チーム【花弁の壁】

 花弁の壁。


 異能学園の歴史に燦然と輝く伝説的チーム。


 チーム名は四葉の花、桔梗の花、橘の花、藤の花と、それを飾り立てる壁、即ち佐伯の由来、遮るから来ており、学園最強の代名詞であった。


 学園中央に存在する花弁の壁は、そんな彼らの卒業を記念しての物である。


 とかになったらいいな! でへへ。


「きゃあああああああああ!」


 いや、実際これは決定しているようなものだ。なにせ我がチームが入場しただけで、これほど黄色い歓声が上がっているのだ。


 ん? 黄色い歓声?


「佐伯お姉様頑張ってー!」「お姉様ー!」「きゃああー!」「お姉様かっこいい―!」「こっち向いてくださーい!」


 げえっ!? 佐伯お姉様親衛隊!?


 応援席にやたらと女の子ばっかりの区画があると思ったら、我が帝国のプラエトリアニこと、佐伯お姉様親衛隊が応援席の一画を独占していた。


「んふふ。ちゅっ」


 ちょっ!? お姉様そんな、片腕をシュッと広げてかっこよく投げキッスなんかした日には僕はあああああ!? じゃなかった! 親衛隊が!


『ぎゃあああああああああああああああ!』


 うっせええええ! うっさっすぎてきゃあじゃなくてぎゃあに聞こえた!


「お姉「きゃあ「お「きゃああ「がんば「こっち「さい!「ってー!」」」」」」」」


 てめえこのプラエトリアニ共! 興奮しすぎて何言ってるか分からねえよ! それでも応援するつもりあるのかこら!


 こうなったら応援団長の技を見せてやる!


 えーっと、ビデオカメラとドリンクの入った入れ物を下ろして、背中の鞄から取り出したるは秘密、じゃなかった、応援グッズ!


 必勝の鉢巻きを額に巻き、ホイッスルを口に咥え、スティックバルーンを両手に装備して、親衛隊のいる一画の前まで駆ける。


 ピー!


 ピッピッピ!ピッピッピ!ピッピッピ!


 バンバンバン!バンバンバン!バンバンバン!


 鼻血を流す寸前まで血圧をあげて、完全に統制を失った親衛隊の小娘共の前でホイッスルとバルーンでリズムを取る。そして邪神の口から放たれるホイッスルの音がただの音な筈がない。バレない様にこっそりと、同調圧力を感じる呪いを親衛隊限定でばら撒く! そう、特に指示されてないのに列が出来始めたら並んでしまうアレ並みのだ。


『お姉様! がんばーれ! お姉様! がんばーれ!』


 忽ち統制を取り戻す小娘共。へん、応援団長に掛かればちょろいもんよ。


 どうでしたか佐伯お姉様!?


「ご苦労貴明マネ」


「あざっす!」


 もう皆は闘技場に上がって佐伯お姉様の声も殆ど聞こえないのだが、俺の邪神イヤーは聞き逃さなかった。


 いやあ、自分マネージャー兼応援団長なんでこれくらい。でへ、でへへ。


 ってあれ、対戦相手の先輩方いつの間に? すいません、ウチの応援団員がうるさくて全く気が付きませんでした。えーっと、邪神アイで確認したところ、盗撮した時と変わらず霊力者1、超能力者2、魔法使い1、浄力者1の構成と変わっていないみたいだな。


 ってのんびりしてる暇はない。急いでマネージャがいることを許されている、闘技場すぐそばのベンチに戻る。


「ふふ、扱いが上手ね」


「ちょろいもんですよ」


 くすくす笑われながらベンチに足を組んで座っている、これぞまさに女王陛下のお姉様にも褒められてしまった。


 えーっと、ビデオカメラのセットをしないと。三脚を広げてっと。準備完了、録画開始をぽちっとな。


「それでは、試合開始!」


 えっもう!? 俺ちょっと他の事してて対戦相手のチーム名も知らないんですけど!?


「【四力結界】」


 開幕早々、藤宮君の十八番である四系統一致の四力結界が発動した! あの無敵結界が発動した以上こっちのもんよ、勝ったなガハハ!


「虹色の結界!?」

「なんだこりゃ!?」


 普通結界と言えば、半透明な薄い膜の様なものが一般的だが、この結界は半透明は半透明でも虹色に輝いている。それに驚いてつい声を上げてしまう先輩方。ふっふっふ、不勉強ですね。今度俺と筋肉が読んでいた論文を机に置いてあげましょうか?


 まあ、それは今の戦いと何の関係もないんですけどねえ! 初見の怖さというものをたっぷりと味わうがいい!


「【雪の切り切り舞い】」


 その藤宮君の後ろでは、橘お姉様が佐伯お姉様の魔力の収束速度を上げている。しかし、敵にデバフは掛けていない。もっと重要な役割があるのだ。


「「【超力砲】!」」


「【不動明王斬り】!」


 おおっと、先輩方も驚いてばかりじゃいられないと、超能力者二人がその力で念力の塊を発射し、要注意人物の霊力者が不動明王の力を宿した燃える剣で突っ込んできた。


 しかあああし!


「なんだこの結界は!? 固すぎるぞ!」


 超能力者の基礎の基にして奥義、超力砲、あるいは超能力砲、あるいはあるいは念力砲と呼ばれるこの技は、ほぼ溜めなし、無色透明、空気抵抗を受けない念力の砲弾を発射する、殆ど全ての超能力者が全幅の信頼を置いている技だが、藤宮君の結界を抜くには全く威力が足りていない!


