あの女性(ひと)の料理

平 凡蔵。

第1話

タクミは、レイコがキッチンで料理をしているのを、後から覗き込んだ。

「どうしたの?ちゃんとカラザは取ってるよ。」

レイコは、後のタクミを振り返ることも無く答える。


タクミは、玉子料理は大好きなのだが、あのカラザの部分が、気持ち悪いと言って、必ずレイコが、カラザを取るのを後ろから確認するのが、新婚時代からの習慣だった。

いや、習慣と言うより、そうせずにはいられない性分だったのだろう。


「ねえ、テーブルに座っててよ。お造り買ってあるから、先に食べてて。」

「ああ、ありがとう。」

レイコは、冷やし過ぎじゃないかと思えるぐらい冷えた缶ビールと薄いガラスのコップをテーブルに置いて、タクミを見た。


タクミは、穏やかな笑顔をレイコに見せたら、新聞紙のテレビ欄を見ながら、「今日は、面白いテレビないね。」と、コップの半分までビールを流し込んで、微かにコツリと音がするかしないぐらい静かにコップを置いた。

そんな置き方をしても、誰も見てないよって、レイコは呆れたように笑った。

1杯目のビールの飲み方に、男の美学というものが表れるなんて思っているらしいんだよね。


レイコは、キッチンに向かって、ボウルの玉子を撹拌しながら、考えていた。

あなたは、あたしといて幸せなの?

ねえ、あなたが、週に2回会っている女性(ひと)を、あたしが、気が付いてないと思っているの?

あの人とは、遊びなの?

ねえ?


考えると、悔しくなって、唇を噛みしめていた。

「あたし、何のために、あなたの好きな料理を作ってるんだろ。」

小さな声で呟いてみる。


あたしの考えてることなんて、あなた解らないよね。

だって、声に出してないんだもの。

心の中の声だもの。

そうだよね。


「ん?今、何か言った?」

レイコの呟きに、タクミが反応した。

「ううん。独り言。」


「ふうん。最近、独り言、多くなったね。」

「えへっ。年取ったのかな。」

そう言って、レイコは、恥ずかしそうに笑った。

笑ったのだけれど、タクミに素直に恥ずかしそうにしたことが、自分自身で、悲しかった。

でも、やっぱり、タクミと話していると、楽しいなと思った。


豚のひき肉に、みじん切りした玉ねぎを、熱したフライパンで炒める。

そこに、醤油と、オイスターソースを加えると、ジャーンという音とともに、キッチン中に、食欲のそそる香りの空気が広がった。

この瞬間が、あたしって、料理上手いじゃんって感じる瞬間だ。


みじん切りにした青ネギと、中華のうま味調味料を、少し加えて、オムレツの具の完成だ。

これを、さっきの玉子で包む。

タクミは、レイコの作る中華風のオムレツが、大好物だった。


「はい、オムレツ。」

そう言って、醤油をテーブルに置いた。

「あ、マヨネーズも取ってくれる?」


「えっ、マヨネーズ?」

「うん。マヨネーズも付けてみたら、美味しいんじゃないかって思ってね。」


あなたって、オムレツには、いつも醤油だったじゃない。

「中華風のオムレツには、醤油だな。」っていつも、醤油をかける時に言ってたじゃない。

味の好み、変わったの?


あの女性は、オムレツにマヨネーズを付けるのかな。

まさか、あの女性に、奥さんの得意料理を作らせているってことないよね。

だって、第一、あの女性だって、奥さんのマネした味を作りたくないだろうしさ。


だったら、どんなオムレツを作ってくれるの?

マヨネーズだったら、中に入れる具は何なの?


ねえ、あの女性の作った料理は、美味しい?

あたしのオムレツと、どっちが好き?


あはは、最低だね。

マヨネーズ掛けただけで、こんなにも卑屈な気持ちになるなんてさ。


ねえ、知ってる?

