トラックママ、異世界爆走

うおぞう

第1話 ある男の話

太陽が沈んで、東から夜の帳が降り始める。

西の空はまだオレンジ色に輝いているが、もう間もなく夜空が空を覆い尽くそうとする。


東京都立川市の公園近くの道路を、一人の禿げた中年男がふらふらと歩いていた。


灰色に変色したタンクトップに短パン、サンダル姿のだらしない格好は、通り過ぎる人から奇異の目を向けられていた。

口からよだれを垂らしながら、ぶつぶつと聞き取れない独り言をつぶやく小太り男。


何事かと気にはなりながらも、関わりになるのを恐れて誰も彼に声をかけるものは居なかった。


「だめだ…もう、おしまいだ…。」


男は料理長として長年勤めたレストランから、料理の試作と称して食材を横領していたのがばれた。


そこまでならまだ良かったのだが、部下へ無理な要求を押し付け、

課題をクリアできない時は ペナルティと称して、金品を貢がせていたこともバレてしまっていた。


結果クビである。


さらにアルバイトの女性と不倫関係になって事まで明るみになり、妻と娘にマンションから安アパートに叩き出された。


その際、離婚届に判子を押させられたので、裁判所から結果通知が来るのも時間の問題である。


ここ10年ほどは、全て部下に調理をさせていたので料理の腕はめっきり落ちて、そのせいで何度新しい職場に勤めても役に立てずに首になり、最初は心配してくれていた不倫相手もいつの間にか連絡が取れなくなっていた。


貯金を切り崩しながら細々と生活していたが、ついに残高が底をつき、ライフラインが止められてもう一週間が経過していた。


「もうおしまいだ…。」


先程と同じことをつぶやいた男は誘われるように車道へと足をむけ、その濁った目で近づいてくるトラックを見つめていた。



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