マネー邪ー

「ちょっと遅くなっちゃったわね」


「いやあ、お姉様と一緒にいると時間が経つのが早いです!」


 放課後にお姉様方&マイフレンドチームのマネージャーを務めていたから、帰るのが少し遅くなってしまった。この後異能スーパーで色々買う事を考えると、家に着くころにはすっかり夜だろう。いやあ、お姉様と一緒にいるとついつい時間の事を忘れてしまう。


「もう」


「あいてっ。でへへ」


 だが本当の事を言ったら、お姉様にデコピンされてしまった。なぜ? とは言うまい。でへ、でへへ。


 ってあれ?


「その制服、能学園の学生さんだよね? これをどうぞ」


「あ、どうも」


 いつもの異能者御用達スーパーへ行くための曲がり角、そこにいた普通の兄ちゃん姉ちゃんからチラシを受け取った。商店街の入り口にいるような人から、企業の宣伝のポケットティッシュを貰う俺からすれば、くれるもんなら何でも頂戴のスタンスなのだ。


「なになに?」


 歩きながらチラシを広げて内容を読む。


 えーっと、要約すると、旧人類は馬鹿アホ間抜け。異能者最高。ってこれ異能過激派の宣伝じゃねえか!


「ふ。何処にでもいるのね」


 俺の手に有るチラシをチラッと覗いたお姉様も鼻で笑っている。


「有象無象なりの自己主張なのかしら? 滑稽ね」


「ですね!」


 ちょっと前、蜘蛛君に食われた連中、えーっとなんだっけ。あの世への階段? ですら達人揃いだったのに、お姉様にとっては有象無象に過ぎなかった。さっきの兄ちゃん姉ちゃんは、異能はほんの少し感じたけど、戦闘者って気配もなかった単なるパンピー。つまりお姉様にとっては、ミジンコが俺は偉いと言ってるようなものなのだ。


「メモ用紙の代わりにもなりませんね」


「全くね」


 お尻拭く紙にもなりゃしねえ。という訳で、周りを見てーの、誰もいないな。口の中に突っ込んでパクっとな。


 もぐもぐごっくん。


 うむ。そこそこいける。


「自分をゴミ箱代わりにするのはどうかと思うけど、あなたに言わせれば美味しいのよね」


「勿論お姉様のご飯が一番おいしいです!」


「……もう」


「あいてっ。でへへ」


 この世で一番おいしいものはお姉様の手料理と決まっているが、こう、なんというか妄執が滲み込んだ物も、これはこれでオイシイのだ。


 うーん鼻腔に感じるこの臭い。異能が使える自分達は使えない者達より上なのだ。そうだ。その通り。奴等は劣っている。自分達こそが正しい!


 ぷぷぷ。嘘ばっかり。


 そうでなければいけない。の間違いだろう?


 間違ってるのは世の中だもんなあ?


 ぷぷぷ。

 ぷぷぷぷぷぷ。


 そうとも必要だよな! 下が! 踏んでいいのが! 惨めなのが! 劣るのが! 這い蹲っているのが!


 じ!ぶ!ん!よ!り!も!


 孟子も荀子も笑うだろう! 性善、性悪以前に、どうしようもない底抜けの馬鹿の事を忘れてたってな!  


 あ!は!は!は!は!は!は!あははははははははははははははは!


「あなたも変身しかかってるんじゃない? 写真を撮ってあげないと」


「おおっとすいませんお姉様」


「ふふ。それじゃあ貴方の好きな美味しいものを作ってあげなきゃね」


「わーい!」


 お姉様のご飯ご飯。楽しみ!でへへ。


 ◆


 ◆


 ◆


 わーいぼくのだいすきなからあげらー。


「いただきまーす!」


「はいどうぞ」


 うーん香ばしい匂い。ドロドロした臭いもいいけど、この塩胡椒のスパイシーさが食欲をそそる。やっぱりレモン派とは相容れないな。親父も塩胡椒派でよかった。さもなくば、第百次スーパー邪神大戦が始まっていた事だろう。


「美味しいです!」


「それはよかったわ」


 噛んだ瞬間、じゅわっと肉の旨味が口いっぱいに広がった。白ご飯白ご飯。美味い!


『今日のニュースです。保管されていた流星刀が盗難されていたことが分かりました』


 ピシリ


「なんですって?」


 ひょえ。


 おおおおお姉様の圧ががががが。


『この流星刀は榎本武揚が刀匠に作らせたことで有名で、その材料には隕石に含まれていた鉄を使用しており……』


 今ニュースでやっているが、榎本武揚が刀匠に作らせた元祖漢のロマン武器こと流星刀は、なんと地球に落っこちてきた隕石から採れた隕鉄を鍛えた刀なのだ。いやあ、隕石を鍛え上げた流星刀かあ。響きからしてかっけえよなあ。俺も欲しいなあ。あ、お茶飲まないと。変だな、喉がカラカラだ。


「隕鉄で作られた刀は見た事ないから、直接行って参考にしようと思ってたのに」


「おおおおお姉様ままま、おおおおおおちちち、落ちついてくだされれれれ」


 現実逃避はよさないと、お姉様がご立腹だ!


 者共出あえ!


 蜘蛛君! はタイムカード押したばかりだったね。


 猿君! ゴリラが胃を押さえながらやって来たあ!? 何かあったんか学園長!?


 猫君! 訳ありの学生と戦ってるって!?


 犬君! そうだ犬君だ! 犯行現場まで行って犯人の臭いを追跡すれば一発だ! という訳で犯行現場まで行こう! え? ブルドッグは警察犬として認められてない? そうだったのか……。豆柴は? おっとごめんごめん。豆柴じゃないよね。君はもう立派なブルドッグだった。ん? それに警察犬は超々難関試験を潜り抜けた猛者中の猛者で、自分じゃとてもとても? なるほどねえ。犬の世界にも色々あるんだなあ。


「ま、よく考えたら割と何本かあるから、それほど気にする必要なかったわね。さあ、冷めないうちに食べましょう」


「はいお姉様!」


 お姉様の圧がすっと消えて俺に微笑んでくれる。

 確かにお姉様の言う通り、世界中で考えるのは一緒なのか、隕鉄製の剣と言うのはちょこちょこある。やっぱ漢の魂に国境は無いんだなあ。


 だがそれはそれ、これはこれ! お姉様の予定を狂わせるだなんて、この四葉貴明が絶対に許さん! 覚悟するがいい!


「お代わりもあるわよ」


「わーい!」


 お姉様のご飯美味しいー!

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