学園長死す(予定)

「おはよう諸君。伝達だが、ロシア校が使っている訓練場はいつでも見学自由だ。それと、どうも超力者のテレポートで、浄力の使い手を連れてきたようだ。昨日とはまた違った動きが見られるかもしれない」


 おはようございます学園長。


 ははあ、どうも昨日の対蜘蛛君は、ロシアの人たちにとって満足いくものでなかったらしい。それで態々テレポートを使える希少な能力者を使ってまで、次の日に浄力者を連れてきたということは、ロシア校の切り札的存在、もしくはこの学園で言うところの訳あり生徒だろう。


 ……まさかとは思うけど、学生ですって偽って現役バリバリの単独者みたいなやつ連れてこないよな? 言っちゃ悪いがアメリカと対抗してる時のロシアは、っていうかアメリカもだけど両方とも何するか分からんからな……。


「ところで何か配布物のある生徒はいるか?」


「はいあります!」


 なーんだ。いつ皆に渡そうと思ってたけど、気を利かしてくれるなんてありがとよゴリラ。


「その配布物は?」


「情報の授業のテスト用紙です!」


「あいたたたた! マッスル離れした!」

「はっくしょん!」

「ぶえっくし!」

「ちーーん!」

「ぶううう!」


 元気に配布物が何かを言うと五馬鹿達が騒ぎ出した。へっありがとよ。今すぐこの騒ぎに便乗して、俺が言ったことを無かった事にして誤魔化せってんだろ? でもネクロマンサー東郷さんだけは素で噴き出してるけど。


「よろしい配布しなさい」


「いったたた本当にマッスル離れした!」

「ええ……うっそだろ」

「同じ六羽烏を庇おうとしたら何事もなく話は進んだ。何を言ってるのか自分でも分からない」

「は、鼻水出ちゃった……」

「ごっほごっほ!?」


 ふ、でも相手はゴリラだから大丈夫さ。なにせ頷きながら許可を出してるんだ。だが五馬鹿も予想外だったようで、マッスルなんかはマジで肉離れ起こして痛がってる。


「私が情報のテストにおいてだけ、テスト用紙の盗み出しを推奨する。といった事を覚えている者は?」


 そのゴリラの言葉に、全員が手を挙げている。皆からあんた確かにそう言ったけど、結局ダメって結論したじゃんって声が聞こえてきそうだ。


「ではダメだと言った理由は? 南條覚えているか?」

 

「……荒らされると教員室の業務が滞る、と」


 一族至上主義者の南條君がこれまた、あんたそう言ったじゃんって顔で答えている。


「そうだ。では貴明、どうやった?」


「はい! 業務に支障をきたさない様、テスト用紙が保管されている夜中事務室に忍び込んで、事務長の机にあったテスト用紙をコピーし、それを持ち帰りました!」


「よろしい」


 おかしいな……よろしくねえよって皆の声が聞こえてきた気がする。面白がってるのはお姉様だけだ。


「貴明は、私が情報のテストにおいてのみ、用紙の盗み出しを推奨すると言った後に付け足された禁を破っていない。それならいいのだ」


 おかしいな……いい訳ねえだろって皆の声が聞こえてきた気がする。これが天丼ってやつか。


「では貴明、詳しい方法は?」


「はい! 僕の能力に関する事なので説明できません!」


「よろしい。分かるか諸君? 私に聞かれたからと言って、何もかもべらべらとしゃべる必要はないのだ。前にも言った通り、自分以外誰も知らない技を一つは持っていなさい」


 田舎からのお上りさんの俺でも、邪神けいたげふん、イケメン形態の事を詳しく説明したらドン引きされると流石に最近理解した。だから詳しいことは説明できません! ちょっと呪力が上がるだけですけど!


 でもなんだか、改めてやっぱ訳あり生徒だったかって思われてる様な気がする。ええはいそうです。単なる訳あり生徒なんですよ。邪神の息子で本人も邪神っていう。ね、ほんのちょっとでしょ?


