逆カバラの悪徳

「先生、カバラの聖人達が実在したという事は、逆カバラの悪徳達も実在するのでしょうか?」


 おや、清楚美人の東郷さん、僕もその事気になってたんですよ。ところで、単独者のお姉さんに、僕が学園に寄付したものに対して、厄い連呼するのを止めるよう言ってくれませんか? 蜘蛛君が傷付いてるんです。ちょっと繊細なんで。


「うーむ。火のない所にと言われて、聖者達も実在したからな……」


 学園長、こっちをチラッと見ても何も知りませんよ。


 カバラの石碑の実在が噂されていたように、その真逆の存在も、殆ど伝説として語られている。


 即ち、バミューダトライアングルに眠っているとされる邪悪の樹クリフォト、そしてその石碑。


 無神論

 愚鈍

 拒絶

 無感動

 残酷

 醜悪

 色欲

 貪欲

 不安定

 物質主義


 この10の石碑とそれぞれに宿る大悪魔の使いこなし、石碑を所持する者達を逆カバラの悪徳達と表現していた。だがこの連中、聖者達以上に存在を疑問視されていた。と言うのもこの逆カバラもカバラに劣らぬビッグネームばかりで、サタンに始まり蠅や夜の女までゲロゲロな連中ばっかりなのに、そんな大悪魔の力を使ってる奴等がいて、まだ世界がぶっ壊れていないのなら、そもそもいないんじゃね? と思われているのだ。まあ、それが出来るのに田舎で農作業している邪神がいるからなあ……。


 だから俺の方見るなって学園長! そんなに見られても何も知らねえよ! 確かに復讐やら恨みなんてのがあったら親父が座ってふんぞり返ってるだろうけど、椅子取りゲームで勝ったなんて話は聞いてないから、俺も親父も関りねえよ!

 大体俺らの基本方針は、日本で温々して八百万の一員ですってしらばっくれる事なんだから、ドメジャーな連中と肩なんて組まねえよ!


「会ってみたいわね」


「危ない連中に決まってますから、お姉様は僕がお守りします! ふんすふんす!」


「うふふ」


 そんな連中、きっと力こそ正義の世界にしてやるーとか、秩序をぶっ壊してやるーとか、人類を滅ぼしてやるーとか、禄でもないこと考えてるに決まってる。そんな邪悪な連中、お姉様の敵ではないとはいえ、俺がお守りせねば! 邪神の力を見せてくれる!


 あれ皆さんどうしました? またやってるよこいつらって顔してますけど?


「案外、もしいたら世鬼の札を求めてカバラもその逆も、日本に来てくれるかもしれないわね」


 はっはっは。お姉様まさかあ。訓練はどうせ日本の広さじゃ無理ですし、訓練符なんだから態々狙いに来たりはしないでしょう。訓練終了って叫んだら消えちゃうんですよ?


 ……それに実は、親父に裏技使わせて式符に呪わせたうえで、自分も重ね掛けしたもんですから、この世で最も危険な呪いのアイテムになっててですね……。


 あ、チャイムだ。


「おっと話しすぎたな。それでは次の授業の準備を始めてくれ」


 急遽ホームルームにしといてよかったですね学園長。丸々授業が潰れるところでしたよ。


 しかし逆カバラの悪徳かあ。来ないと思うけど、ブラックタール帝国の防備を固めねば!


 それとカバラの聖者かあ。来ないと思うけど、この帝国皇帝に歯向かうのならば死あるのみ!


 ◆


 ◆


 ◆


 ■唯一名も無き神


「うーん、覚えのある懐かしい臭いだ!」


 地球に帰って来てから、殆ど感じる事は無かったから、久しぶりにこの臭いを嗅いだな。


「どんな臭いです?」


「世に言う善神と悪神が、バチバチメンチ切り合う寸前の臭いだね!」


「まあ、そんな臭いに覚えがあるんですね」


「あるある。向うじゃしょっちゅうだったからね! まあ、同期の皆は好きにしろってスタンスだったから、そこから分かれた第二期とか第三期の大神達が主だったけど!」


 同期の連中は、原初の混沌から作り出した星々と、そこに育まれた命を見届けた後、悪く言えばほったらかし、よく言えば自立したものと見なして、干渉を殆ど控えたからな。いちいち一つの種に拘る事をしなかった。それを思えば、人と言う定命の者達に拘った、後輩の神達が俺に近かっただろう。尤も俺は、人の恨みは神だろうとそのまま返したから、善神悪神関係なく後輩達から嫌われていたが。


「でもどうして急に?」


「世鬼の訓練符に食いついたんだろうね!」


 全く持って面白い。訓練符と銘打っていても、国を亡ぼせるかもしれない危険物は、自分達で管理しなければならない。あるいは欲しい、使いたい。本当に全く持って面白い。人間の、定命の者の発想そのものなのに、神も悪魔も両方がそう思っているところが本当に面白い。はっはっはっはっは!


「それじゃあ貴明も困ってるでしょうね」


「いやあどうかな。案外、しーらねって思ってそうだけど!」


「それもそうですね。おほほほ」


「はっはっはっは!」


 あれは76億と那由他の命に対する保険なのだ。作り出したのは貴明だが、たとえそれを巡ってだろうと高々10と10の争いなど、あの子はどうとも思っていないだろう。人としての優しさで作ったが、神の無慈悲さも両方を持っているのだから。ま、都合のいい様に使い分けてるけど! 我が子ながら逞しすぎ! はっはっはっは!


「それにしても……」


「だねえ……」


「「里帰りして欲しい」ですね」


 パパもママも寂しいよマイサン……長期の休みは絶対帰って来てね……。

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