出動 夜2
あの人が帰って来るまでどこで暇を潰そうかしら。
『ぐげ……』
今童子切りで切り捨てたなまはげ擬きは、暇つぶしにもならなかったし。それにしても都市伝説だけじゃなくて、民間伝承の方も歪められて妖異として現れてるわね。まあどうでもいい。
うーん。天下五剣の残りを仕上げちゃいましょうか。まさか昔取った杵柄が趣味になるなんてね。それで思い出した。今度の長期休みは山口へ旅行に行きましょう。それとは関係ないれけど茨木の方は……気が向いたらでいいかしら。
本当にどうしようかしら。流石に私も、黄泉路への行き帰りにどれくらい時間が掛かるか分からない。
あら、携帯にメールが……あらあら、私にまで招集を掛けるなんて、思ったより忙しくなっているみたいね。
◆
「来ましたわ学園長」
「朝昼の見回りにも参加していたのにすまんな」
「いいえお気になさらず」
メールの内容は、低級な妖異が大量出現したため、私を現場に投入するとの事だった。多分夫にも同じメールが送られている筈。そして、街の中心に設けられた臨時の指令所では、学園長を含め、市や学園の事務員に連絡要員が慌ただしく走り回っていた。
「む。貴明は?」
「迷った子供の霊を黄泉路へ送り届けてます」
「そうか」
夫が私の隣にいない事を学園長は不思議がっていたので、正直に今何をしているか答えると、感心だと頷いて返事が返ってくる。異能者、取り分け浄力や霊力を扱う者にとって、それはとても立派な役目なのだ。流石に直接行っているとは思っていないでしょうけど。でも酷いわね。
「今、私のストッパーがいないのは計算外だと思われませんでした?」
「そういう事を口に出さないのが大人なのだ」
「ふふふ」
むしろ夫の方が隠れてやんちゃしているのだけれど、それは言わぬが花かしらね。ふふ。優等生で主席ですもの。
「やっぱり小夜子も呼ばれたのかい」
「こんばんわ。飛鳥に橘」
少し学園長と遊んでいると、飛鳥と橘もやって来た。どうやら彼女達も呼ばれたらしい。まあ、ウチのクラスで実戦に参加させられるのはこの二人だけだろう。少鬼に手古摺るようではとてもとても。
「よし説明する。朝昼の巡回をしてもらっておいて申し訳ないのだが、雑多な妖異が大量に出現したため、諸君らにも間引きを手伝ってもらいたい。危険度は小鬼にも劣る本当に木っ端なのだが、なにぶん数が多くて手が回り切れていないのだ。万が一手に負えない妖異が出た場合はすぐに撤退し、付近、もしくはこの本部にいる者に連絡してくれ」
「はい」
「佐伯と橘は必ず二人一組で行動する事。小夜子は……まあいいだろう」
あら、予想外な事にフリーパスを貰えたらしい。てっきり夫が戻ってくるまで待機かと思っていたのだけれど。でも本当に酷いわね。まるで私がそこらの妖異に、過剰な攻撃をして被害を拡大させるかもしれないなんて思っているのかしら。
「面白そうな事を見かけたからと言って、変にちょっかいを掛けない様にな。では諸君頼んだぞ」
あら、そっちは保証しかねますわね。ふふふ。よくお分かりで。
◆
◆
「貴様何者だ」
でも、向こうからやって来たなら私のせいではないですよね。
学園長達から離れて、適当に妖異を間引きながら夫を待っていようと思ってたら、変なのが釣れてしまったようだ。外見はフードを被ってよく分からないけれど、多分西洋人。しかも日本語が達者という訳ではなく、高位の神か悪魔の力を宿している者が話せる世界共通語と言うべきか。そういった少し特殊な方法で話しかけてきた。ひょっとしてバベルの塔崩壊前は皆こうだったのかしら。
「こんなレディに何者かとは風情が無いわね」
「惚けるな。その身に一体何を飼っている?」
「飼っている? 式神の事かしら」
「惚けるなと言っている。その人ではない力のことだ」
はて? ああなるほど。確かに私の力は二種類あるけれど、それを別々のものとして捉えたらしい。全く、全部ひっくるめて私だというのに。
早く帰って来てくれないかしら。ふふ、私の全部を愛してくれた人。
「それを聞いてどうするのかしら?」
「ふんっ。単なる人間にその力は分不相応だ。この俺が貰い受けてやる」
「あらそう。ふふふふ。"いざ誘い給え"」
「なに!?」
「ちょっと騒いだら野次馬が一杯来そうだったから場所を変えたの」
目の前の男を似て非なる世界。先程までいた場所と左右が反転した世界に引きずり込む。
「さあ名乗りなさいな。あっという間に封鎖空間に囚われたお馬鹿さん」
「っ貴様は逆カバラの悪徳、アドラメレクの怒りに触れたぞ!」
「滑稽」
もし夫がこの場に居れば、本当に名乗る奴があるか馬鹿と突っ込まれてたわよ。邪神が現世にいる世の中で、名を名乗るのがどれだけ危険か分からないらしい。でもまあ、私も馬鹿になってみようかしら。名乗れる機会があれば名乗りたいのよね。
「ふふ。四葉小夜子よ。よ、つ、ば」
彼と一緒になった証だからつい名乗ってしまった。生まれた家とは全く別に、桔梗は今でも好きだけれどね。
さて、どれくらい時間を潰せるかしら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます