対人訓練……人?

「それでは本日は対人の授業をする」


 何で改まってるんです学園長? 今まで何度か対人訓練はしてたじゃないですか。しかもあんた、俺とお姉様を完全に別扱いでずっと組ませてるものだから、俺っち連戦連敗なんですけどそこんとこどうよ?

 まあ俺とお姉様流のスキンシップだから、別にいいんだけど。ダンスと同じだからね。


「実は対人訓練用の式符を異の剣から送って貰っていてな。丁度いい機会だから授業で使わせて貰おう」


 ははあ、カバラの牽制役に使われたから、給料代わりに何か寄越せやって言ったんですね分かります。


「それではまず最初に」


「はい!」


 誰が最初にするなんか分かり切ってるでしょう学園長! この主席である四葉貴明以外誰が居るって言うんですか! 主席ですよ、しゅ!せ!き!


「うーむ」


 あ、てめえこのゴリラ野郎! なんでそんな気が進まねえなあって顔してんだよ! 主席らしくその対人訓練用の式符をちょちょいのちょいしたらいいんだろ! 分かってるから任せとけよ!


「分かった。それでは一番槍は貴明に務めて貰おう」


「はい!」


 しゃあっ! これでクラスの皆さんにも、一年A組の主席はやっぱりこいつだなって思わせることが出来る!


「いつでもいいです!」


 訓練場に駆け上がって学園長にサムズアップする。


 何が出てくるか知らんが、この邪神主席プロデューサー皇帝四葉貴明の敵ではない!


 お姉様見ていてくださーい!


「それでは式神を起動する」


「はい!」


 さーて! 憐れな生贄ちゃんはどんな奴だ!


「くぅん………」


「は?」


『は?』


「ぷっ」


 んん? クラスメイトの皆さんと心が一つになった気がする。もう一度よーく見てみよう。


「くぅん」


「ま、豆柴?」


 凝視した結果見間違いではなかった。その顔は柴犬の成犬より丸っこく可愛らしい顔。つまり豆柴。つまり犬である。


 だがそんな豆柴が、人間大で二足歩行している姿を想像してみて欲しい。何かとんでもない物を見た気分にさせられてしまう。


「ぷっ。ぷぷぷぷ。うぷぷ。なにを、ぷふ、どうしたらぷふ」


 そんな中聞こえてくる、お姉様の愛くるしい笑いを我慢されている声。式神を作ることに関して世界一なお姉様をして、想像を絶する存在なのだろう。

 いや本当にお姉様の言う通り、何をどうしたら二足歩行の豆柴なんかが式神になるんだ? これ本当に対人訓練用の式符か? というか


「顔は可愛いな」

「だな」

「目が潤んでる」


 そう、人間大で立っている事を考えなければ、つぶらな目がうるうるしていてそれはもう可愛らしい。これと今から戦うの? すっげえやる気でないんだけど、まさかそういう発想の下作られたのか?


 はっ!? 今すげえ恨みを感じたぞ! これはすげえ、恨み値にして100は余裕だ! 一体どこから!?


 邪神センサー怨! じゃなかったオン!


 感じた! 発生源は……目の前の豆柴だ!


 …………


 は? お前、そのなりで恨み溜まりまくりなの? 実は腹の中はドロドロしてるの? えー。気が進まないけど、一応確認しとくか。それこそ一応邪神だし。えーとなになに?


(………うな)


 ふむふむ?


(可愛いって言うなあああああ!)


 あ、アホかあああああ! 思春期に可愛いって言われた男みたいな反応するんじゃねえ! しかも声まで可愛らしいじゃねえか! 言うなって方が無理なんだよ!


「わん!」


 やっぱり可愛い。ってちょっ早っ!? その日本刀どっから出した!? 待って心の準備が! なにせ可愛い顔だから!?


