都市伝説

 エクスカリバー下賜から結構前、エクスカリバー再誕直後。 


 ◆


 ぜーぜー!?


 ふう夢か……。


 あのじゃじゃ馬の為に体を12分割して、万歳三唱させられる夢を見てしまった。そんなの第二形態の本来の使い方じゃねえし、分割とか第一形態との合わせ技じぇねえか。しんどいことこの上ないわ。いやだが、正夢? はは。そんなまさかな。


 いやあしかし、休みの日だったから態々イギリスまで行く羽目になっちゃったよ。しかもちょっとだけ女性になってしまった。確かにプロデュースするとは言ったけど、そのために俺邪神子ちゃんになっちゃったよ。いや厳密には違うんだけど、俺が湖の乙女役って。やっぱり第二形態の使い方じゃねえ。


 おっと今日は学校だった。お姉様はもう起きられてる。いざリビングへ!


 ◆


 もぐもぐごっくん。


『イギリス政府は、昨日の剣について沈黙を保っており』


 テレビから流れてくるのは当然じゃじゃじゃなかった、エクスカリバーの事一色だ。これは動画投稿サイトも同じで、チラッと覗くと現地にいた人が撮った物が動画サイトに投稿されており、もう100万再生をぶっちぎっていた。


 俺も投稿者になろうかな? 動画タイトルは……お姉様との幸せいっぱい結婚生活、独り身の奴等ざまあ。でいくか? いっちゃうか? そうだな、バレンタインとクリスマスの日は特別大長編でだ。

 それにあの日の日本中の恨みときたら、新月の日よりもテンション上がっちゃうくらいだ。文字通り、日本中怨嗟の声で満ちている。


「あの剣、どのくらいのものなの?」


「え!? さ、さあ? でもきっと凄いですよ! そりゃもう!」


「そーう」


「はははははい!」


 テレビを見ていたお姉様が、視聴者提供の映像、じゃじゃ馬がアーサーにすっ飛んで行った場面で、エクスカリバーの性能について聞いてきた。でも俺はじゃじゃ馬の性能については知ってるけど、エクスカリバーの性能については知らないしなあ!


 いやしかしあのじゃじゃ馬、世界的に見てトップな知名度とその作り方の方法上、とんでもない性能になってしまった。あれを打破するなら、猫君の運命操作や因果操作どころじゃない、もっと上のレベルが必要だ。


 なにせあのじゃじゃ馬は……


「ちょっと季節外れだけど、今日の晩御飯は鰻にしようかしら」


「いいですね!」


 いやあ、国違えば食違うとはいえ、どうしてああも違うものが出来上がったんだ? どう見たって邪神を召喚するための供物にしか見えなかった。そのせいで日本の鰻を食いたいと思ってたんだ。断じてウナギじゃない。鰻だ。


 それにしても、どうして俺が鰻を食いたいってお姉様は分かったんだ?


 ◆


 ◆


「貴明君大丈夫かい? って学園に来てるんなら無事なんだろうけど」


「そうね」


 教室に入ると佐伯お姉様と橘お姉様が話しかけてきた。ききき緊張する!


「はい大丈夫です! 医者も問題ないと言ってました!」


 そんな医者は存在しませんが……血液検査なんかしたら大事になる。注射針にタールが詰まるだろう。


「そっか。まあとにかくありがとう」


「お姉様方の為にこの四葉貴明、粉骨砕身で臨む所存であります!」


「だからそれはするなって言ってるだろう」


「ふぁい」


 決意表明をしたら佐伯お姉様に両頬を引っ張られた。確かに佐伯お姉様が前に言った通り、異能者の戦闘は自己責任だが、それはそれ、これはこれ。男貴明、お姉様達の肉盾になる事に何のためらいもないのである。


「うーん伸びる伸びる」


 佐伯お姉様に俺のもちもちほっぺが伸ばされる。ちょっとイケナイ感覚を覚えてしまいそうだ。


「とにかく、いいね」


「ふぁい!」


 だが俺は譲らない。ふっ、決まった。


「諸君お早う」


 誰が来たかと思ったら。ちっ、このゴリラ空気読め!


 おっほん。おはようございます学園長。今日もいい筋肉、じゃなかった、いい天気ですね。大雨ところにより雷。まさに邪神的ないい天気です。洗濯物乾かねえじゃねえか。


 でもお姉様と相合傘で来れたから、雨雲を消し飛ばすのは止めておこう。


「少々世間も街も騒がしいが、日々学びと鍛錬あるのみ。気にせず本業に打ち込んでくれ」


 少々……? まあ街に現れた妖異達は結局異能者達にボコられて、被害はほとんどなしのワンサイドゲーム。33-0だ。こっちは確かに少し騒ぎに成っただけ。でもエクスカリバーについては少々どころじゃないような気も……。


「伝達がある。今回の騒動では都市伝説系の妖異が多数出現した。奴等は通常の妖異とは違い、武装しているケースがある。対武器への備えを怠らない様に」


 流石は学園長天才ですね。僕も都市伝説系が多いと思ってたんですよ。あとちょっと魔王クラスが1柱混じってましたけど。まあ今頃焼肉になってるから心配いりませんよ。孔雀の焼き鳥かな? ぷぷ。


 それと武装している妖異か……。非鬼と特鬼の蜘蛛君と猿君を例えにするのはあれだが、妖異は全体的にその肉体スペックを駆使して戦う傾向にあり、武器を持ってるタイプなんてそれこそ落ち武者の霊くらいだったが、都市伝説系ではハサミに包丁、バイクに杖と道具を持っている事が多い。あと電話。つまり基本的に人型なのだ。


 これは戦闘会で対人が流行るかもしれん。尤も殆ど絶滅したかのように思われた都市伝説系のせいで、本来の対妖異から若干外れた対人戦闘に人が流れるのは、必要とはいえ学園長としては苦い思いだろう。


 いや本当にあいつらよく絶滅しなかったな。SNSの流行ってる現代で口裂け女を見たって書き込んだら、昭和の人間と断定されること名間違いなしだぞ。それだけ当時の胃に剣が、奴らの弱体化の為に色々したと言う事なんだけど。


「なぜ都市伝説系が増えたかは調査中だ」


 うーむこれは臭うな。犯罪の臭いがする! きっと隅っこの陰で三角座りしていた連中に、この現代に一花咲かそうぜと焚きつけた奴がいるに違いない。絶対そいつは50歳超えてる。万博で月の石を見てはしゃいでた世代で間違いないだろう。どうでもいいけど、今、月の石どこにあるんだ?

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