放課後デート1
「放課後の前に伝達がある。例年行われている一年生の異能研究所見学だが、予定通り行われることが確認できた。古くから妖異と戦ってきた組織なのだ。諸君達にとって得るものが多いだろう」
意外ですね学園長。世鬼の訓練符で胃に剣があたふたしている中、見学に許可が出るなんて。単なる見学なら、本当に胃に剣がぶっ刺さってるであろう、上層部の人達は関わりないからですかね。あるいはそれすら気が回らない程混乱してるか……。これも世界の為なのだ。甘んじて受け入れて下さい。
っていうかよく連絡そのものが出来ましたね。今の胃に剣は、バチカン並みに電話かかってる筈なのに。やっぱ人脈やべえなこのゴリラ。
「それと放課後、貴明は学園長室に来るように」
「はい!」
またかって顔してるクラスの皆さんすいません。何と言っても優等生で主席なもんですから、学園長室に呼ばれるのは毎度おなじみなんですよ。あ、決して問題児だからじゃないですよ? こんな品行方正の僕がそんな問題児だなんて。
内容はクラスの教育方針についての相談かな?
かーっ主席って辛いわー!
◆
「異能研究所は貴明の事を知っているのか?」
そんな事だろうと思ってましたよ学園長。まあ当然の疑問でしょうね。
「上層部は知っていると思います。その、自分が生まれた時に、親父が興奮して色々とお手紙を……」
「ああ……そういえば私も送られてきたな……」
答えはイエス。理由はこれまた恥ずかしい事に、俺が生まれた事でテンションアゲアゲだった親父は、兎に角この事を誰かに知らせたくて、個人的に付き合いがあると思っている、と、勝手に思っている相手に手紙を送ったのだ。パパになりましたって……。
その中には異能研究所もあった。何故なら、地球に帰って来たばっかりの時の親父にとって、異の剣は宿泊先だったのだ。昔世話になった女将さんに手紙送るような感覚で送ったらしい。自分の事何とか抑えようとしたけど、もうどうしようもないからって匙投げた相手に、息子が生まれましたって手紙送るなんて馬鹿じゃねえの?
「顔は知られていないんだな? それなら問題なく、騒がれもしないだろう」
「はい。送ったのはそれっきりだと聞いてます」
流石に本人の面識もない奴に、これまでの成長記録送ってたら、第、えーと何回目だっけもう覚えてねえぞ、第百次邪神大戦が起こっていただろう。
「分かった。呼び出してすまなかったな」
「いえいえ、こちらこそ気を使って頂いてありがとうございます」
ありがとよ学園長! 俺の方も気を使って、親父に学園長がよくしてくれてるって言っておくからよ!
◆
「終わったのね。じゃあデートしましょうか」
「はい!」
むさ苦しいゴリラとのお話は終わり!
ゴリラ園の外で待っていて下さったお姉様と、これから学園中放課後デートなのだ! でへ、でへへへ。
「じゃあぐるりと回りましょうか」
「はいお姉様!」
放課後デート、放課後デート、お姉様と放課後デート!
◆
「いち、に、さん、し」
「ごー、ろく、しち、はち」
「いち、に、さん、し」
「ごー、ろく、しち、はち」
校舎から出ると先輩方だと思うのだが、もうランニングやら準備体操をして体を動かしていた。だがこの人らは、野球やらサッカーなどの運動系のサークルに所属している訳ではない。
というか入学してぶったまげたのだが、この学園にあるサークルはメジャーな所では、全能力戦術研究会、妖異研究会、困った時の直接肉体戦闘クラブ、霊地巡りで戦闘力強化サークルから、ドマイナーな所では、悲報浄力火力なさすぎ問題議会、朗報魔法が火力最大新聞など、極一部の超々ドマイナーを除いて、ほぼ全部が戦闘異能関係なのだ。修羅の国かな?
いや、確かに異能者と普通の人達で運動能力に差がありすぎるから、スポーツどうすんのよって昔から言われてますけど、だからって学園のほぼ全部が戦う事前提とか、日々妖異に立ち向かっている異能者とは言え、皆さん志が高すぎませんかね?
「私達がサークルを立ち上げるとしたら何がいいかしらね」
「そうですねえ……ブ、じゃなかった、異能学園要塞化サークルとか! 非公式な秘密のですけど!」
危ない危ない。危うくお姉さまにも秘密の男の子の遊び、ブラックタール帝国について口を滑らせてしまうところだった。
「いいわねそれ」
「え!? いいんですか!?」
俺の今後の予定を言っただけなのに、お姉様的にはありだったらしい。いつもの素敵なニタリとしたお顔になっている。
「桔梗じゃいい子にしてたけど、秘密の御遊びに興味があったの。い、け、な、い」
「ほわああああああ!」
お姉様ですからそうやって顔をつーってされると僕はああああ!
学園長、異能学園要塞化秘密クラブここに誕生したんでよろしくな!
「それじゃあ予定を考えながらデートしましょうか」
「ですね!」
お姉様と手を繋いで、汗をかいているむさ苦しい男共の横を通り過ぎる。トップがあれだから皆こうなるのか?
「それならまずは、そうね。北東の方かしら」
「はい!」
鬼門の方ですね! 分かりました!
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