第2話 トラママ

「あーもう!ベーって!」


天音あまねは焦っていた。

荷物の受け渡し時間が迫っていたからである。

先方から今日中に届けるようにと言われたのに、高速のサービスエリアでうっかり寝過ごしてしまったのだった。


天音はトラック運転手だ。

事の成り行きは、大学を中退してシングルマザーとして息子を育てると決めた時、トラック運転手だった父が他界したのが始まりだった。


父はヘビースモーカーではあったが、どちらかというと健康には気を使つけていた方だった。

毎年人間ドッグで検査を受けてはいたが


「どうせワイは肺で死ぬやろ。」

と決めつけ、首から下しか調べていなかったのだ。


ある日

「視界がおかしい、右下が見えん。」


と言い始め、すぐに眼科に行ったが脳外科に回された。

診断結果は脳腫瘍だった。


摘出手術を受けたが、脳の一部を取ったことで日常生活が困難になった。

具体的には数字に関係することと、家族以外の人間の顔を認識することが困難になったのだ。


それでも母の献身的な介護を受けて、少しづつ良くなって来てはいたのだが、

ある日シングルマザーとして一人で子供を育てること、大学を辞めることを報告


その結果烈火の如く怒らせてしまった。

頭に血を登らせた父は、一気に脳にダメージを受けてしまい、


ボケた。


再び父を見舞った時に、

「どちらさんでしたかね?」

と言われた時は、ショックで涙も出なかったのを覚えている。


そんな父が遺したトラックを、母は


「お父さんにトドメを刺した、あんたがどうにかしなさい。」


と押し付けたのだ。

なぜ?とも思ったが、デコデコにデコレーションされたトラックは車体の側面に「娘命」と書かれ、幼い頃の自分の似顔絵が描かれていたのもあるかもしれない。


以来、天音はトラック野郎やろうならぬ、トラック女郎めろうに転職したのであった。


(でも、今時女郎めろうってないっしょ!差別っぽい?気がするし〜?トラックママだから、トラママじゃね!?)

以来トラックママを自称しているが、聞かれた方は皆「?」であった。

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