放課後デート2

「北東って何がありましたっけ?」


「えーっと、何があったかしら」


 異能学園要塞化秘密サークルの最初の活動として、とりあえず鬼門、じゃなかった学園の北東に足を進める俺とお姉様だが、この学園広すぎるからどこに何があるか未だに覚えきれていない。箱に金掛け過ぎなんだってマジで。


 あ、箱で思い出した。


「学園をちょと弄って、学園全体を猫君の箱にしましょうか」


「そうね。今のままじゃ狭すぎるし脆すぎるわね」


 無色透明な結界を四方に張り、その中で不死身な猫君なのだが、問題はその箱が狭く、かつ、単独者レベルなら無理矢理その箱を破壊できるのだ。つまり本体とは別の所で弱点を抱えているため、ちょちょいと学園の霊地基盤を弄って、この学園全体を猫君の箱としてパワーアップする計画だ。


「ああ見えてきたわね。あれは……そう、水辺での屋外戦闘訓練場だったわね」


「そんなのあったんですねー」


 見えてきたのは川やら海やらを模して、砂浜の様なものもから、海岸洞窟まで作られている、これまた箱に金使いすぎているアホみたいな屋外施設だ。一体この金どっから出てるんだ?

 まあこの施設、水辺や海に出る様なタイプの訓練符を使って、環境による戦い方を学ぶ非常に重要な場所なのだろう。海難法師いくか? いっちゃうか?


「キャーっ!」

「キャーキャー!」


 何事!? 者共出あえ出あえ! あ、皆さんもう訓練相手としてお仕事中ですか。って、猿君も? ええ……あのゴリラ長もう猿君と一戦してるんか……さっき俺がゴリラ園出たばっかだぞ……やっぱり暇なんか?


 というか何で騒ぎが起きてるの? 騒ぎと言ってもなんか黄色い悲鳴だったような。


「ああ、佐伯に騒いでるのね」


「え!? 佐伯お姉様が!?」


 はて、でも何で佐伯お姉様が騒がれて? ってブーーーーーッ!


「やあ皆、そう騒がない騒がない」


「きゃー!」


 さ、さ、さ、佐伯お姉様そのスポーティーな水着は、い、い、い、一体!? すらりとしたおみ足と、意外と大きなそのたわわなものはああああああああ!?


「ふがふが」


「はいどうぞ」


「はいはほうほはいまふ。ちーん!」


 こ、興奮しすぎて鼻にタールが詰まってしまった。お姉様からティッシュを受け取って鼻をかむが、その間も黄色い声が止むことはなかった。こ、これが入学試験日に感じ取った王子様力なのか!


「あれだけ女の親衛隊が居れば、男共も近づけないわね」


「プラエトリアニなんか目じゃないでしょう」


 親衛隊とか近衛兵とかの癖に、ローマ皇帝に好き勝手しまくったプラエトリアニは我が帝国では不要だが、そんなモノ目じゃない程佐伯お姉様に忠誠を誓っているであろう、普通科の女の子の皆様が佐伯お姉様の周囲をがっちり固めており、鼻を延ばしていた男共は遠巻きから眺めるどころか、佐伯お姉様親衛隊の絶対零度の視線を浴びて、そそくさと方々に散っていくしかない様だ。


 あれ? お姉様?


「意外ね。火の魔法を得意としてる貴女が水場の訓練場にいるなんて」


「やあ桔梗、じゃなかった四葉あー、小夜子でいいのかな?」


「ええ、夫もいるから呼びにくいでしょう」


「じゃあ私も飛鳥でいいよ」


 お姉様が佐伯お姉様に近づくと、取り巻きの女の子達がさながらモーセを前にした海の様に別れた! お姉様、他人にはあんまり興味ないって言いながら、実は知的好奇心はかなりあって、今も火の魔法が得意な佐伯お姉様が、この相反するような水場にいる事が不思議で話しかけた様だ。し、しかしこのお二人のツーショット! 何でおれはカメラを持っていないんだ!


「それで答えだけど、確かに苦手な場所だけど、それを苦手なままにする訳にはいかないからね。それと、火の魔法ばっかり使ってると体が火照るから、冷たくていい気分転換になるのさ」


「ああ、なるほどね。持て余しちゃってる、と」


「ボクもちょっと悪い言い方したけど、大分曲解してないかい?」


「うふふ、そんなことはないわ」


「それよりも……彼は大丈夫なのかい?」


「あまり大丈夫じゃないわね。ちょっと、いえ、大分初心だから」


「ふがふが」


 すっごく大丈夫じゃないです。今ちょっと人間の側面が強く出過ぎて、鼻からタールじゃなくマジの血が垂れててですね。

 邪神の死因が興奮しすぎて鼻から出血死だなんて、古今東西の神が腹抱えて笑い死ぬだろう。


 む、邪神間テレパシーだと!? 親父めなんの用だ!


(大丈夫かいマイサン!? なんかとんでもなくしょうもない危機に陥ってるんじゃ!?)


(しょうもないことまで分かってんなら黙っててくれ! 今真剣に命の危機なんだからよ!)


(しょうもないのか命の危機なのかどっちなんだい!?)


(お袋に秘蔵の本が見つかった時の親父並の、しょうもないけど真剣に命の危機なんだよ!)


(じゃあね!)


 あの野郎トラウマほじくり返されて速攻で逃げやがった!


 いや、今あの馬鹿親父の事はどうでもいい! ここは古から伝わりし究極の対処法、ティッシュを鼻に詰める、だ!


「ふみまへんれした」


 大変お騒がせしました。


「そういう初心なところも好きよ」


「夫婦生活大丈夫なのかい?」


「うふ、中々手古摺ったわよ」


 あああああお姉様あああああ!? 失血死するうううううううう!


「やれやれ、馬に蹴られる前に退散するよ。ふっ」


「ふんごおおおおお!?」


 ぎゃああああ! 佐伯お姉様、耳の方にふって息を吹きかけられるとおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?


「あの子、王子様みたいなのにいける口ね」


 辞世の句を読もう。 田舎者 鼻から鼻血で 出血死 あゝお姉様 あゝお姉様

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