樹木母

右左上左右右

(SSG)

昔、山寺に乳房を持つ木があり、乳の出ない母達が願掛けに訪れていた。

ある日、思い余った母が子に木の乳房を吸わせた。子は無我夢中で吸い、母は、これで子は生きられると思った。

夜中、気付くと子が消え、あの木の乳房を吸っていたのが見つかった。

母親を家へ帰らせ、乳房の木に住職は語りかけた。

「あれはお前の子ではない」

『あれは私の乳を吸い、生きながらえた。私の子だ』

「あれを産んだ母が、乳が出ずに悩んでいたのだ」

『ならば私が乳を与えよう』

語らいは1ヶ月に及んだ。その間も子は木の乳を吸い、母は毎日寺へ来て子の世話をした。1ヶ月が過ぎた頃、焦れた子の父が斧を乳房の木へと振り下ろした。

山全体が震え、子が木と同じ様に裂けていた。女の悲鳴が辺りを占める。女は、真っ二つの子を抱き、山奥へと見えなくなった。誰も止める事が出来なかった。


その山には今も、真っ二つに裂けた子を抱いた女がさ迷っていると言う。

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