アーサー3

「それではアーサー様、その剣は調査の為に一旦お預かりします」


「いやあ、それがですね……」


 さて、今代"アーサー"が手に入れた伝説、遥か神話の彼方に消え去ったはずの聖剣エクスカリバーは調査されることになった。

 なにせ目視できるほどの神秘と神聖を纏っている存在なのだ。どうなっているか調べるのは当然であった。


 そしてすぐに断念された。


 と言うのもこの聖剣、どこかの誰かの言葉を借りるなら剣の癖にとんだじゃじゃ馬だったのである。


「ふんんんんんんんん! 駄目だ鞘から抜けない!」

「おっもっ!? こ、腰がああああああ!」

「ぐえっ足の小指に落ちてきた!」

「いったああ!? 向う脛を叩かれたあああ!」

「ベンケイノナキドコロ!?」


 鞘から抜けないのは一番マシ。持った瞬間に数十㎏になって腰をやった者もいれば、鞘に入っているとはいえ勝手に動き出した聖剣そのものに、向う脛を叩かれてのたうち回る者までいたのだ。

 やはり地上推進回転爆弾や氷山空母の発想を作り出した国だ。剣も一味違うのであろう。


「だいたいエクスカリバーを持とうとすること自体間違いなんだよ」

「言えてる」


 そしてこの研究員達の頑張りは、周囲の者達からそもそもエクスカリバーをアーサー以外が持とうとすること自体間違ってるんだよと、根本的な所から否定されていた。


 そして最終的に研究は断念され、元の鞘と言うべきか、元の今代アーサーの腰にエクスカリバーは収まり、エクスカリバー自体をどうこうしようとする人間はいなくなった。かに思えた。


「だが私は諦めない」

「そうとも」


 だがしかし。軍人や政治家はある考えを抱いていた。


「なんとか女王陛下に一旦献上して、それから下賜する形に持っていきたい」

「そうだよ」

「非常に国内でも国外的にも見栄えがいい」

「見栄っ張りがいい?」

「天才かな?」


 時たま本当に王室の事を尊敬しているのかと疑がってしまいそうになるイギリスだが、なんだかんだ愛しているのだろう。国民の中にもある程度の数がこの考えを持っていた。


「頼んだぞ」

「分かりました」


 そんなこんなでアーサーの下へ派遣された交渉担当官であったが、彼はある意味で天才であった。もしくは変人。


「刻まれていた文字には、此度は騎士として民を守るのだ、と書かれていましたので、王室から騎士爵を叙勲して頂くことを予定しています。つきましてはその時に、畏れ多い事ではありますが女王陛下に御出席して頂き、全世界に中継されながら聖剣も下賜して頂く。という流れでいいでしょうか? これでアーサー様は全世界にこの人ありと思われるでしょう」


 なんとこの説得、一応アーサーに言っている形であったが、実質エクスカリバーに行われていたのだ。


「近頃はカバラだのなんだの言われておりますが、我がイギリスにはアーサー様がいるのです。どうか全面的に盛り立てさせてください」


 もしこの担当官を派遣した上司がいたら、何やってんだ馬鹿! と言ったであろうが、この変人、アーサーとエクスカリバーを見ただけでこの二人の力関係を把握し、アーサーを、こいつ剣の尻に敷かれてやがる、剣と話した方が早いと、どこぞのカバラなんぞよりも使い手のアーサーこそが世界の男。ですからプロデュースさせて下さい。あなたの使い手が一番なんですよ一番。と、説得攻勢を仕掛けたのだ。剣に。


「えーっと、分かったそうです」


「感謝いたします」


 そして説得の最初の段階で既に頷かされていたアーサーは、自分の剣から出た答えを担当者に伝えるのであった。


 何度も言うが剣である。


 ◆


 ◆


 ◆


 そして叙勲式当日、メディアと暇してそうな駐英大使を片っ端から呼びまくった結果、バッキンガム宮殿の中はそれは大勢の人間が集まっていた。


 式場に入ってくるアーサーに、カメラのフラッシュが眩く光る。


 テレビのアナウンサーは興奮しながら実況している。


 急遽帰国した先代アーサーは、まだ自分に仕掛けられたエイプリルフールを疑っている。


 当の今代アーサーは、手足って交互に出したらよかったんだっけと混乱している。


 そして何とか女王の元まで辿り着いたアーサーは、エクスカリバーを女王へ献上し、女王はその剣を持ってアーサーの肩を叩き、騎士として任命した。


 そして下賜されるエクスカリバーをアーサーが受け取った時、


 突如


 12の光が


 会場に現れ


『『『『『『『『『『『『イギリスに栄光あれ! 祝福あれ! イギリス万歳! 』』』』』』』』』』』』


 人々は見た。ほんの一瞬だけ。その光は人型になった。もっと言うなら鎧を纏っていた。更に更に言うなら、騎士達が剣を掲げていた。


 その光は一瞬で消え去った。しかし、誰も見間違い、聞き間違いなどとは思わなかった。


 だから全員で


 宮殿で


 外で


 イギリス中で


 全力で叫んだ。


『イギリスに栄光あれ! 祝福あれ! イギリス万歳!』












 ◆


 ぜーぜー。

 あのじゃじゃ馬め! 最後までプロデュースしろって簡単に言うけど、12人分に体を分けて変身とかしんど! しかも全員俺と相性最悪なんですけど! いや、1人あれだけど……いや2人?それとも3人?案外全員?


 ま、まあいいか!


 お姉様ただいまです!


 え!? い、いやあちょっとライブ会場にににに!


 え? パイはどうだった? いやあ、最初にあれ考えた奴、親父でも呼ぶつもりだったんで!?




後書き


これで一旦アーサーは終了!間を開けて対白竜はやる予定です。予定……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る