第16話 トレーニングウェアを用意しよう

 俺とティナさんは、案の定急に降って湧いた休日を持て余していた5人とセシリアに声をかけて大浴場の掃除を行った。

 こちらの世界でのお湯のため方は簡単で、魔道具を使えば万事解決。お湯の温度も自由自在だからもとの世界より便利だ。


「はぁー、気持ちいいですねぇ。こんなに気持ちいいんなら毎日入るのもいいですね」


 風呂掃除で汗をかいたので夕食前に入浴すると、ガリガリなアルフ君が頬を赤らめ蕩けた表情で口を開くと、他の子達もそれに同意する。


「そうだろう?今日はこんな時間に入っているけれど、通常なら寝る90分くらい前に入るといいよ。そうすれば」


「おーい、こっちにも聞こえるようにもうちょっと大きい声で話してくれー」


 ティナさんからクレームが入る。女湯にも筒抜けなのか……変なこと言わなくてよかった。


「了解でーす!入浴をすると体が温まるよね?そのとき体の表面、皮膚温度だけじゃなくて、中の方の体温、深部体温も上がっているんだ。起きているときには深部体温の方が皮膚温度よりも2度くらいは高くなっているんだけど、この差を縮めることで眠りに入りやすくなるって言われている。じゃあどうやってその差を縮めるかっていうことなんだけど、その方法こそが入浴なんだよ。ティナさん聞こえてますかー?」


 俺が一呼吸おくためにティナさんに呼び掛けると、続けてくれと返答される。周りの子達もついてこれてるみたいだから大丈夫そうだ。


「深部体温っていうのは上がったら、その分下がろうとする性質があるんだ。つまり一度入浴によって深部体温を上げておくと、入浴しなかったときよりも大きく深部体温が下がる。そうすると皮膚温度と深部体温の差が縮まって、眠りに入ることが容易になるんだよ。ちなみに温度は40度程度にしておいてね。それより高いと交感神経が優位になってしまって……要するに熱いお湯だと目が覚めちゃうから気を付けてね」


 風呂場での講義はこれにてお開きとなった。時間もちょうど15分くらい。長風呂はあまり良くないからこれで十分です。

 俺たちはみんなで食堂に行く。今日から卵と猪肉が材料に加わるから、5人の反応が今から楽しみだ。


「うわ!肉と卵?なんで今日はこんなに豪華なんだよ!?」


 俺たちの前に並んでいる料理を確認すると、猪の肉はスープに入れて、卵はスクランブルエッグにしたみたいだ。なんだか朝御飯みたいだなって思ったけど、黄身と白身をみんな平等にって考えたらそれがいいのかも。そして期待を裏切ることなく、太っちょのベート君が嬉しそうな声をあげてくれる。まあ君はそう言ってくれると思ったよ。でも他の四人も目をキラキラさせているから、気持ちは一緒みたいだ。


「ゴウさん、これってもしかしてゴウさんのおかげですか?」


 ガルム君が耳をピョコピョコ動かしながら聞いてくるので、俺は見栄を張りたい気分になるが、それを何とか捩じ伏せて正直に答える。


「ほとんどティナさんのおかげだよ。これからはちゃんとした食事をして、トレーニング方法も理にかなったものにしていく。だから信じてついてきてもらえるとありがたいかな」


「「「「「はい」」」」」


「うん、じゃあ冷めないうちに食べちゃおう」


 その後は栄養の取り方などを交えながら食事を進める。別に全部を全部覚えろっていう訳じゃない。少しでもそういう知識があるのと無いのとでは、積み重ねたときに大きな差が出てくる。食事なんてその最たるもの。一日三回取るものを漫然とこなすのか、そうでないか。これから体を作る彼らにとってはとても大事なことだ。