知らないよね、あたしが、休みの日に、あなたの後をつけて行ったこと。


レイコは、タクミと同じ会社の同僚だったのだが、結婚をして専業主婦になった。

あの女性とは、レイコが会社を辞めた後に、入社した新入社員だ。

それを、レイコと親しかったマリコが、教えてくれた。


始めは、信じられない気持ちだったけれど、帰りが遅くなることも増えて、休みの日に、理由を付けて、1人で出かけることが多くなった。

半信半疑で、ある日、レイコは、タクミの後をつけて行ったのだ。


楽しそうだったね。

まるで、新婚夫婦か、恋人同士に見えたよ。

あ、正確に言うと恋人なのかな、だって付き合ってるんだもの。

あたし以外の恋人。


スーパーのカートに、2人で楽しそうに食材を入れてたよね。

牛肉に、長ネギ、お麩に生玉子。

すき焼きだよね。

あの時の料理は。


でも、ビックリしちゃった。

あの女性が、カートに、ペットボトルに入ったすき焼きの割り下を入れたのね。

でも、あなた、楽しそうに笑ってたよ。


タクミさん、あなた、あたしがすき焼きを作る時は、牛肉をスキヤキ鍋に並べて、その上に砂糖をたっぷり振りかけてさ、それで醤油を回しかける作り方しか、させてくれなかったじゃん。

大阪人は、このやり方でなきゃダメなんだって。

あたしが、今まで1回だけ、割り下で作ったら、ちょっと不満そうな顔してさ、食べてたことがあったよね。


ねえ、あの女性の作ったのなら、何でも美味しいの?

割り下のすき焼きでも、楽しそうに食べたんでしょ。


ねえ、あの女性の得意料理って何なの。

それ、あたしが作ってあげようか。

そしたら、あたしに戻って来てくれる?

そんな訳ないよね。

はは、あの女性の料理に惚れた訳じゃないもんね。

料理なんて、どうだっていいんだもんね。


あたしには、料理の注文多いよね。

ああしろ、こうしろ。

あれは、ダメ、これはダメ。

あたし、あなたは、食べることが趣味だと思ってたんだけど。


だから、あなたの喜ぶ味付けにしてきたのよ。

ずっとさ。


ひょっとして、あたしの事、嫌いになっちゃった?

でも、家にいる時のタクミは、いつもと変わりないんだもんね。

あたしの事、可愛いって言ってくれてるものね。

あれは、後ろめたい気持ちがあるから、お情けで言ってくれてるのかな。


ねえ、あたしより、あの女性の方が好きなの?

