仮想敵2

「お姉さまあーん」


「あーん」


お昼休みは当然、恋人達の聖地校舎の屋上だ。

お姉さまにあーんをすると、手が震えて箸もプルプルしてるが根性だ俺!

でへ。でぇへへ。


いやあしかし、クラスの皆さんに主席としての頑張りを見せられなかったのは残念だったなあ。あれから更に蜘蛛君が色々ばら撒いたから主席としてアピールできたのに……。


「あなたあーん」


「あーん」


お姉さまにあーんされると、嬉しすぎて意識を失いそうだが根性だ俺!


あ、猫君を持って来ているのに学園長に提出するの忘れてた。この後行かないと。


「今朝すっごく気分が悪かったの……」

「私も……」

「朝だけだったから風邪じゃないと思うんだけど……」


「え、病院行こうよ。僕も付いて行くから」


出たな爽やかイケメン先輩。相変わらずハーレム満喫しやがって呪うぞコラ。ま、呪ったのはあんたじゃなくてあんたの嫁さん達なんだけどな! だーはっはっはっは! そんなに女を連れてるから邪神に呪われるんだよ! 大事な人達が呪われてどんな気持ち? ねえどんな気持ち?


「今は大丈夫だから。はい龍太あーん」

「私も。あーん」

「こっちもあーん」

「はは、はは。あ、あれ?」


どうしました先輩? 嫁達の出して来たのがダークマターじゃなくて、何とか食い物に見えるから戸惑ってますね?


「……」


慎重に口に入れて確かめてますけどぶっ倒れる程じゃないでしょ?

いやあ、しかしすいませんね嫁さん達呪っちゃって。実はポイズンクッキングとかデスクッキングしようとすると猛烈に気分が悪くなって、今やってる料理の手順変えたほうがいいかもって思うようになる呪いかけたんですわ。ついでに言うと、呪いが自分で判断するなんていう上位の呪いだぞ。つまりあんたの嫁さん達は俺の毒牙に掛かっているのだ! だーはっはっはっは!


割とマジで感謝してくれ。砂糖と塩間違えたくらいじゃ反応しないあれが発動したって事は、本当にデスクッキングしてるって事だから。ま、少しの間心配だろうけど、段々と消えていくから安心してくれ。ついでに言うとその気分の悪さは、あんたが飯食った時の気分の悪さそのままだから。よく耐えたよ。


いやあそれにしても、あんないい人の嫁さん達を呪っちゃって僕ってなんて悪い子なんでしょ。邪神の子だったわ。もうちょっと上だった。なら仕方ないよね。


「そういえばお昼休みに学園長室に御呼ばれしたみたいね」


「そうなんです! お姉さまとのひと時を邪魔するなんて……!」


許すまじ学園長! 寝起きの枕に必ず10本以上髪の毛が抜け落ちてる悪夢を見せるぞ!


「あの紙屑を混ぜた猫ちゃんの事かしら?」


「いえ、多分解呪の授業に使う壺が届いたんじゃないかなって」


本当は俺が呪いを掛けるなら石ころでもいいんだけど、古くて強力なものとなるとやっぱり壺とかその辺になるから、安くていいから壺とかにしてくれって学園長に頼んでたのだ。特に強力なものとなると、呪われているのは古い骨董品っていう世間のイメージすら吸収してるから、実践を想定するならやっぱりそこらがいい。



「よく来てくれた。早速だがこれを使って教材を作って欲しい」


「分かりました!」


やって来ました学園長室。所狭しと段ボールが置かれているな。やっぱり教材用の壺だ。

ったくしょうがねえなあ。まあこれも栄光あるブラックタール帝国の発展のためだ。皇帝自らやってやろうじゃないか。


「失敗した時の効果はどうします? やっぱり箪笥の角に足の小指をぶつけたくらいですかね?」


「その痛みは全身にいけるか?」


「勿論です」


「では全身で頼む。この世界に安全な物などないからな。練習とはいえ緊張感が必要だ」


「分かりました」


ふっふっふ。宰相、お主も悪よのう。分かったやってやるよ! 全身飛び上がるくらいの奴をな!


「大陸のにヨーロッパのまで。色々買ったのね」


「地域ごとに呪いも若干違いますからね」


面倒だっただろうが妥協は無しだ。東方系はじわじわ系のパニック物で、洋物は一発ドカンと来るパニック物なのだ。一長一短あるがどちらも面倒という事に変わりない。そしてこれだけ数があれば、よっぽどドマイナーな方法や神以外の呪詛を込めれるだろう。


「うふふ。旦那様の仕事ぶりを見させてもらうわ」


「是非ご覧になって下さい!」


「よろしく頼む。いや本当にありがたい」


学園長、あんたには言ってねえよ!


全く……まずはオーソドックスな単なる恨みがこびり付いた奴からだな。あと蠱毒に使われた奴とか。


「上はどこまで見ます?」


「ふうむ。スペシャリストに教えを請うが、現実的に出て来るものの最大値はどのあたりだ?」


しゃあねえなあ! スペシャリストとして答えてやるか!


「ギリ1000年モノ辺りですかねえ。流石にそれ以上のモノとなると、それを見つけた時代の天才やら誰かしらが対処してますから。何と言ってもそれくらいになると、確実に死ぬような危険物ですからね。あ、エジプトのモノは例外です」


あの辺りは平気で紀元前モノが出て来るからな。出たら近くのバチカンに直送してくれ。一番確実なのは親父にぶち込むことだが。何と言っても親父は億年モノなのだ。


「なるほど。では念のため1500年モノと1000年モノを1つづつ頼む」


「分かりました」


もうその辺りにあると、作るのはある意味簡単ではある。一周回って悪辣とか狡賢いのレベルじゃなくなって、さっきも言ったが触ると即死するレベルなのだ。だが呪いという意味では弱体化してるな。全く苦しまないのだから。


えーっと後は、普段は完全に擬態してる奴、本人だけじゃなくて一族郎党に広がる奴、ただひたすら不幸になる奴、壺から飛び出して宿主を変える奴、ダミーを使って死んだふりする奴、神話とか古事に習って作られた奴、逸話がそのうち本当になってしまった奴。それと学園周辺の恨みを吸収して、再充填される機能も付けてっと。ああ忙しい忙しい。だがこれもブラックタール帝国発展のためだ。


目指せ世界に誇れる大帝国!

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