プロさん

 でも実際どうすんだ? このプロとロシア校の人たち、今まで連携なんて取ったことないだろ? 


 しっかしプロさんデカいっすね。学園長はゴリラだけど、このプロさんはホッキョクグマみたいなパワフル体型だ。あんた本当に後方支援の浄力者か? つうか内面は社会人なのに面構えが厳つすぎるぞ。職質とかされた事ない?


『少しだけ話で聞いたが、君がこの校で最優秀な生徒か。なるほど、活力に満ち溢れている青年だな。何分呪詛については私も分からない事だらけだ。よろしく頼む』


『こちらこそよろしくお願いします!』


 はいそうです! 僕が主席四葉貴明です!

 いやあ、立派な大胸筋と上腕二頭筋ですね! 一目見た時から思ってたんですよ、こりゃあ浄力者の中の浄力者、プロ中のプロだって!


 それに僕も、プロさんの顔、かっこよさと頼もしさに満ち溢れてる顔だと思ってたんですよ!


『お、驚いた。これほど流暢に我々の祖国の言葉を話すとは。いや恐れ入った。最優秀生徒、伊達ではないな』


『ありがとうございます!』


 いやあ、僕もそのガタイを支えてる、ハムストリングスと下腿三頭筋のラインが伊達じゃないと思ってたんですよ! 足の裏っ側だけど。


『イワン、休学しているのによくすぐ来てくれた。君の力が頼りなのだ。頼んだぞ』


『お役に立てるかどうか分かりませんが全力を尽くします』


 あープロさんきゅうがくしてたんですねー。だいたい10ねんくらいかなー。いろいろあったんだろうなー。たいへんだなー。


 はい、そういうストーリなんですね分かりました。


『それでは早速始めましょう』


『なに? 一度外から見た方がいいのではないかね?』


『これは訓練ですが、学生を妖異に当てて戦力分析するのは面子に関わるのですよ』


 訓練場に上がろうとしたプロさんを、教官の一人が蜘蛛君の戦力分析は、と尋ねるが、プロさんにはプロさんの面子があるらしく、そのまま訓練場に上がっていった。確かにこれが実戦なら、学生を捨て駒にして妖異の戦力分析をした。という事になるだろう。


 国家も個人も邪神も、存在している、生きている以上、面子から逃れることは出来ないもんだ。社会ってのはそんなもんだろう。ま、プロさんのは個人的には好ましいけどね。


『名前はイワンだ。まずは浄力でのサポートに徹するので、君たちは普段通り動いてくれ』


『はい!』


 訓練場にいた学生さんたちは急に現れたプロさんに戸惑っていたが、プロさんから漂うプロっぷりを感じたのだろう。今にも敬礼しそうな声で返事をしていた。


 なお蜘蛛君は、プロさんが来てからずっと待機している。空気を読んで何もしないとは、蜘蛛君も社会というものを理解している。流石はホワイトタール企業社員、蜘蛛君教官だ。


『むう……! これは聞きしに勝る……!』


 そんな蜘蛛君がスタンバってる訓練場に足を踏み入れたプロさんだが、その蜘蛛君の呪力を受けてまさに熊の様な唸り声を漏らす。


 でも流石ですねプロさん。プロさんは今、何のバフも掛かっていない素の状態なのに、吹き飛ばされることなくしっかりと立っている。


『これは学生と私一人では手に負えんな……』


 戦力分析も的確だ。っていうかプロさん1人寄越して何とかなると思った誰かの方がおかしいのだ。人間を殺すことに特化した呪詛型妖異の非鬼だぞ? 最低限プロさんレベルが5人。確実に仕留めるなら10人は欲しい位だ。まあ、流石にそんなこと出来ないか。


 なにせ蜘蛛君が世に出て半年もたっていない現状、それだけのプロフェッショナルをいきなり動かすことが出来ない。まだまだ蜘蛛君は猿君も含めてお試し段階で、世界中が本当にそんな式符がいるのかと疑っている段階なのだ。


『よろしい。少し訓練の設定を変えよう。我々がしなければならないのは足止めだ。精鋭たちが到着するまでこいつを抑えて被害の拡大を防ぐ』


『イワン、勝手なことをされては困る! 目的はこいつの討伐だ!』


『まあまあアレクセイ教官。イワンの言ったことは尤もです。ここに来た目的は、実際の非鬼を生徒に体験させるものなのですから、彼らの身の丈に合った戦い方をまずは身に付けさせなければ』


 プロさんが自分が呼ばれた目的、蜘蛛君の討伐をあっさり諦め、とにかく耐えて実戦なら急行してるであろう、選ばれた精鋭が到着するまでの時間稼ぎをすると方針を変更した。


 しかしそれに異を唱えたのは、蜘蛛君討伐に拘っている教官。なのだが、思ったより蜘蛛君がヤバいからもう討伐は諦めて、本来の目的である学生が今のレベルで非鬼との戦闘を体験すればそれでいいじゃないかと、別の教官が説得している。


 それとその説得している教官は、それなら実戦経験豊富なプロさんの指導の下学生たちが戦った。という風に出来ないかなあっと思ってるっぽい。どうもプロさんと同じく羞恥心を感じているようだ。でも、プロさん制服着てるからなあ……いや、外見は戦闘服っぽいからそれ相応の性能を有しているなら誤魔化すことも可能……かな?


『では始めてくれ』


 そんな外野はなんのその。出来ないことは出来ないんだから、机上の最善より現場の次善だと言わんばかりにプロさんが訓練開始を告げた。


 うーん、まさにプロフェッショナル。

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