マネージャー?

「よし、今日はこれくらいにしておこうか」


「そうね」


「お疲れさまでした! 飲み物どうぞ!」


 俺が盗撮したデータを基に行われた訓練も終了した。


 紙コップに入れたスポーツドリンクを皆に渡す。やっぱりこういう時は粉を水に溶く奴だよな。異論は認める。


「小夜子、ボク達いけそうかい?」


「なるようになるわよ。ふふ」


「そう言うと思った」


 佐伯お姉様の質問に、いつもの素晴らしいニタニタ笑いのお姉様。


「よし、じゃあ解散しようか。ご苦労貴明マネージャー」


「はい! お疲れさまでした!」


「あら、私は?」


「小夜子は面白がってただけでしょ」


「ふふ。そうとも言うわね」


 佐伯お姉様に労わられてしまった。でへ、でへへ。

 でも佐伯お姉様、お姉様がいるだけで華があるじゃないですか。


「それじゃあ私達は行くわね」


「それでは皆さんまた明日!」


「はいはーい」


「お疲れ様」


「今日は世話になった」


 皆と別れの挨拶をするが……今俺最高に青春してね?


 ◆


「今なら猿ちゃん空いてるかしら? ちょっと新しい刀の感触を確かめたいのよね」


 おっと、お姉様は帰りに試し切りを御所望の様だ。


「えーっとちょっと待ってくださいね」


 もしもし猿君聞こえますか? お姉様が猿君で試しぎげふん。訓練したいそうなんですけど、空いてますか? 空いてる? 分かりました。


「空いてるそうです」


「それじゃあちょっと猿ちゃんで試し切りしましょう」


「分かりました!」


 もしもし猿君、すぐそっちへ行きますね。


 ◆


 やって来ました学園長の別荘。じゃなかった、地下訓練場。


「それじゃあ猿君呼びますね!」


「ええお願い」


「猿君起動!」


 早速猿君が収められている木箱を学園には内緒で開けて、猿君を取り出し式符を起動する。


『オオオオオオオオオオオオオオオオ!』


 現れたのは相変わらずデカ……んんん?


「あら、パワーアップしてるわね」


「猿君その鎧はいつの間に!?」


 お姉様が相手なのだ。猿君が最初から阿修羅モードなのは当たり前だろう。問題なのは、全く俺が身に覚えのない鎧、それこそ八部衆が纏っているような奴を猿君が身に纏っている事だ。


「経験値!? 経験値を溜めて進化したのかい猿君!?」


 なんてことだ! あのゴリラとずっと戦ってるうちに猿君は進化したのか!


「なら試すには丁度いいわね」


『ゴオオオオオオオオ!』


 ああ!? 猿君が持っている武器全てを叩きつけた! お姉様が笑っている最中に攻撃するなんて卑怯だぞ猿君!


 お、お姉様ああああ!?


 あ、猿君後ろ後ろー!