 幸いなことに、5人は興味津々といった様子で色々と質問しながら聞いてくれたので、きっとその重要さを理解してくれたんだと思っておこう。



 翌日、俺とティナさんは昼食を終えると、訓練前の腹ごなしに町へ散歩に出掛けることにした。

 ティナさんは相変わらずおしゃれな感じではなく、動きやすさ重視のパンツスタイルだ。まあデートって訳じゃないから、別にいいんだけど。


「ティナさんってスカートとか履かないんですか?」


「む?スカートか、まだ騎士団に入団する前には履かされていたな。あれは動きにくかろう?」


「そう言われても掃いたこと無いのであれですが……まあ確かにパンツの方が動きやすいんでしょうね」


 ちなみにセシリアなんかはいつもスカートを履いている。というよりも女性でパンツスタイルなのはかなり珍しく、町を見渡しても滅多にお目にかかることはない。女性の場合は冒険者だってスカートの人が多いんだから、よく分からない世界だと思う。


「でも服装は大事だよね、あの子達ももっと動きやすい服装があればいいんだけど。あれってその辺の人が普通に生活してるときに着る服だよね?」


「しかしこちらではあれが一般的だぞ?確かにゴウが着ているそれは動きやすそうだがな」


 ティナさんはそう言って俺の着ているジャージに触れる。ポリエステルを使うようなジャージは難しいかもしれないけれど、綿のやつならいけるかな?スウェットなら、たしか綿100%のものもあるくらいだし。


「ティナさん、綿を売ってるとこってないかな?」


「綿か……それなら」


 ティナさんが俺を連れていってくれたのは普通の服屋さん。あ、もしかして一つ一つ手作りなのかな?


「基本的には注文を受けて作ることが多いからな。こういうところなら材料は普通に置いてある」


「そうなんですね、じゃあ綿を買ってきます!」


 俺は5人分のTシャツとスウェット上下を3枚ずつ作れるくらいの綿を購入して、早速ギルドに持ち帰ると創造魔法でスウェットを作っていく。

 そんな俺を見ながら、ティナさんが少し言いづらそうに希望を口にする。


「も、もし良かったらなんだが……私にも作ってもらえないだろうか?」


「あ、そうだよね?ティナさんの分考えてなかった!ごめんごめん、明日また買ってくるよ」


「あ、ああ。よろしく頼む」


 嬉しそうに微笑むティナさん。でもこれだけだと女性にあげるプレゼントとしては色気が無さすぎるかな……ティナさんにはかなりお世話になってるし、ちょっと服屋の店員さんに相談して、良さそうなものでも見繕ってもらおう。


 14時になって訓練の開始時間になると、5人は遅れずにやって来た。5人には先にスウェットを渡しておいたから着替えているけれど、サイズも問題ないみたいだ。


「これすごいですね、めちゃくちゃ動きやすいです!」


「うん、いい感じに伸びるから動きが邪魔されない」


 5人が口々に着心地を誉めてくれる。ポリエステル無しでも何とか大丈夫そうだ。

 さて、アクティブレストの効果を確認しないと。


「ところで5人とも体調はどう?見た感じは元気そうに見えるけど」


「はい!久しぶりにゆっくり寝ることができました。最近疲れているはずなのになんだか眠れなかったんですけど」


 アルフ君が答える。受け答えはこの子とベート君がしてくれることが多い。


「君たちの場合、ずっと休みなく訓練が続くことによって、強いストレスを感じていたはずなんだ。そうすると脳内の神経伝達物質であるセロトニンが減少する。その結果、気分が落ち込んだり、不眠とかになってしまうんだ。そしてアクティブレストは、不足したセロトニンを増加させることができるんだよ」


「はー、だから休みだけど、体は動かすように言っていたんですね……」


 ベート君が感嘆の声を漏らすと、他の四人もそれに同意する。


 さて、5人の体調もバッチリみたいだし、ぼちぼち始めますか!


※あとがき


今回はちょっとカバーしきれなかった入浴の効果と、

アクティブレストの効果を補足してみました。


あとトレーニングウェアですが、

バーベルを用いた筋トレをするので綿100%にしています

ポリエステルでもダメではないのですが、

ベンチプレスやスクワットのときに

ちょっと滑ったりするので綿の方が望ましいかなと思います

あとパンツは伸縮性のあるものにしましょう

私も何度かスクワット中に破れたことがあります……

ちなみにゴウの作ったスウェットにはゴムも使われていますがその辺りは割愛してます

もうちょっと更新頻度上げたいな……頑張ります!

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