山が鳴くと蟲が死ぬ

右左上左右右

(SSG)

山が鳴くと蟲が死ぬ。


その地方ではそんな言い伝えがあった。多くの人は意味を知らず、特に深く考える事もなかった。

ある夏の日、山が鳴いた。おおんと言う空気の振動と地面の揺れ。誰もが地震だと思ったが、計器類は一ミリとて動かず、集団ヒステリーとされた。

山では蟲が這い出、土が見えないほどに表面を埋めつくしていた。鳥が空から落ち、小動物が倒れ伏し、木が変色し根が浮いて、気付いた頃には山の中腹に大きな穴がぽかりと口を開けていた。深く深く地中へと続き、人々の興味を引いた。そんな一人だろう老婆が、穴の中から果実を持って現れた。いつの間にと山の持ち主である男は老婆から果実を取り上げて追い払い、口にする。酒だった。果実の中に酒がたっぷり詰まっていた。男は酒の実を存分に楽しんで大いに酔って寝た。


夕刻、彼の妻の見たものは、蟲が口から溢れ、蟲が腹を喰い破って出てきている夫の姿だった。


山が鳴くと蟲が死ぬ。

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