単独者達

朝の学園長室、そこには伊能学園が誇る単独者5人全員が呼び出されていた。日本の単独者の数が20人前後な事を考えれば、学園長も含めて合計6人もの数がいる事は、いかにこの伊能学園の人員が充実しているか分かる事だろう。


「今年は妙に呼び出しが多くねえか?」


20代の中頃で、髪を金に染めた世に天才と謳われている超能力者、浜口悟志が同僚の単独者達に言葉を向けた。


「確かに。だがまあ、前回の非鬼よりは今日の呼び出しは想像がつく。あれを使ってアメリカとの合同での実習とかその辺りだろう」


それに応えるのは30代後半、スキンヘッドの男性魔法使いにして、日本における魔法の第一人者須藤正志である。


「皆さんも学園長にあの非鬼の式符の破壊をお願いして貰えません? あれ本当に尋常じゃない呪詛なんですから、そんな軽い扱いして欲しくないんですけど」


ある意味暢気な話をしている2人に警戒感が足りないと苦言を呈しているのは、20代後半の黒い髪の女性、巫女の東郷天音である。彼女は歳が離れているが、最上級生と一年生にそれぞれ妹がいる東郷姉妹の長女でもあった。


「そんな物警戒に値せん。本当に警戒しなければならないのは一年の桔梗小夜子だ」


その東郷を鼻で笑っているのは、30を過ぎた修験者の峰崎巌である。彼に言わせると一年生の生徒が、非鬼よりもよっぽど警戒しなければならない存在のようだ。


「確かにそうね。彼女ずっと私達に襲って来いって挑発して来るし」


いや峰崎だけでない。様々な神器や呪具などで戦う30代の女性、田中雅美も彼に同意していた。


以上の5人と学園長を含めた6人が異能学園が誇る単独者達である。


「ま、確かにあんな馬鹿みたいな霊力でずっと俺らに威圧してるしな」


「ああ。名家連中が言う殺処分はやりすぎでも、力の一部を封印せねば危険だ。入学テストの時に感じたあの霊力はあまりにも殺意に溢れていた」


「あの子の霊力すっごく厄いんですよねえ。多分妖異由来の物で間違いないです。しかも最近、もっとヤバいドロドロしたものまで付いてますし。何とかしないと危ないです」


一応彼等を擁護しておくが、誰が悪いかというとほぼほぼ小夜子が悪い。なにせ他人に全く興味がなく、有象無象、塵芥と他者を評している小夜子の悪評、というか真実を念頭に置いたうえで、彼女の試験を観察しに来た単独者達が受けたのは、殺してあげるから掛かって来いというやる気満々の霊力だったのだ。そりゃあ誰だって警戒するし何とかしようと思う。


「諸君すまない。待たせたようだな」


そんな中に現れたのが我らの学園長、竹崎重吾である。かつて日本最強と言われた男であったが、現在では後進の教育に携わっているため現役を退いて久しい。しかし、一部の教員や単独者達は気が付いていた。妙に錆びを落としたというか元気というか、心身ともに現役時代に戻りつつあると。


「学園長。桔梗小夜子の事ですな?」


「何度も言わせるな峯崎。彼女に何らかのアクションを起こすのは厳禁だ。いいか、学園長として言ってるのではない。単独者竹崎重吾として言っている」


「むうっ」


「きゃっ」


「……へっ、最近はちょっとショボくなってたのにな。おっさんが張りきっちゃってまあ」


その学園長に対して小夜子の事を制圧するべきだと進言する峰崎であったが、返って来たのは途方もない圧の霊力であり、そして、学園長ではなく単独者として言っているという事は、強制的に黙らせることも視野に入れているという事だ。まさにかつての最強の貫禄を見せつけていた。


「そうそれだ浜口。ショボくなっていた」


「な、なんだ自覚あったんだな」


「ああ」


浜口は皮肉る様な自分の発言に返事があると思わずつい戸惑ってしまう。


「そしてそれは諸君達もだ。最後に命懸けで戦ったのはいつだ?」


「む」


「えーっと」


「4年前? 5年前?」


「あー藪蛇だった」


浜口にしてみれば完全に藪蛇だったが、他の面々にはダメージがあった。確かに異能学園に勤めているここ数年命懸けで戦ったことが無く、自分達が鈍っているという自覚があったのだ。


「諸君達は国から単独者の教員として派遣されている。つまりだ、鈍っているのは困るのだ」


「確かに学園長の言う通りだ。しかし問題がある。我々が命を懸けるとなると特鬼になるが、そんなものは年に一回出るか出ないかだ」


彼等だって鈍っているのは問題だと思っている。しかし実際のところ、無理矢理昔の調子に戻そうと思ったら、命を懸けて特鬼と戦う必要があるが、そんなものはそう現れるものではないのだ。


「うむ。その通りだ須藤。だからやるぞ。放課後。特鬼式符と。訓練を。今日こそ。絶対に」


「は?」


これは全員一致の、は? であった。つい最近非鬼の式符で耳を疑ったのに、今学園長は特鬼と言ったのだ。勿論そんな物は世界に一つもない。


「提供者は勿論言えん。だが学園の為にと非常に素晴らしい志で寄付してくれた。それに受け持っているクラスは午前中、戦闘会への参加で教師の私が必要ないからこの後すぐ試す事が出来る。だから問題ないようであれば放課後諸君達はこれに参加してもらう。ああ、アメリカの教師陣達にも声を掛ける必要があるな。彼等も同じ危機感があれば参加すると言うだろう。それと特別に張った結界の外で最上級生と一部の生徒も見学だな。これは我々にとっても生徒達にとっても非常に重要な学びになる。情けない姿を見せない様にな」


「は?」


また、は? である。勝手にどんどん話が大きくなっていくのだから当然だろう。


「では解散。私はこれから地下訓練場で実用試験だ。諸君達も次の受け持ちを頑張ってくれ。うむ、腕が鳴る」


「は?」


またまた、は? である。だが最近妙に図太くなった学園長は、呆然としている単独者達を置いてさっさと部屋を出て行ってしまった。


「は?」


またまたまた、後に残された彼等は暫く呆然としていたのであった。

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