「前見た時よりも早くなってるわね」


『ゴアあああああああ!?』


 叩きつけた武器の付近にお姉様がいない事に気が付いた猿君は、慌てて後ろを振り向くがもう遅い。


 お姉様の両手にそれぞれ刀が。そして猿君のアキレス腱が切られる。凄まじい切れ味だ。


「しっくりくるわね」


 お姉様が感触を確かめる様に指を動かす。


 この二振りもまたお姉様のお気に入り。

 両者ともが時代の反逆者。

 言わば言え。


「さあ猿ちゃん。まだいけるでしょ?」


『オオオオオオオオオオオオオ!』


「そうこなくっちゃ」


 足首を切られてがくんと体勢を崩した猿君だったが、そのまま体を捻じってお姉様に武器を振るう。が、全く掠りもしない。目にも止まらぬとはこの事か。

 やはり相手が悪いとしか言いようがない。他の系統より更に身体能力を底上げできる霊力だが、それを極め切ったと言っても過言ではないお姉様を捉えるのは至難だ。


『ゴオアアア!?』


 そうしている間に猿君の腕が二本、あ三本目も切られた。お姉様マジ早い。たまに猿君とやりあってる学園長を覗き見してるが、その戦闘速度を楽々と超えている。


 そしてあの刀もまたヤバイ。なにせ知名度の塊なのだ。人の思念が、とてつもない反逆の意志が渦巻いている。


 一つの銘は明智近景。文字通り、言わずと知れた反逆者、明智光秀の刀。

 一つの銘は陸奥守吉行。時代の反逆者、坂本竜馬の刀。


 その二振りを参考にしたお姉様によって生み出された刀は、今度こそ守れるようにと、折れず曲がらず刃毀れせず。鉄壁の意志を持っている。


『オオオオオオオオおおおおおおおoooooo!』


「あらあら。本当に成長してるわね」


「す、凄いぞ猿君!」


 だが弱い自分を許せない猿君が、この状態でキレない筈が無い。


 目を真っ赤に血走らせた猿君の絶たれた腕から新しい腕が現われた。再生したのではない。突如青と赤の入り混じった炎が猿君を包み込むと、その炎が新たな腕となり、その三面には面頬が備わったのだ!


『武善悪無!』


 おお! 阿修羅の悪鬼の面で戦っていた猿君が、武に善悪など無いという真理に到達したのか!


 そして繰り出される無の斬撃! これはやばい!


 お、お姉様ーーー!?


 あ、猿君前ー!


「うふふ。この前のアララよりよっぽど手応えがあるわね」


『オオオ!?おおおおおおおおおおおおおお!』


 これには猿君もびっくり仰天。なにせ地下訓練場がぶっ飛ぶほどの攻撃なのに、お姉様は涼しい顔をして猿君の槍を、剣を、二振りの刀で受け止めているのだ。


 って


「お姉様ー! ちょっと変身しかかっちゃってますー!」


「あらやだ恥ずかしい」


 いや惜しい事した。ここにカメラがあったら思わず撮ってしまうところだっあいてっ。でへへ。


「全くもう。それじゃあ仕舞いとしましょうか。【逆向き】」


『ゴオオオオ!?』


 おお! お姉様の刀二振りが、それぞれ次元の流れを左右逆に渦巻いた!


 そしてそれに巻き込まれてしまった猿君は、何とか力んで歪みに巻き込まれた体を元に戻そうとするが、次元の歪みをどうこうする力は無い。そのまま次元の渦に体を左右に引っ張られ………元の式符に戻った。式神じゃないリアルの生物だったらとんでもない事になるところだった。


「うん。やっぱりしっくりくるわね」


「それは良かったです!」


 どうもこの二振りは、童子切り安綱と同じくらい気に入られてるようで、満足げにお姉様は頷かれている。


 お姉様も満足なら俺も満足!


 いやあしかし、猿君も成長してるんだなあ。ひょっとしたら他の皆も……他の皆?


 はて、何か忘れてるようななななな!?


 ああああああああああ!? やっべええええええ!


 やべえよやべえよ……。


 もしもし蜘蛛君聞こえてますか? そうですホワイト企業社長の貴明です。お仕事ご苦労様です。え? いやいや忘れてたなんてそんな事ないですよ。神に誓ってもいいです。でもそろそろ定時だからタイムカード押してください。いやあ、そんなに喜んでくれて嬉しいよ蜘蛛君。なんたってウチは親方日の丸だからね。ブラックダメ絶対。そうとも。あ、話は変わるんだけど、蜘蛛君目当てにロシアから学生さん達が大勢来るみたいだよ。え? だから、ロシアから学生さん達が、そう、大勢。いやあ、皇帝として俺も鼻が高いよ。ん? もしもし蜘蛛君? おーい。おかしいな。また急に電波の調子が悪くなった。


「それじゃあ帰りましょうか!」


「はいお姉様!」


 まあ一応伝えられたはずだから大丈夫か!


 ◆



 ◆



 伊能学園学園長 竹崎重吾


 うむ。藤宮は少し頭が固すぎると思っていたが、貴明と一緒に情報収集をしていたか。頭が固いと言っても、普通の生活をしていたなら美徳になる。だが命を懸けて戦う異能者では、柔軟性が無いのはそのまま命を落とすリスクになりかねない。


 破天荒なところは似て欲しくないが、貴明と行動するのは藤宮にとっていい刺激になるだろう。


 ん? 電話か、誰だ? 急に嫌な予感が……。



 ◆



 よし、親父への電話は終了。学園長も父兄から感謝されて嬉しいだろう。完璧なマネージングだ。

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