じゃ、別れてあげようか。

あははははは。

そんなこと出来る訳ないじゃん。

あたし、あなたがいない生活なんて考えられないよ。


「うん。オムレツに、マヨネーズも、アリだな。レイコも、試してみたら?オムレツにマヨネーズも、なかなか、イケるよ。」

「そうなの?じゃ、後で食べてみるね。良かった、喜んでくれて。あ、でもね、作ったの、あたしよ。」

「あ、ホントだ。レイコの料理は、いつも美味しいよ。」

そう言って、キッチンを見た。


「そうだ、今、ほうれん草と厚揚げを炊いてるからね。ちょっと待っててね。」

「あ、それも好きなやつだ。」


タクミは、ホントに、料理を美味しそうに食べるよね。

箸で、オムレツを、綺麗に正方形に切って、それを、パクリと口に入れる。

その仕草も、綺麗だし、何より、口に入れる時の表情が、嬉しそうなんだな。

あの表情を見たら、またタクミの喜ぶ料理を作りたくなる。


それにしても、タクミは、あの女性の料理を食べる時も、こんなに嬉しそうな表情を見せるのだろうか。

そして、あの女性は、そのタクミの表情を見て、幸せを感じるのだろうか。


そう思うと、情けないとか、悲しいという感情よりも、悔しさとか怒りに似た感情が湧き上がってくる。


さっきは、別れてあげようかなんて、こころの中で呟いてみたけれど、そんなこと出来る訳ない。

出来ないなら、いっそのこと、あの女性を殺しちゃおうか。

そしたら、あなたは、あたしに帰ってくる。

あの食べる時の表情は、あたしだけのものだよ。


でも、ナイフで刺すなんて、怖いから、呪い殺すしかないな。

夜中にね、八幡神社に大きなクスノキあるでしょ。

あそこに、藁人形作って、五寸釘を打ち込むのね。

夜中だよ。金づちでさ、カーン、カーン、って音させながら打ち込むよ。


そうだ、あの女性の名前、リカだったけっけ。

「リカ!死ね!」って叫びながらね。

って、リカだったっけって、本当は知ってるくせにね。


思いっきり金づちで打つからね。

ひょっとしたら、あなたの寝ているとこまで聞こえるかもしれないよ。

遠くから聞こえるカーンっていう音を聞いていると、あなた急に恐怖に襲われるの。

第六感ってやつよ。


でも、あなたは殺さないよ。

お情けで、殺さないから安心して。

殺すのは、あの女性だけ。


なんてね、そんなの出来る訳ないでしょ。

バーカ。

だって、藁人形作る藁もってないもんね。

あはははは。


なんて、呟いてるけどさ、声に出さないから、あなたに、あたしの気持ちは伝わらないんだよね。

伝わらないことが悔しいな。

でも、伝わらないことが、安心なのかもしれないけどね。


「あれ、このほうれん草の炊いたん。ちょっと味薄いね。」

「あ、そう。ごめん。ちょっと醤油足す?」

「いや、いいよ。このままで。」

「じゃ、今度、もっと濃い目に作るね。」


作ってるのあたしなんだけどな。

あたしが料理作ってること感謝してくれてるのかしら。

ううん、感謝なんて要らないよ。

だって、好きで作ってるんだもん。


そりゃさ、あたしだって、そんな料理得意とは言えないよ。

でも、やっぱり、料理の味付けの事言われたらさ、ちょっと落ち込むんだよね。


タクミを見ていると、視線に気が付いて振り向いて、レイコに言った。

「ねえ、この犯人、これおかしいでしょ。こんなこと普通しないよね。」

推理ドラマのストーリーにツッコミを入れている。


あのさ、さっきの味付けの事、もういいのかな。

我慢しながら食べてるの?

それとも、ただ言ってみただけ?

なんか、美味しそうに、食べてるけどさ。


「はい、追加のビール。」

レイコは、そう言ってタクミの目の前に、ビールを置いた。


どう、ビールが欲しかったんでしょ。

さっき、1回、ビールの缶を持ち上げたでしょ。

それで、すぐにテーブルに置いた。

缶の中に、もうビールなかったんだよね。

だから、あたし、ビール持ってきてあげたよの。

どうよ。

こんな芸当、あの女性に出来る?

これが結婚生活10年の歴史ってもんよ。


「そうだ、キュウリとワカメの酢の物、まだなの?さっき、今日は、キュウリとワカメの酢の物もあるよって言ってたじゃない。」

タクミが、聞いた。


「あ、あれ。結構、色々作ったから、あれ、もう作らなくていいかなと思って。酢の物やし。あれ、食べたかった?」

「いや、どっちかと言えばさあ、今日は、何となく疲れてるから、あれ、一番食べたかったんだよ。さっぱりして、美味しそうだなと思って。レイコが言うから、もうその心算でいたのに。」


