苦茶相性がいいですね。蜘蛛君もその通りと頷いている。どうやら蜘蛛君、プロさんと組み合う前に数発食らって違和感を感じていたが、組み合ってからの攻撃で確信したようだ。確かにプロさんの浄力が乗ってダメージはあったが、時間稼ぎに意識を取られて、攻撃に腰が入っていないへなちょこパンチになってる、と。


『非鬼と対峙して普段通りの攻撃になっていないのは非常に分かる。非鬼から上はまさに化け物なのだ。平静でいられる方が少ないだろう。私にも覚えがある。初めて対峙した時は無我夢中だった。しかしこれは訓練で、取り返しなどいくらでも出来るのだ。実戦で命を落とさない様、良かった点、悪かった点を生かして次に活かせばいい』


『キイ』


『はい!』


 まさに我が意を得たりと蜘蛛君が再び頷く。いやあ、この二人お互いプロフェッショナルだから相性がいいんだなあ。なんか全く別の理由で相性がいい様な気もするけどなんでかなあ?


『キイイ!』


『本当になんと知能が高いのだ。いや、そういう風に調整されているのか?』


 ちょっと違うような違わない様な。これが猿君なら問答無用でぶっ飛ばして、反省点なんて後から自分で考えろってスタンスだし、学園に元々なくて、学生との対戦がまだまだ経験不足な猫君と犬君は、教官としての経験も足りないから、ある意味蜘蛛君が特別なんですよ。これぞ我が校が誇るプロフェッショナルにして名教官、蜘蛛君なのです。いよっ蜘蛛君世界一!


『それでは再開しよう』


『キイイイイイイイイイ!』


 訓練再開を告げるプロさんに、さあ掛かって来いと蜘蛛君が叫びをあげて答える。


 うーん。これぞまさにプロフェッショナル達。

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