秘密兵器

「知っているとは思うが、現在我が校にはロシア異能養成所の生徒達が来校している。そのため午前中は彼らの見学だ」


 ロシア校と打ち合わせしながら、担当クラスの引率は大変ですね学園長。別に主席として僕が引率してもよかったんですよ? そう、しゅ!せ!き!として。


「だが午後も私は手が離せられないかもしれん。その場合は主席の貴明に連絡するので、皆彼に協力してくれ。その時は頼んだぞ貴明」


「はい学園長!」


 かーっしゃあねえなあ! でも俺様主席だから任せとけ学園長!


「それでは訓練場に移動する」


 いやあ、ロシアの皆さん大丈夫かなあ……。


 ◆


「あかんでしょ……」

「マッスルはいいのだが……」

「どうすんだこれ……」

「小百合出番よ……」

「私一人じゃ……」


 外部に蜘蛛君の気配を漏らさないよう、一際強力な結界が張られている訓練場の見学席、そこにいたゾンビとネクロマンサーの言葉がこれである。いやこれマジでどうすんだ?


 でも東郷さん、貴女がこのメンタル値100の精神系の呪詛が素で効かないゾンビ共に、対呪詛的防御バフを掛けるなら一人でも大丈夫です。尤もそこらのちんけな知能を持たない妖異と違って、蜘蛛君はそれを絶対にさせないだろうが。


 そして二階から見ている俺達の下には、若干戦闘服っぽい我が校の制服よりも、更に戦闘服っぽい物を着込んだロシアの生徒の皆さん。


「貴明、専門家としての意見は?」


「ははは、何言ってるんだい藤宮君。そんな呪詛に対する専門だなんて恐ろしい」


 そしてその隣には我がチーム、花弁の壁の皆。その一員である藤宮君に話を振られたけど、いやはや、そんな恐ろしい技術近寄りたくもないのに専門家だなんて。


「では主席の意見を聞かせて」


 だが橘お姉様に主席として尋ねられたからには答えねばなるまい。


「無理ですね橘お姉様」


 結論、無理!


 いやいや、真面目に無理無理。ゾンビ共ですら精神的呪詛は効かなくても、肉体を直接爛れさせるものは効くのに、況やロシアの皆さんは浄力使いがえーっと5人だけ!? いや無理だって。大気圏に生身で突入して、記憶喪失になるだけで済むなら大丈夫だけど、もうそんなの人類じゃねえ。


「だが……ロシアは呪詛型の討伐実績があった筈。何か切り札的なものがあるんじゃないか?」

「例えば?」

「ロシア特有の装備とかあったっけ?」

「あ、分ったかも。これよこれ。宝石」


『それだ』


 あまりにも呪詛型に対する備えが疎かなロシアの皆さんに、何かしらの隠し札があるのではないかと呟いたマッスル。それに対して紅一点が自分のイヤリングを弾きながら回答を導き出し、思わずゾンビだけでなくお姉様以外全員が異口同音に同意した。


「ああ来た来た。多分あのジュラルミンケースに入ってるね」


 そう言いながら佐伯お姉様の指さした先には、これでもかと厳重に封印されている複数のジュラルミンケース。なるほど、流石に邪神アイでバスを見ていなかったから、あのケースの中身の力まで感じ取れなかった。


「一番候補はダイヤね。全て金剛石の刀身……いけるかしら……」


「そうだね。確か採掘量は世界一の筈」


 佐伯お姉様すいません。今お姉様は、次に作る刀についての考えに没頭していて聞こえてないと思います。


 だけれどお姉様と、紅一点の推測は恐らく正しい。その国土に比例して、豊富な地下資源を抱えるロシアは、宝石類もその例に漏れない。そして太古より人類に神秘性、神聖を見出された宝石は、異能との親和性もばっちりで、同じく太古からの力である霊力、そして浄力を込める事に適しており、今回はそれを装備として持ち込んだのだろう。


 そしてその最有力候補は、ロシアが採掘量世界一のダイヤモンド。語源は征服されない、そして最も強い。宝石言葉は清純無垢。


 これに浄力を込めて、対呪詛に対する装備にしているんだろう。いやあ、流石に何かしらの準備をしていたか。下にいるゴリラも同じ結論に至ったのだろう。ケースを見ながらほっとしている。


 さーて、邪神アイ発動! ケースの中を確認する!


「ぐえっ!?」


「お、おい貴明大丈夫か?」


 座ってた椅子から仰け反って、そのまま後ろにひっくり返ってしまった! 藤宮君が声を掛けてくれるがそれどころじゃねえ!


 はわ、はわわわわわわ!


 ゴ、ゴリラ! じゃなかった学園長----!


 心の中で叫んだら学園長が気が付いてこっちに顔を向けている! 流石だなゴリラ! また機会を見て親父にってそれどころじゃねえ! 必要以上目立たない様、手首だけ動かす!


 聞いてくれゴリラ! あの中身ダイヤモンドの指輪なんだけどーーーーーー!


 慌ててゴリラが丁度封を開けられたばかりのケースに振り向いた! すげえぞ伝わった!


 ゴリラがまた俺を見てくる! 手首を高速で振る! またケースに振り向いて、またまた俺を見てきた!


「うっわあ。すっごい大きさのダイヤモンド。狭間、あれ取ってきて」

「ほにゃららに真珠」

「せやせや」

「殺す」

「むう、見事な金剛力を感じる」


 キラッキラ宝石に目が眩んでいる紅一点と、見た目はまさに金剛力なダイヤモンドに感心しているマッスル。そうだよな、能力の系統は何となくわかっても、やっぱり強さまでは入学時のダイスみたいなの使わんと分からんよな!


「単に指輪としての値も張るね。あのレベル、うちで取り扱ってたかな?」


「ああ。うちでもそう取り扱っていない」


 ああ、佐伯お姉様と藤宮君がハイソな会話を!?


 ってそれどころじゃなかったお姉様助けて!


「ぷっ。ぷふふっ。あれで。ぷぷ。あれでどうやって。ぷぷぷぷ」


 お姉様も助けが必要みたいだ! 少し待っていてくださいね!


 その指輪を装着し始めたロシアの皆さん。


 なんてことだ


 あの指輪







 呪詛特化でも非鬼である蜘蛛君の一つ下、大鬼に通用する程度しか力がねええええええ!

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