仮想敵4

「放課後だが特鬼との戦いに、私を含めた学園の単独者達と推薦組、アメリカ校の教官達と生徒全員が参加する事になった。実際の特鬼戦はもう少し数を抑えての戦いだが、単独者ではなくてもベテラン達が補佐をする形となるため連携が肝心となる」


 また学園長唐突ですね。というかウチの最上級生と、アメリカの新兵君達合わせたら100人近いでしょう。幾ら猿君が単体で集団を圧殺するコンセプトでも、それだけ囲まれるときついですよ。いや、推薦組とはいえまだ学生だからそこまでか?


「それでは予定のないものは見に来て欲しい。以上解散」


 じゃあ猿君の応援に行こうかね。


 ◆


 猿君頑張えーってやっぱダメだろこれ!


「流石にこれだけいれば私も楽しめるかしら?」


 お姉さまは楽しそうに笑っているけど、訓練場に100人もいたら流石に洒落にならん! 蜘蛛君も呆れてるよ。猿君はやる気満々だけど……。


「どうでしょうねえ」


 そうは言っても多分お姉さまの総力には劣る筈だ。流石お姉さま!


「それでは早速開始する」


 学園長早いよ。これがアメリカ校との最後の交流なんだから、もう少し何と言うかですね……情緒と言うか……脳筋には無理な話か。


「すまん言い忘れていた。この後ジュースと菓子で打ち上げがある。費用はアメリカ校が出してくれたから、参加する生徒は礼を言う様に」


 脳筋って言って悪いな学園長。ちゃんと考えてたか。向こうのお礼で他人の金だが。


「では開始する。起動」


『グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』


 表れたのは我がブラックタール帝国の武官こと猿君。全長20メートルの威容は相変わらずで、参加している生徒の皆さんは早くも腰が引けている。まあそこらのロボットよりもデカいのだ。そりゃビビるよ。


『全員で拘束しろ! 聖なる鎖よ悪しきモノを捉え給え!』


『サーイエッサー!』


『グオオオ!?』


 あ、やっぱ対策してるよねそりゃ。三猿のデバフかけるには手を使う必要があるから、今みたいにアメリカの皆さんが猿君の腕を拘束するのは当然だろう。これが学園長が言うところの、調査の重要性と言う奴だな。初見殺しが効かない。しかも鎖の数は60本。いやになるね。


「我々は足だ! 大地よ凍れ!」

「念力砲!」


『オオオオオオオオオ!?』


 そんでもって足の方は、我が校の先輩達がひたすら膝カックンしている。いやこれ冗談じゃなく膝カックンなのだ。正面からなら余裕だろうが、関節の構造上どうしてもそれをやられると弱い。その上床は氷でツルツルときた。あ、超能力でも摩擦ってある程度無くせるんだ。へえ勉強になるなあ。周りに皆さんもノート書きまくりだ。


 って暢気に観戦してたけど猿君ヤバいぞ。2本足で身長がデカい事を徹底的に突かれている。重心が高いのに腕を引っ張られて、その上足元が虐められているのだ。得意の腕力にものをいわせて鎖を引きちぎる事も出来ない状態だ。


「目は効かなかったけど膝は効く様ね!」

「抑え付けろ不動金剛力士!」

「掛けまくも畏き伊邪那岐の大神」


 てめえ単独者共! 前回猿君にボコボコにされたくせに調子乗ってんじゃねえ!


 猿君聞こえますか? そうですブラックタール帝国皇帝です。単独者共です。とにかく単独者共を狙うのです。今度は100回パンチをお見舞いするのです。え? 今それどころじゃない?


『ゴアアアアア!?』


 さ、猿くーん!?


 猿君こけたーー!?


 つるっといっちゃったよ! やべえよやべえよ! まな板の猿だよ!


「いざ我求むるはこの世全てを止める氷獄の」


 猿君ヤバいって! 前防いだ魔法完成しちゃうって! 何とか手で口閉じて!


「地獄」


 あ。


 迸る絶対零度。

 マイナス273度の吐息。


 それが猿君に完全に決まった。


 もう誰が見たって氷像だ。こんなのまともに食らって生きている存在などいないだろう。


「勝った?」

「やったぞ!」

「やったああああ!」


『特に危険に勝ったぞ!』

『神よ!』

『流石にこれだけの数が居れば特に危険でもこうなるか』


 いやあ皆さんおめでとうございます! 見事特危の猿君を打倒出来ましたね! これぞまさに友情努力物量物量物量勝利! 猿君もお疲れ様。流石に単独者みたいな人がウチに来るには時間が空きそうだから、それまでゆっくりしててね!


 あれ? 猿君?


 もしもーし?


 なにこのパキパキって音? ひょっとして動いてる?


