チーム【五羽烏】?

「お疲れ様です!」


「いやあ勝った勝った。でも喉乾いたね」


「俺も肩が凝った」


「私は目」


 闘技場から降りてきたチームの皆にタオルとドリンクを配る。一見ほとんど動いていない皆だけど、藤宮君はほぼ一人で前線に立ち、佐伯お姉様は魔力の収束に集中して、橘お姉様はタイミングがシビアな相手の必殺技に合わせるためずっと凝視していたせいで、全員少しお疲れ状態だ。佐伯お姉様に至っては、腰に手を当てて漢らしくドリンクを一気飲みしてる。


『ぎゃあああああああ!』


 どわっ何事!? って分かり切ってる!


「お姉様おめでとうございます!」「かっこよかったです!」「そのペットボトルくださいー!」「きゃああああ!」「お姉様ああああああ!」


 うっせえんだよプラエトリアニ共! 俺が掛けた同調圧力の呪いを弾き飛ばすくらい興奮するんじゃねえ! それとお前らにペットボトル渡したら、分別もしないどころか永久に飾りそうだから駄目だ! 地球に優しくない!


「んふっふっふ」


 あ、佐伯お姉様!? そんなパチリとウインクを決めたら僕はああああ!? じゃない!


『■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!!』


 うっせええええええ何言ってるか分かんねええええ! もう声じゃなくて音波兵器になってるぞてめえら! 周りの席を見てみろや誰もいねえじゃねえか!


「ふふ、人気者ね。じゃあお昼を食べ終わってから反省会かしら」


「そうだね小夜子。かわいこちゃんたちにもサービスし終わったし」


 お姉様が素晴らしいニタニタ笑いで佐伯お姉様に声を掛けるが、ややややっぱり佐伯お姉様!?


 ってそうじゃない。


「ではまた後でな貴明。マネージャーをやってもらっていてあれだが、あまりオーバーワークするなよ」


「そうそう」


「勿論!」


 藤宮君と佐伯お姉様が気を使ってくれる。実はちょっとだけこの闘技場での仕事が残っているのだ。


 ◆


 えーっと、この控室か? うん、中からの気配に間違いない。


 ノックノック、チラ。合ってる合ってる。


「お、貴明悪いな」

「感謝する」

「これが出来る男ってやつね」

「せやせや」


「ごめんね貴明君」


「どうってことないさ!」


 控室にいるのは、清楚美人東郷さんと毎度おなじみ四馬鹿共。


「情報を制する者が勝負を制する。勿論自分たちの戦い方もだ。が」

「記録係してくれる伝手がないから助かった!」

「これがボッチね」

「せやろか?」


「私も一番上の姉さんは教師だし、その次の姉さんは試合が控えてるの……」


 そう、用事とは彼らの戦いを撮影することなのだ。三脚乗せたビデオカメラを置いたら人いらないじゃんと思うなかれ。闘技場中のステージで常に爆発やら振動が起こっているのだ。何かの拍子で倒れたり、それが原因で壊れることを考えたら、どうしても機材に張り付いた人間が一人は欲しい。


 が。


 こいつら名家の出来損ない扱いされているせいで、他の連中との交流がほぼ無いのだ。理由は違って、お姉さん達と比べられるのが嫌で、あまり人との付き合いも積極的でなかった東郷さんもそれは同じ。


 これがほかの名家のクラスメイトなら、別チームの付き合いがある奴に頼んだり、それがいなくても同じ一族の上級生に頼み込むのだが、それが出来ないときた。


 つまり、その係をやってくれる人の伝手がないのだ。

 

 そんな哀れなほど悲嘆に暮れて、絶望の崖っぷちにいる彼らを救ったのが、何を隠そう救世主席、四葉貴明である。


 困った困ったと言いながら、今日はバニラかココア、どっちのプロテインを飲もうかとロッカー室で選んでいた北大路君に、ココア風味の方を進めながら撮影係を引き受けたのだ。


 かあああっ出来る男は辛いわー! 仕事が忙しすぎて困っちゃうわー! 蜘蛛君もこれくらい充実してるんだろうなあ! 来週はもっと充実するよ蜘蛛君!


「次お願いしまーす」


 お、係の人がやって来た。


 そういやこのチームの名前を知らんな。ま、我がチームほどのネーミングは期待できんだろうがな!


「よし、チームマッスルの初お披露目だ」

「それお前だけ」

「チーム五羽烏に決まったでしょ」

「せやせや」


「それは却下したでしょ!」


 はて、マッスルでも五羽烏でもない? いや、五羽烏は分かる。東郷さんが死ぬほど反対したに決まってるからな。じゃあなんだ? うーむ。


 おっと、考えてたらもう入場ゲートだ。撮影だけじゃなくて一応応援もしてやるか!


『それでは次は、チーム【ゾンビーズ】の入場です!』


 ぶうううううううっ!? あ、アホかああああああ! じゃなかったバカかああああああ!


 なんだそのネーミングセンス!? ああ、東郷さんの表情筋と目が死んでいる! ま、間違いない! チーム五羽烏がどうしても嫌だったから、妥協させられたんだ!


「もうダメ、これからネクロマンサー扱いされるんだわ……チーム名に妥協するんじゃなかった……」


 でもこれじゃあ、東郷さんの二つ名がマジでネクロマンサーになっちまう! ああ、東郷さんの首が傾いていく! もう試合前にグロッキーだ!


「行くわよゾンビ共!」

「そりゃお前もだ」

「そういえばゾンビに超回復はあるのか?」

「知らんわ」


 でも馬鹿共は平常運転! こ、これがメンタル100……!


 あ、ちょっと待てよ……これ俺もゾンビ扱いされるんじゃ!?


 邪神はいいけどゾンビはいやあああああああ!

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