花なんか好きじゃなかった

右左上左右右

(SSG)

花なんか別に好きじゃなかった。

ただ家から出れない妹の為に折り紙で花を折った。妹は歩く事も大きくなる事も無く布団の中から「おにい」と僕を呼んだ。

高等学校へ進学し家を出なければいけない日、妹に毎日折り紙の花を贈る事を約束した。

高等学校は楽しかった。こんなに開放的なのは初めてだった。妹が疎ましく、花は折らなくなった。3年間、一度も家に帰る事なく、卒業を迎えた。

三年ぶりの我が家へ帰宅し妹の部屋へ向かう。妹は其処に居た。何も変わらぬ布団に横たわり、幼いまま。


人形が、そこに、あった。


父母を問い詰める。妹は何処かと。父母は静かに話した。

幼い頃、死んだ妹を離さなかった事。泣き疲れた僕の手に人形を抱かせ、妹を荼毘に付した事。人形を妹と呼び始めた事。

思い出した。


僕が、妹を死なせてしまった。


妹はもういない。


いくつかの滴が畳を音を立てて叩く。


濡れた睫毛がゆっくりと下を向いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

花なんか好きじゃなかった 右左上左右右 @usagamisousuke

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る