『グッグッグオオオオオオオオオオオオ!』


「なんだ!?」

「こいつまだ!?」

「気を抜くな!」


 さ、猿くーん!? 空気読めえええええ! そこは負けちまった流石だなって言うところだろ! 


『ノウマク・サマンダ・ボダナン・ラタンタラト・バラン・タン』


「なん……だと……」


 猿君真言唱えちゃったよ……俺しーらね……。

 猿君の体を纏っていた黒い筋繊維が、腕に、頭に伸びていく。

 いやあ、それはそれとして地下訓練場で学園長に言いたかったんですよ。奇しくも同じ構えですねって。


『オオオオオオオオオオ!』

『ガアアアアアアアアア!』

『グウウウウウウウウウ!』


 鈍っていない単独者達への訓練状態にして猿君のもう一つの姿。


 出来上がったのは黒いもう二つの顔。黒いもう四つの腕。


 合わせて三面六臂。


 それぞれに剣、槍、金剛杵。


 猿君は強き見ざる強き言わざる強き聞かざる猿であり。


 そして言葉通り、強き強き強き猿なのだ。


 人は言うだろう。


 阿修羅だと。


『ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアあああああああああaaaaaaaaaaa!』


 天ヨ見ヨと阿修羅が叫ぶ。


 我歩道修羅道也。


「お"っ!?」

「がっ!?」

「っ!?」


 塵も積もれば単なる塵である。


 阿修羅が携えた槍の一振りで10が20が吹き飛ぶ。

 金剛杵から迸る雷で10が20が吹き飛ぶ。

 剣が足が体が10が20が30が40が


「空間さっ!?」

「祓いっ!?」

「金剛っ!?」


 そこに単独者などという肩書も塵芥。


 全てが


「ノウマク・サマンダ・ボダナン・ラタンタラト・バラン・タン!!!」


 再び紡がれる阿修羅の真言。


 アンタやっぱりすごいよ学園長。


 誰が信じる、あの精度の阿修羅を一個人が招いたと。仏門の全てが敬服するだろう。


 蜃気楼でもなし影絵でもなし影法師でもなし。

 悪修羅の威体に劣るところなし。

 鎧纏いて六腕全てに剣。

 面は哀など一つも無し三面全て闘。

 あれこそまさしく仏門守護戦闘神阿修羅。

 あれこそまさしく日ノ本最強の使い手。


「阿修羅三世三善道!」


『『『三悪四悪我修羅道!!!』』』


 お互い既に必殺の間合い。

 守護神と悪鬼神、それぞれの面を強調された阿修羅が、小細工抜き、霊力最大、全ての武器を大上段に構えて一刀の下切り掛かる。


 結果は一瞬。学園長は吹き飛び悪修羅は元の紙に。


 二体の阿修羅は完全にお互いを切り伏せあったのだ。





 いやあ、凄いもの見ちゃったなあ。20メートル同士の阿修羅の対決なんて見られるもんじゃない。周りの皆さんも全員ポカンとしているよ。学園長、歳食ってこれだから若い頃はどんだけだったんだ? 相打ちだけど、特鬼のほぼ最上位の猿君を一人で倒しちゃったよ。そりゃ昔に異の剣が学園長に、親父を何とかしてくれって頼むはずだ。親父に連絡しとこ、学園長はよくやってるって。やっぱり今度飲み会のセッティングをしてやるか? 昔話に花を咲かせるだろう。ね、お姉さま。


「ふふ。うふふふ。うふふふふ」


 お姉さま?


「式神のインスピレーションが湧いたわ。同じだと面白みに欠けると思ってたけど、数も丁度だしこれで行きましょう。うふふふふ」


 よく分からないけどお姉さまが嬉しそうで僕も嬉しいです!


「という訳で帰ったら少し血を頂戴な。ね。あ、な、た」


「ほああああああああ!」


 だからだめですってお姉さま! そうやって顔を指先でつーってされると僕はああああああ!


「あ、すいませんお姉さま。よかったら式符を1つ僕にくれませんか?」

























 始めまして皆さん。実は皆さんにお願いがありまして。恨みは晴れても未練、残ってますよね? ええそうでしょうとも。残って無い筈が無いですよね。そこでお願いがあるのですが、その未練解消する代わりに、これに皆さんの想いを少し分けて貰えませんかね? 恐らく皆さんの二番目の未練、もう二度とこんな事が起こらないようするため。ええ、当事者だからこそあなた方は知っている筈です。あれの恐ろしさを。だからお願いします。ああ、足りない分はこちらで増幅します。皆さんも覚えがありますよね? ははは、そうです。倅です。


 ええ、人の為、世界の危険に対して世界の為。


 交渉成立ですね。では始めましょうか。


 変身 真形態


 あなた方の愛を形に

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