「エーッ。ホント。今から作る?」

「始めから無いっていうことなら、別に要らなかったんだけど。レイコがあるっていうから、食べたくなったんだよ。だから、悪いけど、作ってくれるかな。」

「うん、いいよ。作るよ。」

「ほんとさ、レイコって、僕の気持ち、解ってないよねえ。」

と言って、屈託なく笑ってみせた。


あなたさ、よく、そんな無邪気に笑えるね。

あたしにしたらさ、別に作りたくなくて、作らなかったんじゃないんだよ。


「僕の気持ち、解ってないよねえ。」なんてさ、そんなの悲しすぎる言葉だよ。

ちょっと泣きそうになっちゃったよ。

それなのに、あなた、あたしが悲しい気持ちになってるの分からないのかな。

そんな、嬉しそうな顔して、待たないでよ。

たかが、キュウリとワカメの酢の物だよ。

そんなニコニコして首を伸ばして待つような料理じゃないよ。

定食だったら、品数合わせの付け足しみたいなもんだよ。

まあ、それで喜んでくれるなら、作るけどさ。


「うん。美味しい。やっぱりレイコが作る酢の物は、1番だね。」

そう言って、手に取った小鉢の中を見ている。

「やっぱり、酢の割合に秘密があるんだろうな。」


「1番美味しいって、酢の物作ってくれる人、他にいるんだ。1番って、2番もあるんだもんね。」

冗談のつもりで言ったら、レイコ自身が、ドキリとしてしまった。


「そんな人いる訳ないでしょ。あはは。」

まったく動揺もしない様子で、目尻を下げて笑った。


「、、、、、、嘘つき。」

心の中で呟いたつもりが、声に出てしまった。


「ん?」言葉が聞こえなかった様子で、レイコを見た。

でも、レイコは、タクミを見ることが出来なかった。

さすがに、今の言葉は聞こえてるでしょ。

そうレイコは思ったが、それでも、表情を崩さないタクミに、少しだけ恐怖を感じたかもしれない。


「そうだ、明日さ、会社が終わってから、飲み会があるんだ。だから、明日は、晩御飯要らないよ。」

「そう。じゃ、あたしも、楽チンだから、嬉しい。」

「レイコも、たまには、自分の好きなもの食べてね。」

「うん。ありがとう。」


「そんなことより、レイコ、食べないの。せっかく、作ったのに、冷めちゃうよ。」

「うん、あたし、タクミさんが帰って来る前に、お腹減っちゃって、少し食べたから、もう、食べなくていいかな。」

「そうなの。じゃ、全部食べちゃうよ。」

「うん、食べちゃって。」


って、こんな気持ちで、ご飯食べられないよ。

明日、あの女性と会うってことなんだよね。


「そうだ、レイコ。同窓会の案内来てたよね。あれ、出席するの?」

「うん、どうしようか迷い中。」

「ふうん。行けばいいのに。」

「そうだね。どうしようかな。」


久しぶりに友達に会うのは、楽しいよ。

でも、その楽しさより、情けない気持ちが上回るんだよね。

みんな、子供が出来て、子育ての話になるでしょ。

でも、あたしには子供いないしさ。

子供いなくてもさ、仕事して、イキイキとした毎日を過ごしてるととかさ。

みんな、スゴイんだって。

何も持ってないの、あたしだけ。

あたしって、何もできないし、何も持ってないのよ。

びっくりだよね。

むかし学校で、みんなと話してる時は、あたしって才能あるって、密かに思ってたんだよね。

でも、今は、そんなこと、考えられない。

そんなこと考えてたなんて、滑稽だよね。

あはははは。


落ち込んじゃうんだよね。


考えてみたら、あたしって、毎日何してるんだろう。

あなたとの時間だって、会社から帰って来て、今みたいに、食事しているでしょ。

それで、食べたら、あなたは、酔っぱらって、寝てるだけ。

24時間の内、そうだな、あなたと過ごしてるのは、せいぜい2時間ぐらいよ。

後の、22時間は、無駄な時間だよね。


22時間、あなたのことを考えて、嫉妬したり悩んだり、それで、帰ってきたらきたらでさ、残りの2時間、寂しさで押しつぶされそうになったり、傷ついたり。


いままで、何してたんだろう。

結婚生活のほとんどを、あなたの為に、生活してきた気がする。


そんなに、この家庭が大切なものだろうか。

うん、大切なのは、大切だよ。

あなたの事も、好きだよ。

でも、あたしを、自分自身を犠牲にしてまで、続ける必要もないかもしれないと思いついちゃった。


あたしは、あたし。

あなたは、あなた。

全く、違う人間だもん。


あたしは、あたしの人生を楽しんでいいよね。

あなたは、あなたの人生を楽しんで。

だって、別々に生まれて、別々に死んでいくんだもん。


「ん?」

そこで、レイコは、ある考えが頭にひらめいた。

人の価値観が、ほんの1瞬で、ほんの1つの言葉で、或いは、何のきっかけもなくても、180度変わってしまうことは、意外にもよくあることで、簡単なことなのかもしれない。


