世界の敵の余興

「あいつ呼んじゃいましょうか」


「そうね呼んじゃいましょう。あ、びっくりさせちゃ悪いから元に戻らないとね」


 あ、お姉様が元の姿に戻られた。どっちの姿も素敵だと思います!


「はいお姉様!」


 このボンレスハム、じゃなかった、第一形態の俺は単純なパワーアップの他に、神聖な場所とそれ以外を区分けするという注連縄を拡大解釈して、移動とか境界を操る的な能力を持ち合わせている。


 という訳でてめえこっち来いや! さっきから胃に剣の施設をうろうろしてるてめえだよ!


「なに!?」


 急に隔絶空間となっている訓練場に招かれて狼狽する、襤褸切れを纏ったいかにもな男。


 ここに来てゲロゲロな気配を10感じたけど、カバラの聖者達が8人だったため数が合わないのだ。いや、もう一つはある意味最もゲロゲロな気配と言うか、ここをホテル代わりにしてた親父の強い残り香だから実質後1。


 まあ答えは分かり切ってる。


「貴様、サタンの力を宿した逆カバラの悪徳だな!?」


 カバラの聖者達が世鬼を発表した異の剣に訪れて、しかも蛇君の頭の一つにサタンがあったのだ。これで逆カバラの悪徳達、取り分けサタンが来ないはずが無い。恐らく目的は、おおよそ善神達の力が強いこの世界の転覆だ。


 現世を地獄にするだなんて、この邪神が絶対に許さんぞ!


「逆カバラの悪徳? サタン? なんの事だ?」


「あん?」


 またまたーとぼけちゃって。一般ピーポーがそんな気配させてるわけないじゃん。しかも結構怨念こびり付いてるよ君?


「あら? あらあらあらあら?」


 あれ? お姉様どうしました? それはもう嬉しそうにニコニコ顔ですけど。


「今日は運がいいわ。オロチには馬鹿にされたけど、ちょっと八つ当たり気味だったのよ。本当に運がいいわ。それじゃあ、私は腕じゃなくて首を切ってあげるわね」


 あ、お姉様がさっき式神に持たせてた刀を式符からまた取り出した。しかも別のももう一本だ。


「ギイイイイ!?」


 お姉様が両手に持ったその二振りの刀を見ただけで、推定サタンは金切り声を上げた。という事はこいつ推定じゃなくて、もうサタンじゃないな。確定で鬼だ。


「何故その刀を持っている女あああああああああ!」


 なにせお姉様が持っている刀とは、


 一振りが


 鬼切丸


 そしてもう一振りこそが、オロチ君が悲鳴を上げた原因。それはそうだろう、子の、もしくは素戔嗚との戦いで生き延び伸びた後の自分とも言える存在を葬った刀なのだ。


 刀の名を


 童子切安綱


 と言った。


「うふふ、趣味で作った復刻版なの」


「ふざけるなああああああ!」


 趣味と答えたお姉様に、まさに血相を変えて鬼が叫ぶが、こら鬼よ、お姉様は全くふざけてない。お姉様は昔の物や失伝した刀を復元したり、自分風にアレンジするのが好きなのだ。昨日もご自分の霊力にものを言わせて刀を具現化されていたくらいだ。


「それが紛い物のはずが無い!」


 まあ鬼の言いたいことも分からんでもない。何本かお姉様が作り上げた刀を見てきたが、その中でもこの二振りは特に出来がいい。それこそ鬼が太鼓判を押すくらいだ。並の鬼ではかすっただけで即死するだろう。


 でもこいつ実際見た事ある的な反応じゃね?


「あら、腕が痛むのかしら? ねえ?」


「この糞めがあああああああああ!」


 お姉様が二振りを振るうと、鬼の方は叫びながら後ろに後ずさるしかない。


 うん? 鬼切丸は確かにヤバいけど、童子切安綱の方が更に鬼にとってヤバい筈。なのにあの鬼は鬼切丸から全く目を逸らしていない。あ! 分かったかも!


「自分の腕ぶった切った刀だもんなあ! そりゃビビるよな!」


「小童があああああ!」


 この反応間違いない!


「ダチそっくりな気配を感じてここまで来たんだろ! ええ!? ご苦労なこった茨木童子!」


「死いいいいいいねえええええええ!」


 襤褸切れの下の露わになっている肉体、その腕には雑な縫合跡。間違いなく、渡辺綱の鬼切丸に腕を切られた茨木童子だ。

 なんかその後腕を取り返して逃げられたみたいだけど、こいつオロチ君の気配をダチの酒呑童子と誤認してやって来たんだな。なにせ酒呑童子は八岐大蛇の息子だったり、なんと本人だったりするのだ。本蛇?


 あ、童子切安綱が掠った。


「ギャアアアアアアアア!?」


 掠っただけだというのに、襤褸切れの下の顔は焼け爛れている。あれ、茨木童子の言う通り本物なんじゃ……。


「貴様、まさか頼光のおおおお!?」


「ふふ、まさか」


 違います。まあ、茨木童子的には本物の童子切と鬼切丸を持っているのだ。酒呑童子を殺した源頼光と、その四天王の子孫だと思うだろう。


「ま、この辺でいいかしらね。よくよく考えたら直接恨みがある訳じゃないし。という訳で終わらせましょうか。出て来なさい鳥ちゃん」


『カアアアアアア』


「き、貴様一体!?」


 お姉様が取り出した式神符から現れたのは一匹の烏。


 お姉様が作った渾身の式神。その十二の内の一つにして、オロチ君が心底ビビった原因のもう片方。ただの烏と思うなかれ、何故なら足が三本あるのだ。


「じゃあよろしくね鳥ちゃん」


『カアアアアアア!』


「お、お、お、おおおおおおおおおおおおおおお!?」


 太陽の化身にして、使。八咫烏が目にもとまらぬ速さで茨木童子を貫く。


「そ、そんな!? 平安より生きしこの俺がこんな……」


 ぽっかりと空いた胸の穴を見て、茨木童子が呆然と呟く。馬鹿め、死ぬ時は死ぬのだ。呆気なかろうがしぶとかろうが。全く何もできず。


「それじゃあさようなら」


「かっ……」


 茨木童子の首を刎ねてお姉様が最後の止めを刺す。


「うーんスッキリ」


「それは良かったです!」


 ぐーっと腕と背を伸ばすお姉様。プリティ。


「それじゃあ帰りましょうか」


「はいお姉様!」


 いやあ、お姉様が満足のようで僕も嬉しいです!

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