「剣も弾かれる!?」


 だからって不動明王の剣でも無駄ああああ!


「【四力砲】」


「今度は虹色の攻撃!?」


「後ろを守れ!」


「か、数が!?」


 しかも藤宮君は、この結界を維持しながら、というか結界から虹色の弾丸が生み出されて連射される。そう、連射である。例えば超能力者が気合を入れて超能力砲をぶっ放している間に、藤宮君は威力は劣るものの10発は叩き込めるという、圧倒的な回転率を誇っているのだ。しかもそれが全く止まない。


 先輩方は攻撃から一転、後ろにいる魔法使いと浄力者を庇うのに全力だ。


「【負加】! 【負加】! 【負加】!」


「芳樹落ち着け! 切り替えて俺たちにバフしてくれ!」


 浄力者の手から伸びる黒い布の様なモノが、藤宮君の結界に纏わりつくが即座に弾かれている。俺が見るところ、負荷を付加するという言葉遊びで威力を増してるな。


 浄力のバフデバフは、こうやって言葉遊びで威力を上げられるので、中には単なる駄洒落みたいに言う奴もいる。


 しかしあの浄力者、なんでデバフばかりで味方にバフを掛けないんだ? ってああ。


「予定ではデバフをこちらに掛けてから、次に味方へのバフの順番にしようとしてたようね」


「ですねえ。デバフに固執してます」


 どうも相手の必死な顔してる浄力者さん、初手は我がチームにデバフを掛けるところから始めようとしてたみたいだけど、藤宮君の結界が強力でどうにもならないから、完全に遊兵と化してしまっている。しかも視界を埋め尽くす藤宮君の攻撃と、それを必死に防ぐ味方の高速移動でテンパって、味方へのバフという切り替えが出来ていない。


 まあしゃあない、瞬発力に定評ある超能力者の10倍の回転率で攻撃されているのだ。いきなり初見で難易度最高のシューティングゲームにチャレンジしたら、そりゃ攻撃ボタン押しっぱなしで固まるだろう。


「【さあ凍冷こおれ すぐ氷冷こおれ 冷たき手 冷気の息 凍える心臓 凍てつく足 この地は氷久雹凍ひょうきゅうひょうとう"】」


 しかし、相手に時間のロスがあるということは、その分相手の想定以上にこちらの、佐伯お姉様の魔法詠唱が完了するということである。四馬鹿達との訓練で使用した魔法よりも、更に唱む時間と字数を伸ばした氷の魔法が、橘お姉様の氷のバフが掛かった、術として放たれていないにも関わらず、闘技場の地面全てを凍てつかせた絶対零度の


「あれを使う!」


 来た!


  間違いない、目と喉に力を溜めている!


 そうだろう! 佐伯お姉様を止めるには一か八か使うしかないよなあ! お前のその相手に不動を強いるその業! 事実それだけが藤宮君の結界を抜ける懸念があった! だがそれを待っていたああああああ! 待っていたぞおおおおおおおお!


 橘お姉様は、佐伯お姉様に最低限のバフだけを掛けた後、じっと霊力者だけを見ていた。喉を、目を!全てはこの時の為に!


「【氷雹響鏡ひょうきょう】」


「【不動!】明王!」


 藤宮君の結界の前に現れたのは、冷気を漂わせた荒い氷と雹で出来た白と青の鏡。それが、


『【不動!】明王!』


 相手の霊力者が放った声と視線をそのまま跳ね返した。


「んなああああ!?」

「ば、馬鹿な!?んぐぐぐぐぐ!?」

「う、うごけええええ!」


 はーっはっは! あれからたっぷり盗撮動画を見返して、お前が目と喉に力を込めていたのは分かったんだ! つまり術の発動条件は見と耳! しかもガクッと減った霊力から、連射の出来ない一発限りのとっておきってこともな!


 それを音響装置付きの鏡で跳ね返されたお前たちは、今! 現在! 鏡で自分を見ちまったメドゥーサ同然!


 そして術の効果はきっかり2秒なのも分かっている! 十分! あまりに十分!


「さあいっけえええええええええ!」


 佐伯お姉様が胸元で溜めていた絶対零度を放出する。


 速度は藤宮君の攻撃と比べるとはっきり言って遅い。しかし、2秒ではどうすることも出来ない。


 そして、青白く光る球が敵チームの前で……


「ぐあああああああああああ!?」


 闘技場から吹っ飛んだ先輩達。


 いやあ、これが訓練用の結界内でよかったよかった。なにせさっきまで相手がいた場所は、


「加減が必要だったわね」


「全力攻撃は佐伯お姉様らしいです!」


 お姉様の言う通り、全く加減なしに放たれた氷の魔法は、大体10メートルほどの氷の大輪を咲かせていたのだ。


 実戦だったら未来にコールドスリープ出来るところだっただろう。あるいは圧し潰されてベチャ、である。


 しかしこれでも佐伯お姉様が得意なのは炎の魔法というから、全力で炎の魔法を使われたらどうなるんだろうか。魔法使いが市街戦に全く向いていないと言われるのもむべなるかな。


 ま、今はそんなことはいい!


「勝者、花弁の壁!」


「お疲れ様でえええす!」


 審判の勝利宣言と共に、タオルとドリンクを持って皆に駆け寄る。


 勝ったぞおおおおおおおおおおお!

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