裏マネージャー

「はいこれさっきの動画ね」


「感謝する貴明」


「いいってことさ!」


訓練試合も終わり、四馬鹿の筋肉担当にさっきまで撮っていた動画のデータを渡す。何と言うか、四馬鹿から非常にシンパシーを感じ取ってしまう。これは親友候補間違いなし。なのだが、四馬鹿が五馬鹿になったと言われそうな予感をビンビン感じる。何故?


「貴明からは私達と同じ匂いがするのよね」

「つまりクールでいけてて、賢いって事か」

「流石主席だな。俺達のクラスの代表だけはある」


少し離れている残りの馬鹿から聞こえてくるこの声。


もう候補じゃない。確定で親友達だ。


しっかし、四馬鹿の出来が悪い、ねえ。何かの機会にお姉様から、四馬鹿が名家からどう思われているか聞けたのだが、名家的には所詮は端の端の生まれ。出来が悪い、奴らは最弱、扱いされているようだ。


だがそんなの、それこそ全く持って馬鹿らしいとしか言いようがない。彼等は絶対に折れない挫けない。


邪神の俺が保証するが、メンタル値100なんて尋常じゃない。マジで超人。学園長や先代アーサーみたいな古強者でも90ちょいだと考えると、いかにヤバいか分かるだろう。しかも、有り様が人間の善として固定されているにも関わらず、人間として成長の変化はあるという完璧っぷり。入学式の日の帰りに、親父が彼等を指して最近の若者も捨てたもんじゃないと爺臭い発言をしていたくらいだ。


しかもしかも、精神支配系なら、蜘蛛君どころか人間形態の俺の呪いすら効かない可能性がある。人間を乗っ取る様なタイプの妖異は、四馬鹿に憑り付こうとしただけで即死するだろう。それを出来が悪いとは笑っちゃうね。ぷぷぷ。


「ありがとうね小百合ちゃん」


「こちらこそ」


そして訓練場で握手し合う佐伯お姉様と東郷さん。こ、これが青春!


「それじゃあ私達も戻りましょうか」


「あ、それなんですけどお姉様。僕ちょっと藤宮君とですね」


「あら、今度はどんなイタズラ?」


「イタズラだなんてそんな!」


ちょっと締め切っている空間にこっそり忍び込むだけです。




「超能力砲!」

「六根清浄大祓」

「不動明王剣!」


ここが連中の訓練場ね。


「意外と気付かれないものだな」


「でしょ?」


現在我が眼下には、訓練をしている先輩達がいた。もっと言うと、我がチームに情報が漏れないように、こっそり訓練している次の対戦相手がいた。


「えーっと、不動明王系の霊力者に気を付けるだけで、後は平均的な先輩ってとこかな」


「ああ。しかし貴明が対戦相手の訓練場を把握してくれていて助かった。お陰で情報を収拾できる」


「いやあ。でへへ」


俺がカメラ片手に藤宮君といる場所は、室内訓練場の照明、その隙間だ。


俺は東郷さんとの模擬戦で使用した訓練場を申請した時、少しその場に残って後から対戦相手の名前で申請されている訓練場を確認していた。理由は単純。こっそり忍び込んで情報収集するためだ。


そして、下見で天井の照明に、二人くらいなら潜り込めそうな小さな隙間がある事を見つけた俺は、正面から相手を防ぐ都合上、我がチームで最も相手の動きを知る必要がある藤宮君を誘って、敵情視察しに来たという訳だ。


先輩方の同級生ならある程度彼らの戦い方は知っているだろうが、一年坊主に情報を教えてくれる先輩なんかいないに決まっているから自分で調べるしかないのだ。


そのため、先輩達のコマ割りも確認し、一年よりも終業が遅い事を把握したうえで、東郷さんチームとの模擬戦後、堂々と訓練場に入り藤宮君に浮かせてもらって隙間から潜り込み、後は待つだけ。結果はこの通り、情報戦において我々は圧倒的優位に立つことが出来たのだ。


まあ、第一形態になればそんな事しなくていいんだが、藤宮君にボンレスハム体形を見られるわけにはいかないからなあ。


「これが学園長の言っていた情報戦と言う奴なんだな」


「そうそう」


天井からカメラでじーっと録画しながら藤宮君に同意する。


今やっている事は更衣室の盗撮ではない。戦うための準備、情報戦なのだ。あのゴリラなら俺達のやっている事を、卑怯だなんて間違っても言わない。むしろレポートとして提出したら、よくやったと褒めながら採点するだろう。もし万が一捕まって俺達が学園長に提出されても、先輩方には防諜の大切さを分かっていてくれて嬉しい。俺達には、情報が大切だと説いた自分の教えを糧に実践してくれて嬉しい。次は捕まらない様に。で終わるだろう。


何と言ってもあのゴリラは、バリバリの実戦主義だから、学園にいる学生として超えちゃいけないライン内なら何でもよしの考えだからな。ひょっとしたら、何かの間違いでどうしても勝てない相手と組まされた場合、下剤を盛るくらいならそれが弱者の戦い方だと許容するだろう。


勝てばよかろうなのだとは、朝倉宗滴の言葉だったか。至言である。


やっぱ学園長と波長が合うな。今度親父にも言っておくかな?


「ちょっとキツイのやって休憩しようか」

「おーう」


来た! 恐らく奴等のとっておき! そのデータが欲しかったんだ!


「【不動】!明王!」


「んぎぎぎぎ!」

「やっぱ動けねええええ!」


霊力者から何らかの力場が展開され、訓練相手達が全く身動き取れなくなっている。


これはスクープだ! あの警戒する必要のあった霊力者、不動明王の不言葉を強調して、相手の動きを封じれるんだ! これはかなり変則的な技だな。本来の不動は、不動明王が揺るぎ無いという意味だ。それを弄って、相手へのデバフとして押し付けている。


「俺の結界ならあの力場を止められるか? いや、確実なのは橘に打ち消して貰う事か?」


「僕の所見では……藤宮君の結界で止められるかは半々だね。ちょっとあれは弄りすぎてる。結界が霊力として認識しない可能性があるね」


「確かに」


一見無敵に思える藤宮君の結界だが、実はちょっとした抜け穴がある。結界はぶつかった四系統の攻撃を、爆発反応装甲の様に同系統の異能で打ち消し合っているのだが、四系統どれにも当てはまらない場合、現在の藤宮君の力量では、結界が誤作動を起こして攻撃を素通りさせてしまう危険を秘めているのだ。


そのため猫君相手に奮戦した、神官でもあり忍者でもある変わり種先輩の様な、忍術なんて超マニアックな技を使う相手には、単なる普通の結界になってしまうのだ。


今回何が不味いかと言うと、あの先輩多分アレンジする天才なのだろう。あるいは異才か。不動明王の権能を弄り回して相手へのデバフにするだなんて、結界がその技を霊能力によるものとして認識しない可能性がある。そしてあの技が、相手の身動きだけじゃなく、異能を止めないなんて保証はどこにもない。そのため直撃するのは危険だと言わざるを得ない。


「藤宮君の言う通り、橘お姉様に邪魔してもらうのが一番だね」


「だな」


なら答えは簡単。発動そのものを妨害するか、されても大丈夫な状態にすればいいのだ。つまりバフとデバフを担当をしている橘お姉様にお願いするのが一番。


「よーし休憩しよう」

「喉乾いた」

「トイレトイレ」


しめた。休憩という事で全員が訓練室から一旦出たぞ。


「ちょっと間をおいて撤収しよう」


「ああ」


このお宝映像を一刻も早くお姉様方に届けねば! 待っていてくださーい!

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