第14話 PFCバランス

「な、な、な、何を考えているんですか!?コカトリスを飼うですって?そんなこと出来るわけないでしょう?そこの行き遅れもなんで何も言わないのよ!!!胸ばっかりに栄養がいって頭に回ってないんじゃないの?」


 うん、こうなることは分かっていたよ?ごめんねティナさん、完全にとばっちりですね。あ、ダメですよ?怒っては……

 俺とティナさんはコカトリス五匹を連れて訓練場にいる。メアさんはそれはもうお怒りですよ。まあいきなり危険な魔物を連れてきたんですから気持ちは良く分かります。

 実際、町に入るのさえもコカトリスをテイムしていると証明しても一苦労でしたし。でも俺としてはとってもいい考えだと思うんだけどね。


「メアさん、言いたいことは良く分かります。しかしですね、俺はコカトリスと話が出来るんですよ!」


「何を訳の分からないことをおっしゃっているんですか?頭大丈夫ですか?」


 おおっと、どストレートな暴言ですね、これは。


「いいでしょう、では証明して見せます!」


 俺はコカトリスに指示を出すと、訓練場を走らせたり、ジャンプさせたり、踊らせたりする。冗談で言ってみたんだけど、蛇の尻尾を器用に使ってブレイクダンスを踊るコカトリスはシュールでした。


「どうですかメアさん?」


「むむ、確かにゴウさんの言うことは聞いていますね……ですが!もし暴れだしたりしたらどうするんですか!?」


 うん、確かにそれは気になるところだよね。でも心配ご無用、ちゃんと考えています。


「屋上に鉄でコカトリスの檻を作りますので大丈夫ですよ。それにこいつら飛べないんで、屋上から落ちたら死にます」


 ギルドの建物は三階建てながら、各階とも天井の高さが五メートルあるので、高さは十五メートル以上だ。落ちればコカトリスと言えどタダでは済まない。

 それに鉄鉱石は十分すぎるほどに貰えたので、材料の心配は全く無い。


「もしコカトリスを飼うことができれば、ギルドの食事が大きく改善できるんです。今の食事ではカロリーがそもそも足りていないのに加えて、PFCバランスが体作りに向いていません」


「カロリーというのは確か食物からとることが出来て、体を動かしたりするのに必要なモノ、だったか?ならばPFCバランスとはなんだ?」


 ティナさんは合間合間にいろんなことを質問してくるから、どんどん知識を吸収してるなぁ。


「まあカロリーを正確に言うとそのモノ、つまり熱量を表す単位だけどね。それでPFCバランスっていうのは生物が生きていく上で必要な三大栄養素、つまりProtein(タンパク質)、Fat(脂質)、Carbohydrate(炭水化物)の比率のこと。ちなみに体作りに向いている比率はPFCを4:2:4って言われているね」


「それでギルドの食事の栄養バランスはどうでしょうか?」


 お、メアさんもちょっと食いついてきたね。


「そうですね、じゃあ少し突っ込んで栄養の説明をしますね。栄養を考える上で重要になってくるのは、先程挙げた三つにビタミンとミネラルを追加した五大栄養素です。正直に言ってタンパク質の量がかなり少ないと思います。炭水化物は黒パンで摂取できていますから、何とか動くことはできていますけどね。それに黒パンにはミネラルも豊富に含まれていますし、野菜はスープで摂れているのでビタミンもある程度は心配要らないかと。そこで今日狩ってきたキラーボアの肉と、コカトリスの卵をいつも出すようにすれば、かなりバランスは改善できると思います。あ、ちなみにタンパク質が多い食品というのは肉や魚、卵、豆、乳製品です。最後に脂質に関してはそこまで気にしなくても、肉を食べるようになればちょうどいいバランスになるかと思います。冒険者という職業柄、ある程度脂肪もあった方がいいと思いますしね」


 ついつい早口で捲し立ててしまったが大丈夫だろうか?ちょっとメアさんがついてこれているのかが気になるけど。


「メア、ゴウは食事を改善することでギルドに活気を戻したいとも考えている。何とか協力してやってくれ」


 ティナさんがメアさんにお願いするなんて……そこまでしてもらっていいんだろうか。俺が無理矢理巻き込んだようなものなのに。


「……確かにコカトリスの卵が出る食堂ともなれば、またギルドに登録する冒険者が増えるかもしれませんね……分かりました、その代わり管理はきちんとしてくださいね!」


「はい、ありがとうございます!」


 俺とティナさんはコカトリスを連れて、俺たちの部屋がある建物の屋上に行き、早速鉄鉱石から生成した鉄で檻を作る。


「どう?こんなもんでいい?」


 出来上がった檻は屋上全体を囲み、高さは五メートルほどある。要するにもう一階増築したようなものだ。


『十分や、ほんならキラーボアを一匹もろうてええか?』


「小分けにしなくていいのか?」


『ワイらは一度腹一杯食うたら、一ヶ月は食わんで済むんや』


 はえー、便利。そういや肉食獣も毎日食べる訳じゃ無いんだっけ?


