来校
今日も邪神的には最悪の天気、つまりいい天気の中、お姉様との朝食を食べていると気になるニュース、というか知っているニュースが流れてきた。
『今日のニュースです。本日は伊能異能学園に、ロシア異能養成所の生徒達が訪れることとなっており……』
朝の地域のニュースで言っている通り、今日の朝一でロシアからの生徒達が来ることになっている。
「今更だけど意外よね。東側のロシアがこんなに早く来るなんて」
「そうですねえ。まあ多分」
「アメリカへの対抗意識かしら?」
「そうだと思います」
お姉様の言う通り東側陣営の盟主ロシアなのに、西側陣営の日本に来るレスポンスが早すぎる。それがほぼ国が管理しているロシア異能養成所となると尚更だ。そういう時は大体決まっている。つまりアメリカへの対抗意識、早い話、アメリカ校が結局攻略できなかった蜘蛛君をぶっ倒そうとしているのだと思う。
「それならお手並み拝見ね」
「そうですね!」
まあ蜘蛛君が呪詛型なのは知られているだろうから、浄力者を揃えまくって封殺するつもりなんだろう。まあ、アメリカ校はアメリカ校で、ほぼ霊力と浄力が一緒になった一神教系の力を使っても蜘蛛君を倒せなかったから、そう甘くいくとは思わない事ですねロシアの皆さん!
いや待てよ? そもそもロシアの異能者って……
ん?
『続いてのニュースです。もうすぐお盆ですが、先日に奇跡の日が起こった事もあり、全国的に例年よりも大掛かりな準備が行われ……』
ぬ、ぬ、ぬわぁんだってええええええええええええええ!?
◆
やべえよやべえよ……なーんかお盆前にざわついてると思ったら……俺に踊れと言うのか? 盆踊りを?
「あら珍しい。学園長がいるわね」
「出迎えっぽいですね。思ったより早くロシアの皆さん来るみたいですね」
はて? なんか悩んでた気がするけどまあいいか。それよりもお姉様と一緒に登校すると、正門には学園長とそのほかの教員アンド事務員さん達がいた。どうやら本当に朝一でロシア校さんが来るみたいだな。それにしてもさっきまで何に悩んでたんだっけなあ。忘れたなあ。忘れたままの方がいいよな。うんそうだ。
いや、ロシアの異能者についてもなんか忘れてる様な……。
「おはようございます学園長!」
「おはようございますわ」
「ああおはよう。貴明、もし私が遅れても、予定通りロシア校の見学に変わりはないと通達しておいてくれ」
「分かりました!」
しゃあねえなあ。主席として伝達事項を皆に知らせておいてやるよ。
「ロシアがこんなに早く来るなんて、蜘蛛ちゃんをアメリカより先に倒すためでしょうか?」
「まあそうだろうな。しかし、何かこう、忘れていることがある気がする……歳はとりたくないな」
お姉様がいつもの素晴らしいニタニタ笑いで、ロシア校の目的を学園長に尋ねられたが、もう歳だなこのゴリラ。忘れてることは思い出せても、それが何かさっぱり思い出せないとは。でも奇遇だな。
「実は僕もなんですよ。なんかロシアの異能者の事で忘れてることがある様な……」
俺もなーんか思い出せないんだよなあ。
「うむ……まあそのうち思い出すだろう」
「ですね。どこいったか分からなくなったスマホを見つけた時みたいに」
「……」
このゴリラ、その例えはなんだって顔してやがる! 正しい例えだよ! 十人中十人は共感してくれるに決まってる!
「ってバスが来ましたね。お邪魔しましいいっ!?」
「そうだこれの事だった……こんな事を忘れていたとは……」
「く、蜘蛛君相手にこれはダメでしょ……」
「ダメだろうなあ……」
「あらあら」
正門からやって来た何十台ものバス、一体何人連れてきたんだ!? なんてのは別に驚くに値しない。今の今まで俺と学園長がすっかり忘れてたのは……。
「殆ど超能力者で、浄力者は殆どいないんじゃないの?」
「で、ですよね……」
お姉様の言う通り、バスから感じ取れるこの波動というか気配というか、そういったものがほぼほぼ超力だけなのだ!
だから思い出した! 四系統で一番安定感があり、長い詠唱や特殊な素質が不要な超力は、軍で最も研究されている異能なのだが、その中でロシアは世界で一番力を入れている。入れてるのだが、だからってほぼ全員超力者とか何考えてんだてめえ! そんなんで呪詛特化の蜘蛛君の相手できると思うなよ!
「対人を意識しすぎだ。これだから世界危険機関が制定した初期カリキュラムは駄目なんだ……」
ああ!? ゴリラがぶつくさ言い始めた! だが分からんでもない。どう考えたって連中の仮想敵は人間だ。じゃないと瞬発力と安定性が一番取り柄の超力者ばっかりな筈がないからな! 妖異を相手にするには火力とバフデバフが足りてない!
だがそれはそれ、ゴリラの負の念なんか浴びたくねえ! お姉様教室に行きましょう!
◆
◆
いや、超力者と軍の飽和攻撃、それと数少ない他三系統の異能者で極偶に出現する特危に対抗してるなんて話は漏れ聞こえてたけど、あそこまで極端だとは思わなんだ。
「よう貴明、なんか先輩連中がロシア校にざわざわ言ってるけど心当たりあるか?」
「おはよう西岡君。あるっちゃあるかなあ……」
ロシア校に考えていると、異能至上主義者の西岡君が声を掛けてきた。どうやら西岡君が来た頃には、どこか別のところにロシアの皆さんは案内されたようだ。そして、西岡君の言うざわつきには大いに心当たりがあった。
「実は来た人たちがほぼほぼ超力者なんだ」
「はあ? それでどうやってあのおっかない蜘蛛とやり合うんだ?」
「だよねえ。いや、世界各地に異能養成所が作られたとき、世界危険委員会が制定したカリキュラムは、対妖異のノウハウが全くなかったから、軍の人間相手の延長上で作られたんだよ。ここも学園長が大鉈振るったけど、アメリカ校の悪名高い対人オンリーの校内ランキングは有名でしょ?」
「なるほどねえ。確かにアメリカ校じゃ一時期、妖異には通用しないとか言われてたみたいだな」
世界中で爆発的に増えた異能者を育成する場所を立ち上げると決まったとき、そりゃもう混乱した。胃に剣、じゃなかった。異の剣が恩を売るためにノウハウをばら撒いたけど、それでもまあ混乱した。なにせ何百人もの異能者を集めて教育するなんて、前代未聞の一大プロジェクトだったからだ。
そのせいで、当時出来たばっかりの世界危険委員会が一律の方針として定めた対妖異のカリキュラムは、軍事訓練の延長上、対人間の色が非常に濃いものとなってしまったのだ。頭が固いと言うのは酷だろう、今まで、いや、妖異が蔓延る現代でも人間の天敵は人間なのだから。
「まあうちは学園長いたからそんなこともないよな」
「だね」
とまあ、そんな経緯があったのだが、それにプッツンしたのが我らがゴリラ、学園長である。俺らが入学するちょい前に学園長の座に就いたゴリラは、あまりにも対人間に振り切り過ぎてる状況を整理し、ついに今年度から対妖異の集団戦などを戦闘会に組み込んだのだ。
時代に、環境に、そしてなにより人間達の行いによってその正しさは変わるだろうが、今現在は……蜘蛛君がそれを証明するだろう……。
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