仮想敵3

 ■主席 四葉貴明


「阿修羅山壊海斬!」


 地下訓練場で、まーた学園長の秘密の趣味に付き合わされてるよ。そう表現するとヤバい奴だな。また学園長のバトルジャンキーに付き合わされてるよ。やっぱりやべー奴だったわ。


 その趣味とはズバリ、式神相手の秘密の戦いだ。相手は勿論提出を忘れるところだった猫君。


 だけど……。


「猫ちゃん、面白いは面白いけどね」


「でしょお姉さま。まあ元があれだったんで大鬼くらいですけど」


 猫君、色々詰め込んだから厭らしい能力になったんだけど、元が元だから最大出力が低いんだよなあ。


「阿修羅滅闘!」


 特に脳筋メーター振り切った学園長みたいなタイプは最悪だ。これが単なる脳筋だったかカモだったのに……今も何とか食い下がっているけど、ボコボコにされていると言っていいだろう。

 え? 働きたいけどサンドバックになるって聞いてない? いやあ、ちょっと学園長が特別なだけだから、安心して24時間働いてくれたまえ。


「阿修羅尽壊!」


 猫君ぶっ飛ばされたあああ! ね、猫くーん!? そうだ頑張れ猫君! もうバーゲンセールされてた頃の君達じゃないんだ! そうだ猫君立ち上がるんだ!


「阿修羅尽滅!」


 ね、猫くーん!? そりゃ立ち上がったらまたぶっ飛ばされるよ! 何考えてるんだ! 大人しく白旗上げないと!


「素晴らしい能力だった。まさに調査と索敵の必要性を学生達に教えられる。ありがとう貴明」


「お役に立てて光栄です!」


 よかったね猫君。君の頑張りを学園長は認めてくれたよ。え? なんか違うくないかって? ここはそういう職場なんだよ。ほら、契約書にも、書いてないや。まあとにかく頑張ってくれたまえ。頼りになる先輩達、猿君は瞑想の邪魔すんなとか言いそうだからかなり怪しいな。頼りになる先輩の蜘蛛君がいるからね!


 あれお姉さま? 今日も笑顔が眩しいです。


「私も少し遊ぼうかしら。でもごめんなさい、猫じゃらし持って来てないの」


 ね、猫くーん!?


 ◆


 ■伊能学園学園長 竹崎重吾


 うむ。体の衰えはどうしようもないが、錆びを落として勘を取り戻すくらいは出来たな。もう一度蜘蛛の非鬼と戦って確認しよう。幾らあの非鬼が最上位といっても、非鬼相手に半死半生では単独者として沽券に関わる。何と言っても、非鬼を1人で倒したから単独者と言われるのだから。


「学園長失礼します」


「入ってくれ」


 今後の予定を立てていると、呼び出した各学年の主任達が集まった。


「うっ!?」


「なんだ!?」


「ひえっ!? 何ですかこの厄!?」


 その中には極東にその人ありと言われるほどの浄力の持ち主、単独者の東郷の姿もあったが、彼女も含めて全員が、部屋中にある箱から感じる呪詛に悲鳴を上げている。どうやら学園長室に施されている結界に呪詛が阻まれていたようで、何の気構えも無く入室してしまったようだ。


 失敗したな。最初から解呪用の特殊室で呪詛を付与してもらうべきだった。これでは長話は嫌がるだろう。早く終わらせなければ。


「要件は2点だ。単刀直入に言うと、解呪用の教材と大鬼相当の訓練符が寄付された。これも勿論詮索は厳禁だ。絶対に」


「は、はあ」


 やはり失敗だったな。全員の腰が引けていて生返事で、今にも部屋から飛び出しそうだ。いや例の2つのモノさえなければここまでではなかっただろう。


「そ、そ、そ、その2つなんですか!? や、厄いどころじゃないんですけど!?」


 東郷を含め全員が注視ししているのは、自分の机の上にある箱だ。中には赤と青の壺が収められており、元々は白に近かったが、この2つだけ変色してしまっている。


「特別仕様の2つで、1000年モノ」


「私、次の授業があるので失礼します!」


「ダメだ話を最後まで聞け」


「ぎゃああああ離してええええええ! それ厄過ぎるううう! 1000年モノとか無理いいいいい!」


 説明の途中なのに逃げ出そうとする東郷を、霊力で編んだ阿修羅の腕を伸ばして捕まえる。だが流石は単独者だな。無理だと判断すれば、即座に撤退して立て直しを図るのは基本だ。


「もう片方は1500年モノだ」


「ぎゃああああああああああああああ!?」


 暴れる東郷だが無理はない。貴明が言った通り、そんなモノは過去の世紀の天才鬼才が既にどうにかしている筈なのだ。だがそれこそ貴明が、現実的にギリギリ出てくる可能性があると言うにはそうなのだろう。対処を怠るわけにはいかん。それとエジプトモノには要注意だな。


「そ、そんな物を一体どうするつもりです?」


「先ほども言った通りこれは教材だ。解呪に失敗すると飛び上がる激痛になるよう設定されている。死ぬ事も呪われる事も無い。おっと詮索は無しだ」


 そんな便利で都合のいいモノ一体どこからと言いそうだった彼等の機先を制する。学園長として生徒を守るのは当然だし、世界にとってもその方がいい。学園と生徒達のことを想って、これほどのモノを用意してくれるなら猶更だ。


「ぜえええったい嘘です! 私には分かります! それ触っただけで即死しちゃう奴です!」


「東郷の意見も尤もだ。それ故私が実演する」


「ちょっ!? 触っちゃ!?」


「どうだ? 問題ないだろう」


「うっそおおおお!?」


 箱から壺を取り出し触って見せる。流石に持ち運びに苦労するのはマズいため、訓練開始と言うコマンドを言わなければ普通の壺なのだ。


「それと訓練符の方は大鬼相当と言ったが、索敵や調査の重要性を教えられるものとなっている。今度の戦闘会で使用するつもりだ」


「は、はあ」


 どうやら非鬼や特鬼の訓練符のせいで感覚が麻痺している様だ。本来なら大鬼の訓練符でも、仰天する程の貴重性だというのに。


「ではこの箱を全て運ぶので手伝って欲しい。この2つは私が持っていくから安心してくれ」


 全く持って貴明には感謝しきりっぱなしだ。実物を見てさらに確信した。これを目当てに世界中から、専門家や異能関連の生徒が練習をしにやって来るほどの教材だ。となるとやはりハードだけでなくソフトにも金を掛けねば……通訳……案内板……教員……英語のカリキュラム……忙しくなるが安いものだ。


 目指せ世界一の学園と言ったところだな。

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