異能学園スペシャルデラックス経験ツアー

『ぐああああああ!?』


 続いて訓練場に上がった20人ほど、その内1人が浄力者という編成も、現れただけの蜘蛛君にぶっ飛ばされて終了。


「ひょっとしてロシアの浄力者は、呪詛や穢れに対抗するのを想定してないのか?」


「ふむ、では問題。軍事の傾向が多分に見られるロシアの浄力者の役割とは」


「衛生兵ね」


 そんな彼らを見て、我がチーム花弁の壁は一つの結論を導き出した。アメリカもその傾向があったが、ロシアは輪に掛けて浄力者を外傷に対する衛生兵として位置付け、呪いや穢れといったものに対する対処がかなり甘い。


『ぐあああああ!』


 ああ、また次の組がやられた!


 ええい、ダメだよそれじゃあロシアの人たち! もう見ちゃいられない、全速力で向かうは色々作れる制作室!


 廊下を走るだなんてなんて悪い子なんだ。


 お邪魔します中に誰もいませんね! えーっと、これだ! 学園長に経費で落としてくれって言っといてくれ!


 ふおおおおおお走れ俺!


『ぐあああああ!?』

『があっ!?』


 急いで訓練場に戻ると、今度は人の数を抑えてその分余った指輪を全ての指に嵌めている。が、だめ! またしても蜘蛛君の出現と同時に吹き飛ばされるロシアの皆さん。


『馬鹿な! 指全てに指輪を嵌めても駄目なのか!? 一体どうなっている!』


 それは籠手だけ立派で他はモロ出しだからだよロシアの人! 確かに指輪の利点は全部で10のサポートを受けられることだけど、呪詛特化相手の呪いには雑多な守りは突き破られるんだ!


「学園長!」


 ターイム! 走りながらゴリラに腕をTの字にしてアピールする。


「うむ」


 流石はゴリラだ。俺が手に持っている物を見て、頷きながら蜘蛛君の起動を待ってくれる。


「経費で落としておいてくださーい!」


「お安い御用だ。君、彼は我が校で最も優秀な生徒の一人であり、言う通りアドバイスに従ってみてくれ。と伝えてくれ」


「分かりました」


 ゴリラの横を通り過ぎながら、唯一にして最大の懸念も片付いた。ついでに本当の事とは言え、通訳さんを介して俺に援護射撃してくれる。今度親父との飲み会のセッティングだな。


『皆さんこれを使って下さい!』


 俺が握りしめた秘密道具。それこそ!


 紐!


『は?』


 呆然とするロシアの皆さん。分かってるよ。単なる紐だもんな。だが今のあんたらには無茶苦茶重要なアイテムなんだよ。


『指輪に紐を通して、首と頭に巻いてください。いや分かりますよ。指輪の利点は固定されていて、戦闘中に気が散らない事もありますよね。でも体の末端、指から浄力の力を全身に行き渡らせるのは非効率なんですよ』


 分かる。プラプラ揺れて鬱陶しいよな。でもその指輪、大鬼の呪詛は防げても、非鬼の蜘蛛君の呪詛に対応出来ないんですよ。ならもう、急所を守るしかない。


『という訳で、頭と心臓を守ってください。これなら最低限守れます。とにかく脳と心臓です。これが呪詛に対する第一歩!』


 あくまで応急措置的な対応だが、もうこれは仕方ない。本当はダイヤを直接脳みそと心臓の中に埋め込みたいくらいだ。


『いや、だが……』


 当然だが、今まで習って来た事を急に変えることに戸惑っているな。いや、確かに呪詛型の大鬼までならそれでいいんだ。そのダイヤは全身を守ってくれる。が、蜘蛛君に対しては単なる籠手。なら金属プレート、じゃなかった。金剛石プレートを引っぺがして、頭と心臓に張り付けるしかないじゃない。


「もう一声貴明を援護する必要があるな。君、もう一度彼が、我が校で最も優秀な生徒の一人で、とにかく一度だけでも試してみて欲しいと言ってくれ」


「はい」


 流石だゴリラ、ナイス援護射撃! 今度親父を直接連れて来るから楽しみにしててくれよな!