「じゃあ次はまた一ヶ月後だな、卵は毎朝産むのか?」


『せやな、毎朝取りに来てくれればええわ』


 よし、コカトリスの件はこれで片付いた。次はトレーニングルームの器具だな。マシンは正確な構造が分からないから、とりあえずバーベル、ダンベル、パワーラックがあればいいだろう。あとはベンチ台もいるか……ってことは革と木材もいるね。


「ゴウ、楽しそうだな?」


「え?そうかな?」


「ああ、そう見える」


 そっか……確かに楽しいかもしれない。こっちの世界では出来なかったことがたくさん出来る。それに元の世界じゃトレーニング、特に筋トレの扱いなんて所詮趣味だっだし、意味がない、無駄とも言われた。

 だけどあの五人にとっては、俺の指導が紛れもなく生きるために大きな意味を持つ。やりがいを感じないわけがないんだよね。


「うん、確かに楽しいね。そうだ、ティナさん、さっきはメアさんにお願いしてくれてありがとう」


「気にするな、私もここを立て直すのは面白そうだと思ってきたところだからな」


 そう言って笑うティナさんの横顔はとても美しくて、思わず見惚れてしまった。



※あとがき


今回あとがきが長くなりました。興味のある方はご一読ください。


ということで本編にさらっとPFCバランスの説明を入れました

通常の人であればP:F:C=15:25:60 くらいです

トレーニーならばP:F:C=4:2:4 と言われています

ですがPFCバランスはあくまでざっくりとした目安です

個人的にはC(炭水化物)は必要タンパク質量から算出した方がいいかなと思います

また一般的に筋力トレーニングをしている人は

体重×1.5~2(g)のタンパク質が必要と言われております

例えば体重70kgであれば105~140(g)といった具合ですね


さてそれでは実際に接種するべきカロリーを見ていきます

まず大前提として1gあたりのカロリーですが


P(タンパク質)=4kcal

F(脂肪)=9kcal

C(炭水化物)=4kcal


となっております。そりゃあ脂肪たくさん摂ったら太りますね


では例として年齢30歳、身長170cm、体重70kg、体脂肪率10%の人で見てみましょう

まず必要となるのは基礎代謝がどれくらいかということ


特に運動をしていない人であれば、ハリスベネディクトの式(日本式)


男性:66+13.7×70kg+5.0×170cm-6.8×30歳

女性:665.1+9.6×70kg+1.7×170cm-7.0×30歳


運動している人では国立スポーツ科学センターの式


基礎代謝量=28.5×除脂肪体重


この例の場合体脂肪の量は7kg、除脂肪体重は63kgとなります


このお話の場合、みんな運動してるので国立スポーツ科学センターの式を採用します。


つまり基礎代謝は 28.5×63=1795.5kcal となります


つぎにこの数値に活動レベルに応じた係数をかけていきます


ゴロゴロしている人=1.3

事務職や主婦=1.5

接客業や営業職=1.7

現場仕事=1.9


トレーニングしてる冒険者なら当然1.9ですね


つまり一日に必要なカロリーは 1795.5×1.9=3411.5 となります

多いなーって思われるかもしれませんが、現場仕事の方はこれくらい摂っているんじゃないでしょうか?


さて、つぎに必要なタンパク質量を体重×2(g)とします

となると 70×2=140(g)

これにタンパク質1gあたりのカロリー(4kcal)をかけてやります

つまり 140×4=560kcal をタンパク質で摂取します


次に脂質ですがこれは大体タンパク質と同等のカロリーでいいです

なのでこのまま560kcal、グラム表記では560÷9=62(g)くらいですね


そして残ったカロリー 3411.5-560-560=2291.5kcalを炭水化物で摂取することになります

グラム表記では 2291.5÷4=573(g)ですね

ちなみにご飯一合が300~350gです


まあこんな感じで必要なカロリーとPFCの量を割り出せます

そしてこれはあくまでも計算です

算出したら、そのカロリーを摂取しながら一週間くらい体重の増減を見てみましょう

体重が増えていくなら算出したカロリーが多い、減っていくなら算出したカロリーが少ないということになります

そうして日々の変化を追うことで、自分の大体の一日の消費カロリーが見えてくるでしょう

ただし摂取カロリーを減らす場合には、タンパク質は減らさないように気を付けてください

なるべく炭水化物の量で調整するのが望ましいです

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る