そうだ、明日からは、あたしだけのために、生きてみよう。

あたしだけの、幸せを考えて生きてみよう。


そうレイコは思った。

いや、思ったというより、ひらめいた。

そして、そのひらめきは、一瞬にして、レイコの価値観に置き換えられてしまったのである。


そう考えると、急に肩の荷が下りたような、レイコ自身、身が軽くなる心地がした。


あれ、どうしちゃったんだろう。

急に、楽しくなってきちゃったよ

その心の変化が、レイコ自身、楽しくてしようがない。


そうだ、明日から、どうしようかな。

仕事でもしようかな。

バリバリのキャリアウーマン、なんちゃってね。

タイトなミニスカートのスーツを着て、黒い皮のカバンを持って、さっそうと街を歩くの。


それか、料理が好きだから、お店でもしてみようかな。

家庭料理の店「れいこ」なんてね。


あ、その前に、旅に出るのも良いな。

とりあえず、きっぷだけ買って、列車に乗り込むの。

どこに行くかなんて、決めなくていい。

そうだ、途中で、イケメンの旅人と出会ったりしてさ。

へへ。

何か、イケナイ関係になっちゃうの。

あ、ごめんね、タクミ。

でも、あなたも、あの女性と、そんなことしてるんだもんね。

おあいこだよ。

そうだ、タクミも、良かったら、あの女性のところに転がり込んでもいいよ。

あの女性に、幸せにしてもらってよ。

美味しい物、いっぱい作って貰ってさ。

それでも、あたしいいよ。


あー、何か楽しくなっちゃったな。

レイコは、ほんとうに、楽しくて仕方がなかった。


「レイコ、どうしたの?すごく楽しそうだけど。」

「うん、楽しいの。明日からあたし、変わろうと思って。」

「ふうん、そうなんだ。まあ、ガンバッテ。」

「うん、ありがとう。」


あはは、タクミが、明日からのあたしを見たら、腰を抜かすだろうな。

ごめんね、タクミ。

でも、これがあたしの本来の姿なのかもしれないんだよ。

あたしが、オギャーって生まれ落ちたときからの、あたしの姿。

一度でいいから、あたしの好きなようにさせてね。

あたしが、好きなように生きるってこと、あなたも応援してくれるよね。

だって、あたしの為だもん。

あたしが、イキイキと本来のあたしであるためだもん。

それが、人間の生き方でしょ。


それでさ、あたしが嫌いになったらさ、別れてあげるよ。

あの女性のところに行っちゃいなよ。

あなたの本来の姿がそれならね。


でも、もし、あの女性に振られたんだったら、待ってて。

あたしに余裕ができたら、戻ってきてあげる。

だって、あたし、タクミの事が好きなんだもん。

あなたの、食べる時の笑顔は、本当に、最高だよ。


女は、愛する人への執着を手放した時、本当の意味での愛を知るのかもしれない。

今、レイコは、タクミが、愛おしくて仕方がなかった。


他人を縛ったり、縛られたり、そんなことは、愛することに必要ない。


タクミが、あたしを、どう思っているかなんて、もう、どうでもいい。

あたしが、タクミさんを、愛しているとう事実さえあれば、それでいい。


あたしは、タクミさんを愛している。

でも、あたしは、あたしの幸せのために生きていきます。


それが、タクミさんにとって、残酷なのか。

或いは、あの女性と幸せになる結果になるのか知らない。


でも、タクミさんが、今のあたしのように、執着を手放した本当の愛を知ったら、あたしの行動も理解してくれるはずだよ。


「じゃ、タクミ。明日、あたしは、本当のあたしに戻ります。」

そう心の中で、宣言して、可愛く小さな敬礼をした。


「うん、やっぱり、酢の物、美味しいな。」

屈託なく笑っていた。

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あの女性(ひと)の料理 平 凡蔵。 @tairabonzou

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