「それでは貴明、配布しなさい」


「はい!」


 人数分プラス予備を持ってクラスの前に行き、先頭の人にその列分の用紙を渡す。


「えー注意事項があります。情報収集段階の現場と指揮系統の混乱、または欺瞞情報により、いくつかの問題において実際の状況と前提が間違っている物があります。例えば問6の2002年に長野で起こった猪型妖異の討伐は、問題上は1体の妖異と記載されていますが、実際は指揮系統の不備で2体の妖異を1体と思い込み、戦力不足が原因で第一次討伐隊は壊滅しています。そのため問題の精査をしなければなりません」


「素晴らしいぞ貴明。いや、まさか初日に指摘されるとは思わなかった。主席として見事な仕事ぶりだ」


 は? そんな事までしてるのかよと皆が問題用紙を凝視している。いや、それにしてもゴリラが拍手してくれるのはいいんだけど、ドラミングじゃないんだな。


「では私からきちんと説明しよう。ああ、これは欺瞞ではないから安心してくれ。問題用紙は諸君が使っている物をそのまま使う。全て実際に起こった事例を基にして問題を出しているが、先ほど貴明が言った通り、いくつかの問題は実際の状況と収集された情報に齟齬がある。書かれている情報をそのまま使って出された回答が正しければそのまま丸で100点満点計算。過去の資料から精査された正しい情報を使って正答していれば、100点満点に更にプラスして加算する」


 やっぱり俺が思った通りの計算方式だ。誤認情報に誰も気が付かなかった場合、点数がとんでもないことになるからな。


「しかし100点を超えても意味がないならモチベーションが上がらんか……そうだな、別教科で赤点を出してもギリギリならその余った点で補填しよう。おっと木村と如月、ギリギリ、だ。明らかに点が低かったら補填せずみっちり補習だ」


「ぐえええええ」

「神は死んだわ」


 馬鹿の中の馬鹿、木村君と如月さんがガッツポーズのまま机に突っ伏した。この2人、地の頭はいいくせに勉強が嫌いだからなあ。


「という訳で情報のテストに関しては以上だ。あとで貴明に礼を言っておきなさい」


 いやあ学園長、そんなお礼だなんて。でへへ。


 でも皆さん、どうも自分が知っている感謝の念と微妙に違ってるのが漂ってるんですけど。なんか、お礼は言わないといけないんだけど、そもそもお礼を言うための前提が何かおかしいって言う感じの、なんだかとっても複雑な念ですね。


「それと実技の試験だが、前衛である霊力者と超力者、後衛である浄力者と魔法使いでは、それぞれ行う内容は当然違う。浄力者に前衛である霊力者と同じ実技試験をしても全く意味がないからな。勿論、最低限度の自衛力は必要だが」


 当然ですよね学園長。東郷さんにマッスルと同じ仕事しろなんて無理無理。その無理を平然と押し付けてたのが初期のアメリカ校なんだけど。流石筋肉の国だ格が違う。


 ところで僕の実技試験は誰を呪えばいいんですかね?


「最後に………夏休み前に家族の授業参観と、三者面談を希望する者は用紙を取りに来るように……」


 ああ!? なんかゴリラから急に覇気がなくなっていく!? いったい何があったんだ!?


「はあ、親に見られるの嫌なんだけどなあ……」


 普通の家庭なら、もうこの年頃の子供の授業参観に来ることはまずないだろう。だが西岡君を筆頭に、結構な数のクラスメイトが用紙を取りに行っている。


 実は名家の皆さんは実家に帰省した時、妖異を討伐する生業上、結構頻繁に実戦に参加させられるのだ。勿論これは一族とか親とかが同伴した上で、雑多な小鬼、無茶苦茶フォロー受けながら頑張って少鬼を対象にするのだが、その前に訓練符の多い学園で自分の子供が今どれだけの実力を持っているか、実際に確認するため結構な数の親がやって来るらしい。


 だけど俺が親父を学園に呼ぶ? ないない。大体来たら、親父の顔を知っている名家の皆さんがパニックになるわ。


 じゃあお袋って言っても、お袋は異能の事に関してちんぷんかんぷんだしなあ。ん、待てよ? 親父の顔は神になる前の人間の顔を模してるだけだから、変えようと思ったら簡単に変えれるんじゃね? 素顔は単なる泥だし。まあそれに、学園長には随分世話になってるから、付き合いのある親父から直接お礼を言ってほしいんだよな。うん。それくらい世話になってる。


 しゃあねえ。俺は嫌だけど、学園長を労わるために親父に話だけでもしてみるか!


「学園長、僕にもその用紙ください!」


 ああ!? 学園長の覇気がゼロに!? いったい何があったんだ!?

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