第3話


生徒をターゲットにすることに飽きを見せていたケンジが次に目を付けたのは生徒たちにとって絶対的な存在であるはずの先生だった。

「はぁ? ちょっと待てよ。前もそんなこと言ってたが、お前本気で言ってんのか?」ケンジの言葉を聞いて驚いたのは友達のタカシだった。

「当たり前だ。俺は嘘はつかない」

「いやその言葉がもう嘘だろうけど……。てかそんなことして何になんだよ?」

「お前だって心の底では思ってるんだろ? 我が物顔で俺らの前にふんぞり返ってる先公たちに一泡吹かせたいってよ?」ケンジは視線を移動させ、「なぁ、お前もそう思うだろ? ヒロ」

 その視線の先にはヒロが頬杖をついて座っていた。前髪が長く、いつも表情が読めないヒロはこういった会合ではオブサーバーに徹するが、今回ばかりは違った。

「まあ、いろいろうるさいしね、あいつら。でもどいつをやるんだ?」

「あいつだ、この前から教育実習に来てる女。名前は確か鈴村(すずむら)里香(りか)だっけ? あいつこの前俺に説教垂れやがってよ。マジでイラつくわ」

「そんなことでかよ」タカシは戸惑い気味に言った。

「そんなことってなんだよ。俺はマジなんだよ。一回、痛い目見せないと分かんねぇんだよ、ああいう若造は」

「いやお前の方が若造だろ」

「ま、理由はどうあれ僕は賛成かな」ヒロが他人事のようなトーンで言う。「先生がターゲットは初だからちょっと興味あるかも」

「よし、これで二票入ったな。タカシは強制的に参加だかんな」

「マジかよ……」

昔から三人は仲が良かった。低学年の頃は互いの家を行き来してゲームをしたり、公園で鬼ごっこをしたりと子供らしい遊びに精を出していたが、六年生になった今ではこのように誰もいなくなった放課後の教室で密談をして誰を嵌めるかを決めるのが日課となっていた。

そして今回ターゲットとして引き合いに出されたのはまさかの先生、それも教育実習生という若い女教師だった。確かに前々から先生を嵌めたいとのたまっていたが、タカシはこの発言に驚いていた。いや恐怖していたと言う方が正しいかもしれない。

果たしてそこに手を出してよいものか。パンドラの箱ではないのだろうか。

タカシはあらゆるマイナスなイメージを想起していた。

しかし彼のそんな思いも意に介さずに目の前の二人はまるで昨日見たテレビの内容を話すかのように嬉々としてその下剋上計画を練っていった。


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