『それなら、まあ……』


 流石は元日本最強。訓練場に立っている人たちが戸惑いながら教官殿たちに視線を向けると、彼らも物は試しだと頷いている。


『それと浄力者の皆さん!』


『浄……力者?』


『え、えっと、衛生兵、治療者の方?』


『ああ、私達だ』


 駄目だ、いくら国が違えば常識違うとはいえ、彼らの運用はマジで衛生兵なんだ。


『呪詛特化型との戦闘は、あなた方の力場に掛かっていると過言ではありません。指輪を頭と首に巻いてから。ちょっと展開してみて貰って構いませんか?』


『分かった。【神よ癒し給え】!』


 訓練場に広がる薄い半透明の幕。構成は……一神教、治癒。程度は……四肢がもげた程度は難なく戻すな。治癒一点においては学生レベルを超えている。しかし、今必要なのは違うものだ。


『では神よ守り給えと唱えながら、癒すのではなく、防ぐ! この気持ちを強く持ってください』


『【神よ守り給え】!』


『そうです。ですが、指の先から力を出すのではなく、意識するのは今付けたダイヤモンド。これに脳から、そして心臓から力を注ぎこんで放出するイメージでお願いします』


 変な癖がついてると思ったが確信した。普段の訓練から銃も使っているのだろう。そのせいで銃器を扱う延長上で指先に力を込めている。それでいいのは超力の超力砲だけだ。


『浄力は心の力です。末端の爪から出すのではなく、心が必要なのです。いえ、脳と心臓の解剖学的なイメージは捨ててください。心が、メンタルが強いと言われてイメージする、あやふやな物でいいんです。そして腹に力を込めて、全身の力をダイヤモンドで増幅……一気に開放! さあもう一度唱えて!』


『【神よ守り給え】!』


 訓練場に展開される半透明、しかし白く輝く力場。強度は足りている!


『よーしでは皆さん行きますよ!』


 この力場と、各々が首と頭に巻き付けたダイヤモンドで大丈夫だ。


「学園長!」


「うむ。起動!」


『キキキキャアアアアアアアアアア!』


『ま、全く違う! 姿を現してないとはいえ余裕がある!』


『まだまだ本番は次ですよ!』


 そこ油断するんじゃありません。まだ蜘蛛君は姿を現してないんだから。


『キヤアアアアアアアアアアアアアアアア!』


『おお、おおおお、おおおおおおお!』

『んぐぐぐぐぐぐぐぐ!』

『がっ!』


 よし姿を現した蜘蛛君に耐えてる! だがまだ耐えてるだけだ! 蜘蛛君ちょっと待っててね!


『力を籠めるのは心です!そしてダイヤモンドです! 指先じゃありません! それは超力でも同じです!』


 歯を食いしばりながら無意識にダイヤモンドではなく、日頃の訓練の賜物で指先に超力を集めている面々に近づき、ダイヤモンドを意識する様その指を丸めてダイヤを握らせる。急に女性の指を握るのは申し訳ないが、後々命に関わりかねないのだ。すまんが許してくれ。


 む!? 1人が今にも倒れそうだ! 邪神アイ発動! 相手のメンタル構成を何となく把握する!


 熱血軍人タイプだ!


『どうしてお前は倒れそうなんだ! 周りを見てみろ! 膝が笑っているのはお前1人だ! ははあ、分厚い氷山の心を全員持っていると思ったが、お前は違うみたいだな』


『いいえ違います!』


『ならどうして溶けかけたバケツの水になってる! おおっと、呪詛型に対して怒りなんてものを燃料にするなよ? その心はお前を直接殺すぞ。必要なのはぶっとくてどでかい氷山の心だ! 横には誰がいる!?』


『戦友であります!』


『後ろには!?』


『戦友であります!』


『斜めには!?』


『戦友であります!』


『前には!?』


『敵であります!』


『ならやることは決まり切ってるな! 戦友と共に敵を打ち倒す! それ以外は!?』


『ありません!』


『よーしいいぞ! 今お前の心は氷山になった!』


『ありがとうございます!』


 これでよし。


 折角我がブラックタール帝国に来てくれた皆さんを、面子丸潰れで帰国させるなどさせませんとも! まあ国元にいる上の面子は潰れるかもしれんけど、現場の彼らは伊達にして返す!


 ついでに彼らは人数が多い分、他の皆も体験して帰ることになっているらしい。


 蜘蛛君! 猿君! 猫君! 犬君! ロシアの皆さんにスペシャルコースを体験して貰って、対妖異もばっちりになって帰ってもらおう!


 えいえいおー!

『キキャ!』

『ゴア!』

『にゃあ』

『ばう!』


 では私はこの辺で訓練場の上から失礼します。ん? なんか見学席からの視線が俺に集中しているな。ま、ロシアの皆さんに的確なアドバイスをしたんだ。主席として当然か。


「四葉貴明ただいま帰りました!」


 2階にいた我がチームとゾンビ共と合流するが、はて? 俺が主席的なのは皆的にはいつも通りな筈。それなのになんか感じが変だ。何かあったか?


「流石だな貴明」


「はっはっは。照れちゃうよ藤宮君。ま、主席だしね!」


 よかった藤宮君はいつも通りだ。しかし、お姉様以外の他の皆は一体……お姉様そのニタニタ笑い素敵です!


「ああ。最初に蜘蛛の見学に行った時も平然としていたが、この訓練場の上は圧を直に受ける事になるのに、変わらず平然としているとはな」


 あ!?


 また呪詛の専門家って疑われちまう!?

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