第4話

そして次の日。生徒たちが家路につき、人がいなくなった放課後にそれは決行された。

「いやー、しかしヒロがこんな乗り気になるとは思わなかったよ」

 がらんどうの廊下にケンジの声は響き渡った。

「別に乗り気というか、僕らはいつもケンジのやることにはついてきてたからね。それにターゲットが先生となると参加せずにはいられないよ」

「なるほどな。タカシもそんな感じだよな?」隣で同じく歩いていたタカシに弁を向ける。

「……いや、俺は別に……」

「なんだよ、テンション低いなー」

「なぁ、ケンジ。……やっぱりやめないか?」

 大型犬ににらまれた子犬のように弱弱しくタカシは言った。

「はぁ?」それとは相反してケンジは場をわきまえず騒ぐセントバーナードのように大きな声を発した。「ここまで来といてなに言ってんだよ。まさか怖くなったとか言うんじゃないだろうな」

「いや、でもやっぱりさ……」

「俺らはいつでも一緒にやってきたじゃないか。テストの時も互いにカンニングし合って、足りないところはお互いに助け合ってきたじゃないか。俺らは三位一体。ひとりでも欠けたらアウトなんだよ」

「確かにそうかもしれないが、俺らが今やろうとしてることは……」

「タカシ!」そこに割り込んできたのは意外にもヒロだった。「ここまで来たらもう引き返せないんだよ。僕らは運命共同体。ここで抜けるのは僕らに対する裏切り行為だ。それが分かってる?」

 いつも前髪で隠れているヒロの目が髪の隙間から覗かれた。それはまるで獲物を逃がさんとする肉食獣のようにも見え、タカシは委縮する。

「あ、ああ、分かってるよ。少し魔がさしただけだ。大丈夫だ。ごめん」

「わかればいい」

「おいおいどうしたよ、ヒロ。いつになく凄んでるじゃないか」

「別にそんなことはないよ。……じゃあそろそろ僕は行くね」

 そう言うとヒロは屋上へと続く階段を上がっていった。それを見送った後、二人は六年三組の教室へと歩を進めた。

「ほんとに鈴村は来てるのか?」並走しながらタカシはケンジに訊いた。

「ああ、来てるはずだ。昼休みに『放課後、相談したいことがあるから一人で教室に来て』って伝えたからな。見たところ鈴村の生徒への愛情はひとしおだ。そんな可愛い生徒に頼りにされて約束を無下にするなんてあるわけがない」

「……可愛い生徒ねー」

 タカシは長年連れ添って来たケンジの風貌を下から上まで矯めつ眇めつみたが可愛いという要素を一縷も見つけることができなかった。

「さぁ、そろそろだ」

 前方には毎日世話になっている六年三組の教室が見えてきた。

 それを確認してケンジはタカシの耳元に顔をよせる。

「いいか、できるだけ焦った感じで教室に入るんだ」

「分かってるよ」

「じゃあ、行くぞ」

 それを合図に二人は廊下を走り出し、その勢いに任せて六年三組の教室のドアを開け放った。

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裏教育委員会 いしずか にゃお @cokurai

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