いきなり
もうだめだぁおしまいだぁ……。
絶対落ちた、間違いなく落ちた。俺の都会生活が、同級生だけどお姉さまとの素敵なキャンパスライフが……。いや、同級生になるはずだった、か……はは。
こうなったら帰る前にナ、ナンパして……。無理だよな。あのクモ野郎のせいで服がボロボロになったから、今は部屋着のジャージだ。どう考えても無理。いや待てよ? 田舎から来た純真坊やに興味があるお姉さまが一人や二人……。行けるか? 行っちゃうか?
「四葉貴明様ですな?」
「はい、なんでございましょうか!?」
完璧なプランを立てている最中に声を掛けられ、思わず上擦った声で返事をしてしまう。見るとそこには、どこか見覚えのあるリムジンと、それを前後で挟んでいる厳つい車、そしていかにもその道なこれまた厳つい男が自分に目線を合わせていた。ヤの付く人ですか? ひょっとして親父へのお礼参り? 丁度良かった。お姉さま達に出会えたのは嬉しかったけど、それはそれで異能学園なんかに放り込もうとした親父に俺も一発入れたかったんですよ。喜んでご案内しますよ? ただ生きて帰れるかは微妙かなあって。なんつったって、俺の全力を込めた恨みの一撃を受けてもケロッとしているのだ。おのれ、あの勝手に食いやがったアイスは未だに忘れてないぞ。
「主人が貴方に会いたいそうです。どうぞお乗りください」
そう言うと男はリムジンのドアを開けて俺を招く。間違いない親父関連だ。そうでもないと俺なんかがリムジンへ招待されるわけがない。それにこの男だって俺の事蔑んだ目で見てるんだ。こんな田舎の純情ボーイをそんな目で見るってことは、身内が親父に一生こむら返りに悩まされる呪いを掛けられた違いない。
「それじゃあお邪魔します」
「いらっしゃい」
大体10分に1回くらいの頻度でこむら返りが起こってるのかなと、馬鹿なことを考えながら車に乗り込むと、甘い、とても甘い蠱惑的な声で出迎えられた。
「お、お姉さま!?」
「あら、私達同い年よね?」
そこには憧れのお姉さま事、桔梗小夜子お姉さまがワイングラスを片手に微笑んでいた。でもお姉さま!? 確かに僕たちワインを飲んでもいい歳ですけど、真昼間からはマズいですよ!
「車を出して」
「はい」
厳ついお人よ、そんな渋々見たいな声を出さなくても。あ、ちょっと!? どうしてドアを閉めるんですか!? 僕一体どこへ連れてかれるんですか!? お姉さまを変な目で見た罪で沈められるんですか!?
「ねえ」
「はいなんでしょうか!」
そんな不安はお姉さまに声を掛けられて吹っ飛んでしまった。広くゆったりした車内でお姉さまの対面の席に座り、改めてお姉さまに用件を伺う。それにしても幼い外見なのに色っぽいとは流石ですお姉さま。その切れ長の目で見つめられるとウッとしてしまいます!
「あなた、私を隅から隅まで
「ぶっ!?」
一体何のことですかお姉さま!? それにマズいですよ! こういうリムジンって運転席とガラスで隔たれてるものじゃないんですか!? 前の厳ついお二人に丸聞こえなんですけど!? 心当たりないのに!
「前じゃなくて私を見てくれないかしら? 彼等はなにも聞いてないわ。それで、弄ったわよね? 唇から足先まで。それに人に言えない所も」
「はい! じゃねえ! 全く心当たりありません!」
思わず返事してしまったが、やっぱりマズいですよ! 聞こえてない体のマッチョさん達から殺気が! 怖えええ! あなたもワイン飲むって流石ですお姉さま余裕っすね! でも僕飲むより下から出ちゃいそうなんですけど! あ、そのニタニタ笑い超かわいいです。
「嘘は良くないわね。あなたが触手で私をびっしりと締め付けたのはちゃんと分ってるのよ。か弱い私が必死に止めてってお願いして、ようやく許してくれたけど、この火照った体の事どうしてくれるの?」
ぬわああ! お姉さま近い近い! それにいい匂い。
「本当に何のことだか分かりません! 心当たりがないんです!」
「もう。私が霊力を測った時、他の有象無象共が汚物を撒いてるのを見かねて、この女は俺様のものだから手を出すなって言って、わたしのことを触手で包んだ男らしいあなたはどこ行っちゃったのかしら。それにあの時言ったわよね? この後会いましょうって。それを忘れて帰ろうとしてたなんてひどい人」
あったよ心当たり! でもなんか色々脚色されてるんですけど! ほら、殺気が酷くなった! あ、そのニタニタ笑い確信犯ですねお姉さま!? って言うかあの時の空耳じゃなかったんか!
「有象無象とはいえ、嫁入り前の娘が衆人環視の中であんな事されてしまったのですもの。もうお嫁にいけないわ。あなたに責任取って貰わないと」
「責任取って貰わさせて頂きます!」
そ、そんな。その、まずは下駄箱ラブレターから始まって、屋上か校舎裏で告白する手順からですね。そんでもってデートを重ねてそのうち、そのうちいいいいい!
あれ?
「……本気?」
「勿論であります!」
どうしましたお姉さま。そんなにポカンとして?
あれ?
「……本気にするわよ?」
「ばっちこいであります!」
目力がすごいですよ?
あれ?
「……わたし鬼の子とか言われてるわよ? 本当に?」
「自分邪神の子であります! これ本当です!」
すんげえ近いですよ?
まつ毛重なりそうなんですけど。
あれ?
「……周りも、私だって自分の事化け物だと思ってるわよ?」
「奇遇ですね! 自分も化け物状態あるんですよ!」
でもあれは触手じゃありませんから!
あれ? あれ?
「………あれだけ弄って体を触ったなら、私がどれくらい危険か分かってるでしょ?」
「自分の1000分の1以下かなって!」
でも自分は尻に敷かれるタイプなので大丈夫です!
あれ?
「…………こんな外見だけど心はとっても醜いのよ?」
「うるせえ! 今まで我慢してたけどその澄んだ黒い目に一目惚れなんだよ! 黙って貰われてろ!」
あ、しまった! ほんのちょっとだけ邪神って事がバレて忌避されるのが辛いから、自分にも隠して来た本音を言ってしまった!
「……幾久しく。ね。旦那様」
「……ふぁい」
あ、赤ワインの味。
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