裏マネージャー2

「いやあ、これでぐっと戦いやすくなったね!」


「全くだ」


 お宝映像が入ったカメラを大事に抱えて、お姉様方が待っている教室へ足早に移動する俺と藤宮君。


「ん? 貴明と藤宮、そのカメラは?」


「せ、先生、いやこれは」


 そんな俺達の前に、廊下の角から現れたのは我らが学園長事ゴリラだ。そんなゴリラに対して、ついさっきまで覗き見していた藤宮君は、若干後ろめたいのか言葉に詰まってしまう。


 大丈夫さ藤宮君。君が覗き見中に、これが学園長が言っていた情報戦かと言っていたのは間違いないんだから。


「次の対戦相手の情報収集していました! こんな感じです!」


「お、おい貴明!?」


 俺がカメラに録画していた動画を学園長に見せると、藤宮君は焦って止めようとしたが、大丈夫大丈夫。


「なるほど、照明の隙間に潜り込んで上から撮ったのか。情報が大事だと言った私の授業を早速実践してくれたようで嬉しい」


「はい!」


「は、はあ」


 ほらね?


「大いに結構。戦闘会が終了した次の授業で、どのような考えと方法で情報収集し、それを実戦で役立てたかクラスで発表してくれ」


「分かりました! ですけど、どう実践で役立てたかは、藤宮君の弱点の露呈に繋がるので発表しません!」


 俺の情報収集はクラスメイトの為主席として発表していいが、実戦でどう役立てたかは没だ。藤宮君の結界が、四系統以外に対して弱点な事まで話さなければいけなくなるからな。


「ますます結構。呼び止めて悪かったな。一つ教師として藤宮に助言するが、四系統一致の結界は密度を上げれば上げる程、四系統以外の攻撃を受けた時の誤作動もなくなっていく。精進しなさい」


「失礼します!」


「あ、ありがとうございます」


「うむ。ではな」


 このゴリラやっぱりやるな。四系統一致の結界は、まだ机上の空論レベルでようやく書かれた論文なのに。多分表に居ない裏の連中との戦いか、付き合いで知っていたのだろう。というか……


「藤宮君、結界の事学園長に言ってた?」


「……いや、実戦で使ったのはさっきが初めてだ。こっそり練習はしていたが」


 あのゴリラ、さっきは間違いなくいなかったから、生徒の訓練の様子をこっそり覗きげふん。オーバーワークしない様に見守っていたりしてたんだろうな……。


「そういうお前も、初見でよくあの結界の弱点を気付いていたよな」


「これでも主席だからね!」


「なるほどな」


 腐っても邪神。じーっと目を凝らして邪神アイを発動させれば、何となくだが術の構成とどう動いているか位は分かる。勿論、論文だって暇な時は読んでるしな。今回も一応見てみるかと思ったマイナー論文が役立った。


 そしてそんな論文見てた四馬鹿の筋肉担当と俺は天才と言う事だ。証明完了。


「しかし、てっきり咎められるかと思った」


「大丈夫大丈夫」


 やっぱり学園長とは気が合うな。うん、親父に電話入れとこ。


 ってそれどころじゃない。ゴリラのせいで余計な時間が掛かてしまった。お姉様方―、今行きまーす!


