主義主張

 うーんいい天気だ! お天道様も眩しくて、絶好の戦闘会日和という奴だな!


 つまり邪神的には悪い天気ということだ……。


「おっと洗濯物干さなくちゃ」


 が、洗濯物を乾かすのは全てに優先される。さもなくばおばちゃんパワーで、天照が無理矢理引っ張り出されるだろう。多分、俺が梅雨時のおばちゃんパワーを束ねたらいける。


 ま、まあいい。我がブラックタールチームが発足してはや数日。元々学園は集団の対人戦闘を戦闘会に組み込む予定がなかったため、かなり無理な日程で今日初戦をすることとなり、練習もあれから3回ほどしかできていない。


 が、そこは無駄にポジティブな学園長や実践派、もしくは実戦派か? の教師陣。急な妖異の対処の場合、チームワークなんて最低限度しかないのだから、今のうちに慣れとけとばかりに思っているようなのだ。いや確かに、射線だのなんだの急に合わせる必要はあるんだろうけど、結界のおかげで大怪我しねえからって、痛いもんは痛いんだぞコラ。おっと、俺は出ないけど。ついでにどこぞのゾンビチームはフレンドリーファイア前提だけど。うける。


「準備万端ね」


「いやあ、気合入れました」


 洗濯物を干し終えてリビングに戻ると、お姉様が机に置かれている本日の重要アイテムを見ていた。


 その夜なべして作ったブツとは!


 叩いて音を出すスティックバルーン!


 必勝の文字の入ったハチマキ!


 首から下げれるよう紐の付いたメガホン!


 試合後の皆に配るドリンクとタオル!


 ついでに、反省会に使うビデオカメラ。


 ついでのついでに作った、クラスメイトに配るアンケート用紙。


 これは相手の構成、戦術と術。それと書いていい範囲で、自分達の構成とどのような戦い方、あるいは思想、戦法が、上手くいった、あるいは上手くいかなかったを記載してもらい、一年A組の虎の巻を作るためのものだ。もちろん門外不出。ないとは思うけど、呪術師の手に渡ったらとんでもないことになる。だからちょこっとのろげふん。まあ、纏めて学園長に預けてたらそう問題はないだろう。


 問題は、クラスにちょこっといる悪い意味で名家らしい奴らだ。こいつらは殆ど異能過激派と考えが変わらない。即ち、異能者最高ーっ他はくそ。なのだ。しかも、主義主張と思想が微妙に違うのがややこしい。


「それじゃあ学園に行きましょうか」


「はいお姉様!」


 まあとりあえず、アンケート用紙を配るだけ配ってみるか!


 ◆


 ◆


 ◆


 む、教室の中に西岡君がいる。彼は異能至上主義者で流石に自分から仕掛けることはないが、一般人の不良やその筋からケンカを売られたなら、重態レベルまでボコボコにして、もし死んでもあっそ。で終わらすことだろう。


 そんな彼だが、俺は邪神で学年主席。つまり俺が偉い。じゃなかった。主席として虎の巻製作について打診しなければならない。けど、こいつややこしい筆頭なんだよなあ。


「やあ西岡君。ちょっといいかい?」


「よう貴明どうした? 悪いが夫婦関係の拗れの相談はノーサンキューだぞ。俺はお前の嫁さんが怖いから関わりたくねえ」


 両腕を後ろで組んで頭を支え、椅子にもたれ掛かっていた西岡君が俺の方を向いた。しかし、事もあろうに俺とお姉様が拗れているだなんて。


「まさか! 僕とお姉様はいつだって熱々さ!」


「そりゃようござんした。それじゃあ何の用だ? というか俺も用があるんだわ。お前学園長と付き合いあるんだろ? 学園長の女の趣味教えてくれねえか? いや、流石に俺の妹の年頃がって言われたら闇討ちだけどよ、あの人がうちの一族に来てくれたら全員大歓迎なんだわ」


「いやあ、学園長は戦うことに人生の喜びを見出してるタイプだからねえ」


「だよなあ。俺から見てもそう思う。だけど親父がそれを聞いたら、ますますその気質は我が一族に相応しいとか言い出すに決まってる。ま、それについては同感だけどよ」


 どうやら西岡君の一族も、婚姻で学園長を取り込みたい名家のようだ。あのゴリラ、猿君と戦ってから株が上がりっぱなしで下がる気配がまるでないな。特に武闘派名家からのラブコールが凄まじいらしい。まあ、怪物の中の怪物である特鬼とサシでやり合える血なのだ。欲しいに決まってるか。