「ぐえええええええええ!?」


 首切られたあああ! 間違いないこの豆柴、確実に殺しに来てやがった! なにせ俺は戦闘不能扱いで訓練場から叩き出されたんだ! 首切られて戦闘不能扱いとか、もうそれ顔と体が離れ離れ確実じゃん! もし実戦で邪神じゃなかったら死んでるぞ!


「くぅん」


「ぐげっ!?」


 あいたああ! 床に放り出された!


 って残心取ってやがる!? こいつマジで顔と中身が反比例してんじゃねえか!? バリバリの武闘派じゃん!


「そこまで」


 ちょ!? 待ってください学園長! このままじゃあ豆柴に負けた男として一生語られるんですよ!?


「次は藤宮だ」


「はい」


 あ、ベストフレンドの藤宮君だ。藤宮君がんばえー。


「くぅん」


 正中に構える豆柴。すげえ様になってるなおい。顔意外。だが藤宮君に通用するかな?


 なにせ藤宮君は


 天才なのだ。


「"四力"」


 藤宮君が自分の力を開放した。


 藤宮君は伝統ある名家出身ではなくお金持ちな家の出身で、入学時は一般クラスの人達よりかは上だから、一応推薦組に入れておこうということで編入され、それほど期待されていなかった。


 ところが彼は化けた。


「"四砲"」


 藤宮君がら放たれる四つの砲弾。


 それぞれ


 霊力

 浄力

 魔力

 超力


 四系統それぞれ異なる力が、全く同じ威力で放たれる。


「くぅん!?」


 浄力では橘お姉様よりも下。

 魔力では佐伯お姉様より下。

 霊力ではお姉様のそれはもうずっと下。


 だが四系統完全に同じ練度で放たれる力など前代未聞。


 確かに世界は広い。メインの能力以外にも、サブでもう2つほど違う系統の能力を持っている者もいる。


 だがである。何度も言うが、全系統全てを過不足なく駆使しているなど、まさに天から愛された才能と言う他なかった。


 そんな全く属性の違う力が豆柴を襲う。


「きゃいん!?」


 戸惑って完全に足が止まる豆柴。それはそうだろう。浄力で編まれた妖異にとっての猛毒が、霊力で編まれた不動明王の炎が、魔力で編まれた氷が、超力で編まれた空間の壁が。全く違う力が襲い掛かって来るのだ。そしてそのまま飲み込まれる。


 藤宮君の最大出力はそれほども無いが、回転率が非常にいい。そのため、四つの力に飲み込まれた豆柴に、次から次へと攻撃が叩き込まれる。


「よし、藤宮もういいぞ」


「はい」


 学園長の言葉で中止された攻撃。当然、豆柴の姿などどこにもなかった。


 藤宮君


 彼こそはまさに


 異能者なのだ。




「くぅん」


「ぐわっ!?」

「はやっ!?」

「ガチじゃん!」


 その後豆柴は、無茶苦茶クラスメートを蹂躙した。藤宮君にボコられたからって大人げないぞ。


「きゃいん!?」


「ふーむ。ウチでも豆柴飼おうかな? 栞はどう?」

「遠慮するわ。それに飛鳥にはシェパードとかの方が合ってる気がするけどね」


 佐伯お姉様達にボコボコにされてやんの。


お姉様は……


「も、もう私の負けでいいわ。ぷふふ」


顔を真っ赤にして俯いているお姉様マジプリティ。









 ◆


 えーそれでは邪神クリニックの手術を行います。ご要望は、誰もがビビる凶相ですね? はい分かりました。まず刀以外にも得物を増やしましょう。それと鎧だね。はい豆柴槍足軽が完成しました。なんかのユニットみたいだね。騎馬に対してプラス補正とか付いてる感じの。


 え? はいはい。それじゃあ新しい顔です。


 どう? これぞ凶相でしょ? うんうん。満足して頂けたようだね。


 じゃあはいこれ請求書。


 え? そりゃ美容整形は保険適用出来ないんだからお高いよ。


 え? 返せない?


 そりゃ困ったな。でも安心して。働いて返してくれたらいいからさ。


 じゃあ犬君頑張ってね!





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