 ◆


「うーん。文句なし、とは言わないけど、急増の割に結構いい線いってる気がするね」


「お姉様方! 丸秘のお宝映像持ってきました!」


「おっとそれはいけない。カメラ小僧から没収して確認しないと」


「どうぞ佐伯お姉様!」


 教室でさっきの対戦動画を確認していた佐伯お姉様に、秘蔵のマル秘映像が収められているカメラを献上する。あ、僕もこのチームはイケイケだと思いますよ。


「さーて何が出るかな、ってこれは!」


「まさか次の相手の?」


「はい! 盗撮して来ました! あ、学園長には褒められたんで安心してください」


 カメラの動画を見た佐伯お姉様と、それを横から覗き込んだ橘お姉様が驚きの声を上げた。


「もう、やっぱりイタズラしてたじゃない」


「あいてっ。いやあ、でへへ」


 お姉様に霊力デコピンをされてしまった。はて、盗撮はイタズラなのかな? まあいっか! でへへ。


「いやあ驚いた。相手の事が丸裸じゃないか」


「おい、さっきからアイツらの話ヤバくないか?」

「丸秘だの丸裸だの盗撮だの」

「佐伯の奴おっさん臭いと思ってたけど……」

「そういう趣味があると思ってたのよ。ねえ小百合」

「ノーコメント」


「そこ、うるさいよ」


「はいっすんません!」


 おっと四馬鹿と東郷さんもいたのか。まあもっとも、本当に、いた。になるところだったが。なにせ佐伯お姉様の周囲の気温がちょっと上がってるからな。蒸発だよ蒸発。


「全く……それで貴明マネージャー。一番重要な所はあるかい?」


「はい! 一番最後に撮れた、霊力者が弄りまくった技です!」


「弄りまくった技? ふむ、どれどれ?」


『【不動】!明王!』


 一番重要な所は勿論、不動明王を扱う霊力者が使った変わり種のデバフだろう。


「あら、中々面白い事してるわね」


「ですよねお姉様」


「貴明マネージャ、これはどうなってるんだい?」


 佐伯お姉様の隣から覗き込んだお姉様も、面白げにしていた。やっぱり正面戦力としての適性が高い不動明王を、こんなに変質させられるのは珍しいのだろう。


 そして佐伯お姉様に尋ねられれば、この四葉貴明答えなければならない!


「どうやったのか分かりませんけど、まあ多分奇才なんでしょうね。不動明王の不動、揺るぎ無いを、相手が動けない。と無理矢理解釈して押し付けてるんだと思います」


「それはまた弄り回してるね……」


「おいやっぱり……」

「おっさんだ……おっさんがいる」

「しー」

「中年のボキャブラリーそのものね」


 なんだかまた四馬鹿がひそひそしてるが、幸い佐伯お姉様は集中して聞こえてないようだ。もし聞こえてたら、マジで蒸発してたな。


「という訳で、これの対処を橘にしてもらいたい」


「分かったわ」


 藤宮君不味いですよ! ここ四馬鹿と東郷さんがいるのに! 奴等、言動は馬鹿だけど、頭の回転はむしろかなり速い!


「結局俺らはゾンビ戦法だな」

「頑張りなさい肉壁共」

「男女差別反対」

「東郷は浄力じゃなく、死霊術師だった?」


「誰がネクロマンサーよ!」


 気取られない様に四馬鹿の様子を観の目で見るが……かなり怪しい。素知らぬ風だがそのせいでとんでもなく怪しい。邪神イヤーで読心を、ってだめだ。こいつらそれこそ馬鹿みたいに心理プロテクト固いんだった。


「それじゃあこれを基に動きの確認をしようか。幸い訓練場の使用はまだ少し時間があるしね」


「ええそうね」


「ああ」


「じゃあ私達も行こうかしら」


「はい分かりました!」


 おっと、佐伯お姉様の号令の下、もう一度訓練場へ行く事となった。命拾いしたな四馬鹿共。


 まあとにかく、マネージャーとして頑張らねば!


 ◆


「藤宮め、抜かったな。そのお陰で読めたぞ」

「何がよ筋肉馬鹿」

「普通に考えて、藤宮の結界が無敵なら、態々対処だのなんだの話にはならない。つまり、何らかの方法で突破できるという事だ。この場合可能性が高いのは……弄り回した技……変質? 四系統以外の攻撃か? それとも枠も無い様な表現しにくいあやふやな系統?」

「お前天才じゃね?」

「つまり同程度の賢さの俺らも天才。証明完了」

「次やる時の勝算が出て来たわね」


「私、浄力以外使えないんだけど」


「私も魔力だけ」

「俺霊力」

「ワイは超力」

「俺は筋力を使える」

「嘘つけお前も超力じゃん。って筋力なんざ誰でも持っとるわ!」


「ねえ、つまり……」


「ダメね」

「ダメみたいですね」

「ダメやん」

「ダメだな」


「意味ないじゃない!」

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