「僕の要件は、戦闘会後にアンケート用紙を配ろうと思ってね。相手の構成、戦術と術。書いていい範囲で、自分達の構成とどんな戦い方をしたか。そんでその反省点と纏めて、対先輩用の虎の巻を作ろうとしてるんだ」


「ははあ、なるほどな。一個上なんざしょっちゅう戦闘会で戦うことになりそうだから、クラス内で情報共有して後々役立てようって考えか」


「そうそう!」


「分かった戦闘会が終わったら書いとく」


「ありがとうね!」


「なあに同じ異能者なんだ。気にすんな」


 これだ。これが彼のややこしいところなのだ。


 このスポーツ刈りで人付き合いのいい、仲間に対して思いやりのある男は、異能者に対して限定なのだ。こういうタイプは、俺ら以外は屑と先鋭化しやすい名家の異能過激派でも少数ながら一定数いる。まあ大体は、俺は名家出身でお前らは下々だけど、困ったときは言ってみろやって上から目線なのだが、ある程度異能者全体に仲間意識を持っていたりするのだ。


 しかもこういうタイプは、一般組の親が普通の人でも、子供のこいつが異能者なんだから、発現してないだけで異能者の血を持っているんだろうと考え、よくありそうな家族への失言で仲が拗れるということを起こさない。しかし、そいつの友人が一般人なら途端に面倒になる。親でもないのに、俗に言うあの子、つまり非能力者と遊んじゃいけませんという奴だ。ああ面倒面倒。


 ちなみに俺は西岡君から、どうも俗に言う訳ありの生徒として認識されているようで、何らかの理由で力を隠しているけど、その力が非常に強力だから主席をしていると思われている。つまり西岡君からは仲間の異能者にカテゴリーされているんだが、これが勘違いものか……。いや、勘違いではないような気も……。


「おっと南條だ」


 教室の入り口を見た西岡君が呟いた。その視線の先にはややこしくない方の、これぞ悪い名家の見本の様な目つきの鋭い男がいた。


 しかし、主席として声をかけない訳にはいくまい。


「おはよう南條君! ちょっといいかな? 実はアンケート用紙を配ろうと思ってね」


 まあ答えは予想ついてるけど、一応西岡君にした説明を彼にも行う。


「断る。一族の業を余所に教えるつもりはない」


 やっぱりね。西岡君もやれやれと首を振っている。


「大体なぜお前がそんなことをしている?」


「おいおい。貴明がやってることは主席としてそんなおかしいことじゃねえだろ。一個上なんざ対人部門で一番の仮想敵じゃねえか」


「ならなおさら不要だ。俺は学年を超えて一族のチームに参加している」


「これだ。おおっと小夜子が見てる。解散。貴明、俺は無関係だって言っといてくれよ」


「ちっ」


 怖え怖えと言いながらあらぬ方向を見る西岡君と、舌打ちしながら席に着く南條君。この二人、というか殆どのクラスメイトはお姉様に心底ビビっており、大体の生徒は授業で何もできずコロコロされてしまっている。例外は審判役の学園長の後ろに隠れようとした四馬鹿くらいだろう。尤もその企みは行動に移す前にぶっ飛ばされるというオチが付いたが。


 いやあしかしややこしい。今日一体何回ややこしいって言ったかな?


 南條君みたいなのは殆ど社会不適合者としか言いようがないのだが、学園はほぼほぼ異能者しかいないため何とか生活できている。そんでもって、一般組も面倒が分かり切ってるので関わろうとしない。だが西岡君の様なのも彼らにとって面倒なのは間違いない。面倒も何回言ったかな?


 うーん…………。よし! 全力で我がチームを応援しようそうしよう!


 お姉様方今行きまーす!



あとがき

そのうちあらすじとタイトルを【異世界帰りの邪神の息子ー呪いの化身が過ごす異能学園生活ー】に変えようと思っています。

タイトル長けりゃいいってものじゃないと気が付きました。ってのは半分冗談!ちょっとタイトルとあらすじに乖離が出てるなと思いまして。貴明が普通の生活したいの最初だけだし。

来週中には変えるような気がします。ご了承くださいませ。

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