第15話 器具を作ってみよう
トレーニングルームに着くと、俺は早速作業に取りかかる。
まずは一番の大物である、パワーラックから設置する。ハーフラックやコンボラックでもいいかなって思ったけど、やっぱり安全第一ということでパワーラック一択だ。
まあ俺はパワーラックで事故ってこっちに来たんだけど……数は10台もあれば十分かな?
あとは各ラックにベンチを設置して、スクワットとベンチプレスで使えるようにすればいいか。
イメージはアメリカで一般的な穴が一杯開いていて、セーフティやJカップ(バーベルをのせるところ)の細かい調節が可能なやつ。R○GUEとか○merican barbellみたいなやつね。
これは嫌って言うほど見てきているし、構造自体も簡単なので容易に作ることが出来た。
次はバーベル。全長220cm、重さ20kgのタイプでセンターローレット有り。もちろん81cmラインもつける。スリーブ部分はベアリングではなくブッシング。ゆくゆくクリーンやスナッチをするようになればベアリングタイプも作るが、とりあえず今はBIG3を中心にするつもりなのでブッシングの方が都合がいい。
続いてプレートを作る。重量は軽い方から0.5、1、1.25、2、2.5、5、10、15、20、25kgを準備する。5kg以上は持ち手があった方が便利なのでつけておく。
最後にダンベル。1kgから10kgまでは1kgピッチ。それ以上は2kgピッチでとりあえず60kgまで作っておく。
それにしても創造魔法で作ったら、寸分違わず作れるし、重量もピッタリなんだよね。超絶便利なチート魔法ですよ、これは。
まあ全て鉄っていうところで錆や強度が心配になるけれど、作り直すのは容易なので、メンテナンスはこまめにすればいいだろう。
ティナさんは次々と作られていく見慣れない器具に、興味津々といった感じだ。
「この鉄の骨組みはなんだ?どうやって使うんだ?」
「これはスクワットの為のものだね。明日からは重りを担いでやってもらうから」
「重りを担ぐことに意味があるのか?そのままやればいいだろう」
「あー、その辺りは明日あの子達にも一緒に説明するよ。きっとティナさんにも役立つと思うよ」
ティナさんに聞いてみたら、この世界にはバーベルとかが無いらしい。正直意外だ。元の世界ではダンベルは古代ローマの時代にもあったっていう説もあるくらいだから、この世界にあってもおかしくないんだけど。
その分、筋トレは自重トレーニングで十分といった考え方や、戦いで使う筋肉は戦いの中で鍛えるみたいな信仰がある。まあそれが完全に間違っているなんて言わないけどね。実際元の世界でもそういうことを言う指導者はいたし。
「とりあえず明日の筋トレは、まず講義からスタートしないといけないね。きちんと理解してもらわないといけないことが多いから」
「それは構わんが、訓練の順番はどういう風にするつもりなんだ?」
「基本的には戦闘訓練を先にしてもらおうかなと思ってるんだ。今日のあの子達を見る限り、あんなにヘロヘロな状態じゃ、きっと今までもまともな訓練になっていなかっただろうからね」
これは昨日の訓練の様子を見てすぐに決めていた。
現状、残念ながら彼らに戦闘技術は全く無いと言っていい。でもそれは彼らが悪い訳じゃない。教え方が悪いんだ。
そして自分から言い出したことながら、三ヶ月という短い期間で結果を出すために優先すべきは技術の習得だ。体作りに関しては、じっくりとやっていくしかない。何より、筋トレで疲労した状態では、満足な戦闘訓練が出来ないのは明らかなのだから。
「そうか、戦闘訓練は私が自由に進めていいんだな?」
「うん、基本的にはそれで構わないよ。ただし体を疲労させることよりも、技術の習得を最優先してね。間違っても最初に十キロも走らせるなんてことは無いようにしてよ?」
俺の言葉にティナさんはあからさまに不満げな顔を見せる。
「なぜ最初に走らせるのが良くないんだ?昨日も言ったが、騎士団でも当たり前のことだぞ?」
さて、どう説明したものかな。
「うーん……じゃあ聞くけど、最初に走るのは何のため?」
「決まっているだろう。体力をつけるためだ、戦闘中に動けなくなっては元も子もない」
「そう、その認識がまず間違っているんだよ。俺は戦闘技術の習得を最優先にしてくれって言ったよね?」
「ああ、言ったな」
「それなら元気な状態で戦闘訓練をするのと、疲れきった状態で戦闘訓練をすること、どっちが技術の習得に効率がいいと思う?」
「それは……元気な状態だろうな」
「うん、それならもう答えは出てるよね?」
「し、しかし戦闘は疲労状態でも起こる。いくら疲れているからと言っても、相手は待ってくれないぞ?疲労状態での戦闘訓練も必要だろう?」
「それはそうだね。俺も賛成。でもそれはきちんと技術がある人が進むべき段階だよ?疲れた状態でもきちんと基礎を怠ること無く動けるようにってね。基礎すら出来ていない子達がそれをしたらどうなると思う?」
「……まともな訓練にならんだろうな……」
「そう、それが昨日のギルマスの訓練。はっきり言って体力作りなんて訓練の最後に走ったって、効果は変わらないんだ。初っぱなにガンガン走る意味なんて、少なくとも見習いのうちは無いと思うよ。だから最初は体を暖める程度、ゆっくり五周位走ってもらえばいいんじゃないかな?」
「……確かに言っていることは理解できる。まあ今回はゴウが主導してやるわけだからな、私はその方針に従うよ」
「ありがと!じゃあ明日からよろしくね」
「ああ、よろしく頼む」
※あとがき
とりあえず週一更新は目指して今後も毎週月曜には更新します
余裕があれば他の日にも更新していきます
さてさて今回本編では筋トレの器具を作っていましたが
あとがきでは筋トレの是非とフリーウエイト、マシントレーニングについてちょっと考えてみます
よく使える筋肉、使えない筋肉という議論が起こったりしますが
結論から言いますと、使えない筋肉というのはないです
たとえば見映え重視の筋肉はコンテストでは使えますよね?
でもスポーツの場面でそれがすべて役に立つかというとそうではないです
結局のところ、目的の違いによって使える使えないと言っているに過ぎません
とはいえどんなスポーツでもある程度使える鍛え方
それがフリーウエイトでのトレーニングになります
一般的にフリーウエイトで有名な種目と言えばBIG3
・ベンチプレス
・スクワット
・デッドリフト
この3種目になります
デッドリフトの代わりにクイックリフトなどを入れたりもしますけどね
この3種目をやることのメリット
それは全身の筋肉を満遍なく鍛えることが出来るということです
対してマシンを用いたトレーニングはターゲットだけを鍛えるという特徴があります
それはメリットでもありデメリットでもあります
特定のターゲットのみに絞ってトレーニングする場合、マシントレーニングは非常に有用と言えます
一方で、身体の連動性を意識した場合、マシントレーニングは軌道が決まっているため、どうしても不自然なものになりやすいです
対してフリーウエイトトレーニングは、軌道が定まっていないこともあり、身体の連動性や動作を安定させるための筋肉を動員しやすいとされています
ではどちらがスポーツや戦闘で役に立つのか
それはやはり後者でしょう
体を動かすときに、自分ではなくマシンに軌道を決めてもらうのは極めて不自然です
つまりアプローチとしてはフリーウエイトで地道に体を大きくしながら、技術の習得も進めていく
これが現時点で考えられる最良のアプローチ方法でないかと思います
とりあえず今回はここまでです
この件は結構根深いので、今後も私なりの解説を交えて説明していきたいと思います
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