幕間 クラスメイトから見た学年主席と担任教師

「やっぱり親子だったりするのかね?」


「いや、俺もその可能性はあると思ってたんだけど、あいつ授業参観の用紙取りに行ってただろ? 学園長が親ならいらない筈だ。それに外見は全く似てない」


 訓練場に足を運んでいるのは、一年A組所属、伊集院和弘と京極道隆であった。


 彼らは朝のホームルームも終わり、次の時間は選択していない授業の時間であったため、空いたコマはロシア養成校を見に行くことにしたのだ。


 なおこの二人、入学当初はお互いの実家が犬猿の仲であったことから罵り合っていたが、戦闘会の個人戦でダブルノックダウンを果たした結果、へっ、やるじゃねえかと友情が芽生え、今では一緒に戦闘会のチームを作るまでになっていた。


 なお余談であるが、そのチームの残りメンバーは2人の女性で、同じく戦闘会でキャットファイトを繰り広げていたりする。


「いや、隠し子のアリバイ作りなんじゃないか? 2人とも考えが似すぎてるから、学園長から教育されてああなったんだろ」


 そんな2人が話しているのは、自分達の担任である学園長、竹崎重吾と、クラスの主席、四葉貴明についてである。


「そこなんだよなあ……なんであんなに2人とも考えが似てるんだ?」


 そう、落ち着き始めていた竹崎と貴明親子論が、ここ数日またしても再熱し始めていたのだ。


「普通、テスト用紙をコピーして持ち出すか?」


「しかも学園長褒めてたし」


 理由は単純明快。戦いの苦しさ、辛さ、死。そういったもの潜り抜け、実戦の中で徹底的に自らを鍛え込んだ竹崎と、生まれながらの邪神。悪い意味で、人の事嫌がることは進んでしましょうが座右の銘の貴明。この2人の相性が良すぎるのだ。


 特に戦い方や相手を出し抜く方法に関しては本当に考えが似ており、はっきり言ってこの点では実父である唯一名もなき神の1柱よりも、貴明の思考は竹崎寄りであった。尤も本神が聞けば人間の悪辣さだねえと感心しながら、パパの事も忘れないでねと涙を流す事だろう。


 そしてここ2日間の情報に関する授業でのやり取りで、ますます2人が似ていると話題になったため、親子論が再熱したという訳だ。


「貴明の訳って学園長の隠し子ってだけかな?」


「おい止めとけ。訳ありの訳に気軽に触れようとすんな」


 そうなると気になるのは、最近訳あり生徒と思われ始めた貴明の、ワケ、となるのだが、日本全国の異能者が集まる学園となると、時たまとんでもないワケを持っている者も出てくる。


「卒業した兄上の代には、卒業するときに非合法な組織に作られた、デザインベイビーって告げた人もいるんだ。兄上は心底、ワケを無理に突っつかなくてよかったと言ってた」


「それは……色々あれだな……」


「ああ」


 そのとんでもないワケの一つに、やはり訳あり生徒を深く探るのはよそうと決心し直す二人であった。


「それにしても、ロシアから急に連れてきた浄力者か。どんな奴かな?」


「橘みたいなやつだろ。同じ浄力者だ」


「ゲームとかアニメの見過ぎだ。雪を使って髪が白とか青で、クールで切れ長な目をして口数が少なかったら、なんでもロシア人だって言いそうだな」


「俺そこまで言ってないんだけど、どうしてそんなに具体的なんですかね?」


「……」


 名誉のためにどちらが言ったかは黙秘しよう。


 そんな2人がたどり着いた訓練場であったが。


『それは精神に作用する呪いです! 今から対処法を伝えます!』


『よろしくお願いします!』


「貴明、もういるし」


「あいつ、行動派って表現するべきか、落ち着きがないって言うべきか悩むよな」


 既に貴明が呪いの専門家として、蜘蛛の呪いに対する対処法を説明している最中であった。


 なお、当然というか彼らも貴明と小夜子を区別するために、下の名前で呼んでいた。なにせ絶対にないのだが、うっかり四葉と言って彼らにとっての恐怖の大王、小夜子が振り向いてきた日には、そのまま早退することになりかねないからだ。


「そういやアメリカと違って、ロシアは貴明に来てくれって言わなかったのかね?」


「こっそり頼んだんじゃないか? アメリカと対抗してるっていう面子掛かってるし。それにあいつは南條とかと違って、結構頼みやすい雰囲気出してるからそれほど難しくないだろ」


「ああいう事してるの見てると、突拍子もない言動に目を瞑ったら頼れる主席なんだよなあ」


 入学当初は、入学試験でゼロ点間違いなしのくせに、何故か自分達を差し置いて主席となり、しかも小夜子と結婚している訳の分からん不気味な奴だから、不用意に関わらない様にしておこうといった貴明の評価であったが扱いだった。


 しかしここ最近、一学期も終わろうとしてる時期になると貴明の評価は、突拍子もないことを言い出さなかったら、クラスを良くも悪くも引っ張っている、時たま頼りになる主席といったものになっていた。これこそ日頃の努力の賜物であろう。


「ところで、噂の浄力者は?」


「まだこっちには来てないんじゃないか? もったいぶってるんだよ」


「ああ今ちょうど来たんじゃないか? って男……」


「なあ…………」


「ああ…………」


「あ、貴明がずっこけた………」


「そりゃずっこけるだろ………」


「だな…………」


「ああ…………」


 2人が見ている先、訓練場から入って来た男はまさに威風堂々としており、まさにロシア校が切り札として急遽連れてきただけの格が備わっているように見えた。


 だがしかしである。上なのだ。何が上かというと格も上なのだが、


「「ぜってえ学生じゃねえだろ」」


 一応ロシア校の制服を身に纏っているが、年齢はどう見たって20代後半、ひょっとしたら30代かもしれない。


 つまるところ


 学生セミプロの切り札どころか、明らかに社会人プロがやってきてしまったのだ!


 だが安心してほしい! その彼は長く休学していただけで、たまたま復学したばかりのれっきとした学生! という事になっているのだから!

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